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プロローグ 後 ~出立前夜~ ※プロット変更に伴い改稿

「そう、世界が滅びる前に、君たちがしていた事……世界の静と動、安定と変動の調整。それを、この世界でもしてほしいんだ」


 漠然とし過ぎた先の言葉を捕捉し、僕は言葉を連ねる。

 正直な所、この世界自体は、僕のマイフィールドであった状態そのものだ。

 気候やモンスターの分布、それらは僕の意識に浮かぶ情報ウィンドウ内の、マイフィールド操作コマンド等で詳しく調整できる。

 だがこのコマンドの類は、僕自身がマイフィールドに居ないとアクティブにならない事が判っている。

 外の世界で情報を収集している際に、いろいろ確かめてみた結果だ。

 他にも、色々と試してみた結果、マイフィールドの操作以外にも、外の世界では元々の『AE』で出来た事が幾つか出来なくなっている。

 これらは多分、外の世界がやはり『AE』とは別物だと言う証明なのだろう。

 そして、そんな世界を調べるには、どうしても時間がかかる。

 ましてや滅びの魔物などと相対するのに、マイフィールドの管理との両立は難しいだろうと判断したのだ。


「本来この世界の管理は、僕がしなければいけない事だと思う。だけど、外の世界の事は、僕が主に調べていく必要があると思うんだ。皆や他のモンスターに外の世界での事を任せ切るには、どうしても維持コストの面で難しいからね」


 だから、僕は外での問題に注力し、その代わりにこのマイフィールドの事を、この七対の神魔に任せる決心をしたのだった。

 この七対の神魔は設定上、『AE』では世界を光と闇の両面から支え、世界の調整を担う存在だった。

 適度な安定と混沌を調整することで、世界の活力と成長を促し、発展させる。七曜神がそれぞれの事象を調整し世界を安定させ、七つの大罪の魔王が、適度に世界を刺激する事で、停滞を防いできた。

 それと同じことを、この世界で行えば、プレイヤーが行うマイフィールドの調整と同等に近い管理が可能となるのではないか?

 今日この場で14柱の神魔を集めたのは、それを確認するためでもあった。

 もしそれが可能なら、僕は後顧の憂いなく外の世界の調査と、滅びの魔物に相対する事が出来るだろう。


「……言いたいことは解るが、コストを気にしてるだけなら、俺達が『外』とやらに出ても構わんのじゃないか? 手早くその魔獣どもを片付ければ、コストも大してかからずに済むはずだ」


 だが、火炎神のジャスマハードが疑問を投げかけてくる。

 その司る物と同様の苛烈な気性の彼にとっては、むしろ自分自身が滅びの魔獣を討ち滅ぼしたくあるのだろう。

 同様の意思を秘めた視線が僕にいくつも投げかけられるが、僕はゆっくりと首を振る。

 正直な所、その手を考えないわけではなかった。

 しかし、現段階でこの神々と魔王達を外に出すのは的確ではない。

 なぜなら……


「いや、皆、待ちたまえ。つまり、我が主ドミナスは、懸念しているのだよ。例の大地喰らいの核に起こった事象と同様の事が起きる懸念をな」


 何かに気付いたルーフェルトの言葉の通り、この七対の神魔は、滅びの魔獣達に力を与える可能性がある。

 今所在が多少なりとも判明している滅びの魔獣は、打ち倒された暴食を司る<大地喰らい>と、どちらがどちらかはわからないが、嫉妬と強欲を司る者のみ。

 残る滅びの魔獣は、どこに居るかもわからない状態だ。

 そして、滅びの魔獣は七つの大罪とそれに対応する七曜属性を取り込み力を増す。

 それは避けたかった。


「ふむ、なら吾輩や水流神ならば問題無いのでは?」


 声を上げたのは、今までひたすら自前の料理を平らげていた暴食の大魔王、グェルトゼバンだ。

 同様に、海洋と流水を司る水流神アル・ウェタティルトも頷く。

 確かに、暴食を司る滅びの魔獣、大地喰らいを封印している。

 ならば、それに対応する暴食の魔王と対応する七曜属性たる水を司る水流神ならば、外の世界で力を振るったとしても問題無いかもしれない。

 ただ、僕には懸念があった。


「まだ、それは気が早いと思うんだ。確かに大地喰らいは倒したけれど、あれが最後とは限らない。グェルトゼバン達が『外』に出た結果、新しい大地喰らいが生まれる可能性だってある」


 そう、そもそも、大地喰らいはどうしてこの付近に出現したのか?

