第06話 ~情報整理と動乱の予兆~
「竜の旦那が勧誘されるわ滅びの獣が接触してくるやらか、そんな事になっとるとはなぁ…」
「流石に傲慢へ即答は出来なかったので、こうして戻ってきました。相談もしたかったですし…」
僕達三人は、あの後結局の所即答を避けた。
あの時点で持ち帰るべき情報は多かったし、関屋さんへの相談や傲慢からの情報の裏取りをしたかったのだ。
そして、いくつかの小細工をした後、こうしてマイフィールドまで戻り、関屋さんも交えて今後について相談することにしたのだった。
「で、本気か? 竜の旦那を将軍として差し出すって?」
「情報源として貴重ですからね…背に腹は代えられません」
「それにしちゃぁ、ここに竜の旦那も居るじゃねぇか?」
同時に、領主からのゼルの勧誘に関しては、受けることにした。
もちろん、そもそも腹芸や隠し事がいまいち苦手なゼルに潜入工作じみたことは任せられない事は判ってる。
そこは適材適所で代役を立てればいい訳で。
「関屋さんから貰ったアイテムに、召喚魔法のコスト軽減が可能な上位供物があったのを思い出しまして、上位鏡魔を呼び出して代わってもらいました」
「うちで作るアイテムも大概だと自覚してるつもりだが、お前さん所のモンスターの層の厚さも大概だな…」
「おかげで助かりました…それでも上級位階のモンスターは召喚コストがきつくて、即ホーリィさんの治療が必要でしたけど。危うく死に戻る所でした」
「危ないと思ってすぐ治療してよかったわ~。私もちょっと成長してたし聖なる幽霊のサポートがあったから何とかなったけどね」
「無茶しやがる…」
「それを3回もやったんだから本当にたまに向こう見ずよね、やっくんは」
「身代わりはきっちり三人分必要だったから仕方ないじゃないですか…」
「本当に無茶しやがる…」
今頃ゼルの実力の8割程度を再現した上位鏡魔が、将軍として仕え忠誠を捧げるとをフェルン候に宣誓していることだろう。
傲慢には、同盟として<大地喰らい>の核をどうするか方針を決めてから連絡すると伝えてある。
一応、上位鏡魔の召喚と入れかわりは一旦傲慢に席を外させてから行ったけれど、多分全て見抜かれているだろう予感もあった。
ただ、傲慢も急いではいなかったようで、僕たちの行動を止める気は無かったようだ。
それどころか、依頼の前払いと言って入れ替わった上位鏡魔のサポートを申し出てきていた。
どうにも怪しいのは確かなのだが、傲慢の思惑はどうあれ助かることは確かだったので、それに関しては受け入れておいた。
そうやって代役を立てた後は、常人には見えない聖なる幽霊やゼル直属の隠身蜥蜴人を連絡役として残し、<転移門の指輪>でこうして戻ってきていたのだ。
ほんのしばらくのゼヌート滞在で情報過多に溺れそうになっているけれども、抱えたままでいる訳にもいかない。
取り急ぎユニオンリングの機能で連絡を取り合った僕たちは、こうしてユニオンルームで顔を突き合わせているのだ。
ここに居るのは、僕とマリアベルにゲーゼルグ、ホーリィさんとお付きの神官達、関屋さんと職人の数人。
もっとも、プレイヤー以外の皆は発言を控えているみたいだけれど。
「まずは状況を整理するか。得られた情報と、その裏取りだな」
「まず一つ目は、成長促進剤の存在です。僕たち、これを完全に忘れてましたよね?」
「アレはプレイヤー間じゃ取引出来ない配布アイテムだったからなぁ…ウチの商店街にも在庫は無ぇし、仕方ねぇぞ」
「私ややっくんも、位階が高くて配布対象外だったから持ち合わせて無いのよね。有ればコンバートして下がった位階をある程度取り戻せるのに」
そうAE2に向けたコンバートで僕たちの位階は下がっているが、成長促進剤を、それがたとえ準上級に上がるモノだろうと得られれば、大きな戦力アップになるはずだ。
少なくとも、とっさに必要な召喚のコストで死にかけると言ったことも無くなるだろう。
だけど同時に、その存在そのものが大きな問題になる。
「俺から言わせれば、位階だけ上げて職人クラスが務まるわけが無ぇんだが、外の世界じゃ話は別か…確かに、位階だけ上げた奴が打った武器や防具でも、中級位階が精々の外の連中にとっては貴重だろうさ」
「生産も、農業とかも、位階補正でかなり効率上がるらしいものね」
「門が現れて10年ほどと聞きますけど、その間見つかった促進剤は、全て領主や貴族が独占しているのは確実でしょうね」
「そりゃ独占するだろうさ。今の俺たちだって欲しくなるような代物だからな。その上で、ご領主とやらが伝説級たぁ笑えねぇ」
外はてっきり滅びの獣のような例外を除いて、強さ的には大したことのない存在ばかりだろうと言う認識が、一気に崩れたことになる。
いつ伝説級の存在に出会うか判らなくなったのだ。
今回のフェルン侯爵は完全な敵対相手ではなかったから良かったものの、これから一体どうなるのか。
今まで僕が積極的に外に出ていたのも、外の世界にはそこまで深刻な相手が居ないだろうと高をくくっていた面があるのだ。
事ここに至って、コンバートで弱まった自分に改めて不安を感じてしまう。
「…率直に聞きますけれど、関屋さん、ジャンポの生成は可能ですか?」
