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第22話 ~何も無い一日~ ※プロット変更に伴い改稿

 東の山並みの向こうから、昇る朝日がヴェーチェの森を照らし出す。

 眩い光と穏やかな風が森を包む。まるで、昨夜の嵐のような出来事が無かったかのように。

 そう思わせる一因、森の木々に新たに加わった植物型モンスター達も、光を浴び嬉しそうに枝葉を揺らす。

 そんな光景を見る余裕も無く、仲間の維持コストの脱力感と疲労、更に睡魔で座り込む僕に、緑の髪と薄絹を纏った絶世の美女が語りかけてきた。


「ドミナス、皆驚いていますわ。こんな美味な光は味わったことが無いそうです」

「そう? ……ああ、ある意味天然ものの光を浴びるのは初めてなのか……」


 美味しい光ってどんな味なんだろう考えつつ、僕は語りかけてきた美女に朦朧と答えた。

 この美女の名は、ディーナス。

 あの凄惨な大地喰らいに因る喰い痕への対応の為、僕のマイフィールドから連れてきた<樹木乙女ドリアード>の一人だ。

 彼女達<樹木乙女>は、こうやって人の姿をとっているが、実際には樹木の精というべき存在だ。

 樹木を自由に操り、また水や土など魔法を使用する力を持つ彼女たちは、木々の声も聞き取ることができる。

 その力で、あの荒地にこうして緑を取り戻せていたのだけど、今後の事も含め成長促進剤やディーナス達の力を借りて無理矢理作った木々の苗を植えているうちに、結局朝になってしまっていた。

 この数日この身体で過ごしてみてわかった事だけど、実体を持ったせいか、疲労や睡眠欲などは普通に感じるらしい。

 つまり、徹夜してしまった今、さすがに辛くなってきたと言う事だ。

 既に、治癒魔法の使い過ぎでホーリィさんはダウンしているし、関屋さんも植物用成長促進剤を大量に作ったり運び入れたりしていたため、既に休んでいる。

 僕は植物型モンスター達の召喚や指示をギリギリまで続けたが、これも限界のようだ。

 朝日を浴びてまぶしいが、そろそろ休む必要があるだろう。


「ディーナス、僕は一旦万魔殿に戻るけど、皆はここで森の偽装をし続けるように伝えておいてほしい……あとこの森は一応伐採とかは禁じられてるらしいから、もし皆が誰かに攻撃されたなら、捕えて僕らに知らせてね?」

「わかりました、ドミナス」

「ああ、御主人様! こんなところで寝てはだめですわ! 今すぐに万魔殿にお連れしますから!」

「……あ~、うん、大丈夫、転移門の指輪位は発動できるから……」


 当面の最低限の事だけ伝えた僕は、まだ付き添ってくれていた仲間達と共に、転移門の指輪を発動させ万魔殿へと戻った。

 あぁ、眠い……とりあえず、今日は眠ろう。

 色々と気になることはある。あの滅びの魔獣の事、外とこの世界の事、今後の事。

 だけれども、今下手に何か考えようとしても頭が回らない。


「さて、主様がこうも眠そうなら、また妾がお傍で眠りを守らねばのう」

「九乃葉、貴女確かまだ門の祠の守備を命じられていたわよね? ほら、早くいきなさい。添い寝するのは、私に任せなさいって。ミロードの事は、現実でも夢の中でも私がお守りするから」

「ちょっとリムス、ズルいわ! 私だってご主人様の香りに包まれて眠りたいのに!」


 ああ、みんなが何か言い合ってるけど、何を言っているんだろう?

 良く判らないと言うか、認識しちゃいけないような危機感を感じる様な……とにかく、更に何か疲れが体に溜まって行くような感覚を覚えて睡魔が強くなる。


「貴様ら、お館様の前で……まったく、仕方ない。お館様、こちらへ……それと、我は御命の通りに、例の町にて傭兵の役を務めて参ります。あちらの事はお任せを。お目覚めになられましたら、またお呼びくだされ」