 いまだ正確な理由ははっきりしていないが、僕は仮定を幾つか立てていた。

 その一つが、『僕達が外に出たから、大地喰らいが出現した』というものだ。

 いろいろ調べた結果、大地喰らいが出現したのは、僕達が『外』にでたその日の夜辺りだと言う事が判っている。

 あの時は、僕と、リムス、マリィ、ここのの4人が、『AE』世界の存在として初めて外に出た。伝説級:100という強大な力の持ち主が3体もだ。

 下手をすれば、下位神にさえ分類されかねない彼女達の存在が、世界を歪めた可能性は無いだろうか?

 そして、あの夜見た夢……あれは、大地喰らいの出現を幻視したのではないだろうか?

 断片となった事実を掻い摘んでみるほどに、僕達の存在があの滅びの魔獣を呼び出したように思えてくるのだ。

 そして……もしも、その仮定が今わかっている嫉妬と強欲の魔物にも当てはまっているとしたら?

 滅びの魔獣と、『AE』世界の存在が『外』に出る事が因果で結ばれているように、僕は感じられるのだ。


「……そういうのも含めて、今度の滅びの魔獣は、まず大きな力を持たない者だけで調査して、どう対処していくか決めようと思ってる。多分、僕はその対応でかかりきりになる。だから……」


 改めて、七対の神魔を見回す。


「この世界を、以前の世界と同じように、見守ってほしいんだ」




 数時間後、僕はまた人気の無くなった部屋を眺めていた。

 あの後、多少の紆余曲折はあったものの、僕の意思を皆汲んでくれた。

 『AE』の設定で示されたように、神々が秩序と安定を、魔が世界に適度な改変と刺激をもたらしていく。

 情報ウィンドウでマイフィールドの状況を確認すると、既にいくつかの項目は、僕が操作しないままに変動を開始している。

 何柱かの神々が、既に自身の役目を果たし始めているのだろう。

 これなら、後を任せても安心だろう。


「…………」


 ふと、背後からの視線を感じた。振り向くと、物憂げな表情のリムスティアが、僕を見つめていた。


「……不満そうだね」

「……ええ、その通りですわ。ご主人様ミロードのご命令とはいえ……私達が誰もお傍で御護りできないなんて。ゼルが羨ましいですわ…」


 彼女の言葉に、そういえばマリアベルや九乃葉も同じように説得に苦労したと思いだす。


 今度の調査は、唯一の例外を除いて、ごく少人数かつ、位階低い者ばかりで行う予定だ。

 具体的には、僕と先輩、そして低レベルモンスターの何体か。唯一の例外は、ゲーゼルグただ一人。

 つまりガーゼルの領主、フェルン候シュラートとの面談に向かうためだ。

 あくまでゲーゼルグが扮するのは流浪の傭兵であり、供を連れるとしても人数は限られる。それが僕とホーリィさん。

 低レベルモンスターは、偽装が可能なタイプで隠れて僕たちに付いて来て貰う事になっている。

 無論、マリアベル達は反対した。

 が、多少の危険は装備などの質で対応可能ではあるし、最悪の場合にはユニオンリングや転移門の指輪などを使用すれば、マイフィールドにすぐさま戻る事が可能だ。

 それらを示して説得し、ようやく渋々納得させたのが日中の話。

 唯一のゲーゼルグがあまり腹芸が出来ないのが難点だけれど、逆に言えば戦力としては申し分ないから何とか説得が通った形だ。

 ゲーゼルグには無数の嫉妬の視線が突き刺さっていたけれど、誇らしげに胸を張って平気そうにしていた。

 リムスティアも、一応は僕の意を飲んだけれど、完全には割り切れていないと言う事なのだろう。


「大丈夫だよ。関屋さんからは、緊急回避の指輪とかを譲ってもらえたし、本当に危なくなったら、皆を遠慮なく頼るから」


 <万魔の主>には、離れた場所のパーティ-モンスターを瞬時に身近に呼び寄せる、<緊急召喚>などといったスキルも存在する。

 その存在は、リムスティアも理解しているだろうけど、どうしても表情は晴れないみたいだ。


……これは、何か機嫌を取らないといけないかな?


 そんな事を考えながら、僕は外に視線を向ける。

 すっかり夜に染まった空に、無数の星が輝いている。


……そういえば、外の世界と星の並びは同じなんだよな……


 何度か見上げた『外』の夜空を思い出しながら、僕は明日からの調査の日を思った。 

21/11/03 プロット変更に伴い一部改稿

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