「レシピがありゃぁ別だが、あの手の配布物は大概無理と相場は決まってる。うちの職人に研究させても構わんが、期待はするなよ?」
一旦はそれでいいと納得する。
同時に、機会があるなら僕達も外の門を更に探索すべきだろうとも思う。
以前<大地喰らい>と戦う前、ガーゼルの上空から偵察した際に見つけた僕たち以外の二つの『扉』に関しては、詳しい情報が得られていない。
田園地帯の村に現れた『門』と、北の峠に現れた『門』。
どちらも拠点にしたガーゼルから距離があったのと、フェルン領軍が早々に動いて何かがあったとしかわからなかったのだ。
どちらも既に周囲を領軍が固めているらしく、今まで情報収集を任せていた下級モンスターでは入り込めなかった為だ。
だけどこの状況の中では、コストを割り振ってでも高レベルモンスターの力を借りるべきかもしれない。
そう。滅びの獣について、少しわかった今だからこそ…
「二つ目は知性がある滅びの獣そのものからのアプローチ、とはな」
「傲慢が語ったことが全て真実と鵜呑みにはできませんでしたけど、裏取りできる情報はありましたよ」
「創造神アナザーアース…つまりMMO『Another Earth』そのものが意思と魂を持った、か。んで、七曜神と七大魔王へ権能の譲り渡しと来たもんだ。こいつはファンタジーな話なのかSF絡みなのかどっちなんだぁ?」
「死を前にしての生の自覚、そこからの自意思の目覚めによる自我の生成ねぇ…哲学じみてるわぁ」
「哲学めいた話は横に置くとして、取り急ぎ七曜神と七大魔王には聞き取り調査をここの達に頼んであります。結果は……ああ、今ここのとリムが聞き取りを終えてくれたみたいです」
ここのには七曜神達に、リムには七大魔王への聞き取りをお願いしていた。
その結果が出たみたいだ。
「皆様、ご報告致しますわ。確かに、七つの大罪を司る大魔王の皆、権能を譲り受けていたとのことです」
「妾が聞いたのも同様で御座いまする…七曜神は創造神から確かに権能を譲り受けていると…てっきり、主様はそれをご存じと思っていたと皆話しておいででした」
ん? どういう事だろう?
僕が知っていた?
「ええ、魔王達もそう思っていたと…先の7対の神魔の対談の席、あの場でミロードが望んだ事こそ、創造神より譲られた権能を十全に発揮せよとの命ではなかったのかと…そうルーフェルト等は首を傾げていましたわ」
いや、僕の意図としては、僕がマイフィールドの外に出た時に出来ないマイルーム内の調整を頼んだだけのつもりで…
「妾が陽光神から聞き及ぶところ、かつての世界としての機能を復元しているとか何とか…」
「そりゃあ凄いが、つまり一体どうなるってことだ?」
「世界の復元、なのかしらね?」
「それだと、傲慢とやらの言ってたことは全部本当だったってことか?」
「そこも今一怪しいのよねぇ…」
どうにも情報が大きすぎてどうにも話がまとまらない。だけど、とりあえず言えることは…
「それに情報が正しいからと言って、あの<大地喰らい>の核を渡すのはやっぱり怖いもの」
「同感だ」
そう、あれだけの力を持った<大地喰らい>の解放につながる要件は避けたいという事だ。
万が一アレを渡すことが正しいとしても、情報の精査なしに渡すような綱渡りは、曲がりなりにもユニオンのリーダーをしている以上、出来ないことだ。
「とりあえず、当面はもう少し情報を集めましょう。今度はもっと積極的に、僕のモンスターを活用して」
「それもそうだな。ああ、召喚コスト軽減が必要なら、装備品も良いのが作れるからちょいと待ってくれ」
「いっそレベリングしちゃう? もう少し位階を上げたら、もっと仲魔を呼ぶの楽になるでしょ? 確か、マイフィールド内の摸擬戦やフリーダンジョンでもレベリングできたわよね?」
ダンジョンを挑むならぜひ私達もお供に! と声を上げてくれるリム達が頼もしい。
確かに、色々動くにしても今現在の僕の地力が足りないせいで出来ないことが多すぎる。
促進剤が気軽に手に入らない以上、パワーレベリングをしてでもやれることを増やすのが必要かもしれない。
その後も、様々に僕たちは今後の方針を話し合う。
その中にはいくつも有効な案が出たのだが…状況は、悠長に僕達を待ってはくれていなかったんだ。
「む!……失礼を、皆様方。忍ばせておりました、隠身蜥蜴人より、お伝えしたいことが有ると」
静かに僕の後ろで控えていたゼルが、顔色を変える。
隠身蜥蜴人は、ゼル直属の配下として呼び出されているため、ゼルとは直接念話で会話できるのだけれど、どうやら知らせを受け取ったらしい。
「拙者の身代わりを得たフェルン候で御座るが、その宴の際に火急の知らせを受けている様子……ふむ、南方ナスルロンの諸侯が不穏な動きと…」
更に何事か報告を受けていたゼルは、詳しく状況を聞き終えると、僕達に一言告げた。
「つまり、戦に御座る」
後にフェルンの動乱と呼ばれる内乱が、迫ってきていたのだった。
しばらくは図鑑優先で更新していきたいと思います。
一応、新作も応援していただけると幸いです。
【1章 完】幻想世界のカードマスター ~元TCGプレイヤーは叡智の神のカード魔術のテスターに選ばれました~
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