「うん、ありがと……」


 何だか言い争いを始めた3人をそのままに、ゼルが僕を背負うと、寝室まで運んでくれた。

 その後に、何か言われた様な気もするけど……だめだ、もう眠たくて……

 僕はドサリとベッドに倒れ込むと、そのまま目を閉じた。


「ふふふ、いい機会ね……今日こそ誰がご主人様にふさわしいか決着をつけましょう」

「望むところだわ。ミロードにふさわしいかはともかく、添い寝の権利は譲らないわ!」

「ほほほ、妾は添い寝経験済みゆえ一歩先を進んでいるようじゃ……主様の寝顔は可愛らしかったぞえ(ジュルリ)」

「「あんたって奴は~~!!」」


 遠くからの仲間の声と喧騒を子守唄代わりにして。


 ちなみに、夕方……僕が目を覚ますと、ベッドの周囲に生命力≪HP≫を赤く染め、気絶する三人の仲間を見つける事になるのだが……それは完全に別の話になるのだった。





「まったく、何でこんなに忙しいんだ……」


 旧ガーゼルの町役場にて、執政官のビョルンは、次々上がってくる報告に頭を抱えていた。

 ビョルンは、平穏無事を愛する男だ。野心などは無いため、豊かとは言え勢いのないこの旧ガーゼルに好んで赴任したのだが、ブリアンがやってきてからというもの、ビョルンの元には望む平和が訪れなくなって久しい。

 今も、例の光る門の多量発生という事態に無数の報告やトラブルが発生していた。

 まず、港地区の衛士長ブリアンからのモノ。

 昨日話に聞いた傭兵の件だ。

 なんでも、件の傭兵は、旅と一仕事した疲れから、今日は役場には来ないで終日寝ているらしい。

 賞金は明日受け取りに来るとの事で、資金のやりくりに猶予が出来たのはビョルンとしても有りがたい話だ。

 あの札付きのブリアンが脅威と言い切る傭兵を敵に回すのは、荒事が苦手なビョルンとしても避けたいところではある。

 故にそれはいいのだが、ブリアンから情報料を払えと言う催促が添えられていたのが最悪だ。

 とりあえず金庫番に書類はまわしておく。


 次に気になったのは、門番からの旅人達から聞いたと言う情報だ。

 なんでも北東の丘陵地が何者かに荒らされているらしい。

 詳細は不明だが、どうやら山賊辺りが不法に野の動物を狩ったらしい。そのついでなのか、岩肌をむき出しにするほど辺りを荒らした様な痕跡が残り、草原には土がむき出しになった場所が道のように伸びているとの事だ。

 山賊ならば昨日報告があったように、近隣の大きめの『隻眼狼』一味が件の傭兵の手で壊滅している。

 もし報告が正しければ、隻眼狼が討たれたことにより、山賊間の縄張り争いでも活発化した可能性が有る。

 もしかすると、街道を辿ってやってきた新たな賊かもしれない。

 これは早急に対策すべき問題だった。

 例の隻眼狼を討った傭兵に調査と依頼をかけるのもいいかもしれない。

 かの傭兵をブリアンが気にしてる以上、明日の賞金受け渡しには奴も同席する可能性は高い。

 いっそ、ブリアンも巻き込んで、一時的にでもまた町から離れるように出来たらビョルンとしても最上だと言える。


「だからと言って、どうやって言いくるめたものか……」


 粗野ながら頭が切れるブリアンは、正直ビョルンの手に余る。下手な動きをしようものなら、想像もしたくないような報復が待っている事だろう。


 ため息一つ吐くと、ビョルンは別の報告文に目を向ける。

 それには、ブリアンが回った近隣の森に現れたモノ以外の光る門の調査結果がまとめられていた。

 そこに記された、恐るべき内容と共に


「異界人、か……こればっかりは領主様に報告せねばならんだろうなぁ……」


 記されていたのは、ビョルンの裁量をはるかに超えた内容だ。

 付近の農村、ガルージャ荘にて出現した門の中に居たという人物と、得られた情報は一執政官には荷が重すぎる。

 北の峠で見つかったと言う門の中にも似たような状況があったらしく、またこちらでは戦闘さえ起きていた。結果調査部隊は門の中を十分に調べられなかったとの事だが……

 報告には異界人から攻撃を受けたため、対抗するため応戦したとあるが、こちらを調べたのはブリアンと同じく札付きの悪徳衛士だ。この文面にどれほど信憑性があるのやら。

 そして同時に、


「この二つの報告に比べて、ブリアンの結果が簡単すぎるなぁ……二つ目三つ目の門は、本当は調べていないだけじゃないのか?」


 ブリアンの報告にも疑問が残る。あの札付き衛士の事だ。

 門を一つ調べた後は、どこかでサボるか悪巧みをしていた事さえあり得るだろう。


「ともかく、この辺りの報告は領主様に上げねばなぁ……」


 ビョルンはおもむろに窓の外を見る。

 大河エツッァーの向こう、田園地帯を通り抜けた先にある、彼の故郷でもある領府ゼヌートまで、渡河及び馬で五日ほど。

 返事が返ってくるまでに厄介事が起きねば良いが……ビョルンは心からそう願った。


―――― 第1章 終わり ――――

これにて、第1章はおわりです。

人物紹介と閑話を挟み、2章へと続きます。


21/11/03 プロット変更に伴い一部改稿


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