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第40話 ~地下世界の終わり~

 そいつは、人間の男のように見えた……色々と例外的な要素を除いた上での話だけれど。

 身体の各パーツが、まるで風船のように膨張しているような奇妙な姿で、だけどこの地下で純白の触手に覆われ異形化した『白金の騎士』達を見慣れた目には、いっそおとなしく見える。

 そして特徴的なのは、目だ。

 胞子が放っていた燐光が無くなった地下は、既に闇に閉ざされていると言うのに、その中で唯一灯された明かりのようにギラギラと光り輝いていた。


「ミロード。アレは、『白金の大樹』の中に眠っていた存在……多分、滅びの獣よ」


 僕の視線で気が付いたのだろう。外界表示(モニター)に映る男らしきモノを見て、リムが囁いてくる。


「そうか、あれが……」

『夜光、どうする? こっちは連戦となるとちょいと辛いが』


 後方からでも確認できたのだろう。ライリーさんからユニオンリング経由で連絡が入った。

 リムもこれまで何度か滅びの獣と遭遇しているし、その彼女が判断している以上、アレがその内の一体である可能性は高い。

 だけど、現状僕達の消耗が激しい。

 仲間内で同士討ちに近い状況に陥っていたせいで、ダメージもギガイアスのエネルギー源となる精霊石も、大量に消費してしまっている。

 この状況で、厄介な力を持っているであろう滅びの獣とぶつかるのは、流石にリスクが高すぎた。


『いや、逃げるしか無いぜ! ……ちょっとやり過ぎた』


 同時に、妙に焦った声が届く。アルベルトさんだ。

 既に上空からヴァレアスさんと共に降下して、刺さったままの竜槍(ドラゴンランス)を回収してきたらしく、いつの間にかギガイアスの隣までやってきていたらしい。


『天井を支えてた柱の根元を吹き飛ばしたせいで、天井が残った木に引っ張られてる。そう遠くない内にここは崩れるぜ』


 その言葉を裏付けるように、ぱらりと上空からスナが落ちてきていた。

 ポツリ、ポツリと降り始めの雨のように降り始めた砂は、このままだと僕らを生き埋めにする、文字通り土砂降りになりかねない。

 そんな中で滅びの獣とぶつかるという選択肢はなかった。


『皆、撤退しよう! ゼル、ここの、マリィにえっと……ギルラムさん、こっちに来てください!』


 僕は大樹のあった場所から距離を取りながら、皆に撤退を叫ぶ。

 とりあえずは、この地下空間に降り立った場所──ライリーさんがずっと砲撃をしていた辺りだ──へと後退する。

 そんな僕らの姿を滅びの獣らしき膨らんだ男は、何もしないまま見てくるだけだ。

 攻撃の意志は、無いのだろうか?

 そう思ったのは、早計だった。


「騒いでいたのは、お前達か」


 既にかなりの距離が拓いたはずなのに、その声は何故かしっかりと僕達に届いた。

 後退しながらも、外界表示(モニター)に捕らえ続けて居た膨れた男の姿、それがさらに膨らんだ。

 ただ膨れている段階から、破裂寸前の風船へ。

 此処までくると、到底人間とは思えない姿へと成り果ててしまっている。


「余計な真似を……おかげで、この身体は使いモノにならなくなった」


 パンッと乾いた音と、ビシャリという湿った音が、立て続けに静寂に沈んでいる地下の暗闇に響く。

 男の身体が、弾けているのだ。

 手足の先から、内圧に耐え兼ねたように身体の各部分がそれぞれに風船のように膨らみ、弾ける。


「この白の異形共で辛うじて、身体を維持できていたのだがな……」


 こちらへの恨みつらみがこもっているかのような声だ。

 だけど、僕達を睨んでいたのもそこまで。

 弾け飛ぶ身体は、遂に頭にまで届く。


 パァン!!!

 

 一際強烈な破裂音が、砂の雨が降る地下の暗闇を揺るがした。

 表皮だった残骸が、舞い上げられたボロ布のように宙を舞う。


『……おいおい、なんだあ、ありゃあ』


 途方に暮れたようなライリーさんの声が、どこか遠くに聞こえた。

 気持ちはよくわかる。弾けた皮は、よく見れば何重にも巻き付いたあの『白金の祝福』の触手だったのだ。

 どう言う理屈か、皮状になって何重にもソイツに巻き付いて居たらしい『白金の祝福』の封印から、そいつは姿を現した。

 それは、まるで黒い蛇だ。

 あの『白金の大樹』の一部を『陰陽の魔獣』にした黒い流れが、一つの形を造っているような漆黒の大蛇がそこに居た。

 黒い流れは実体ではないのか、時折ほぐれるように崩れては、また一所に集まって蛇の身体を形造る、そんな挙動を繰り返している。

 ほぐれ切った時は、さっきゼル達を捉えていた黒い靄に酷似していた。

 もしかしなくとも、こいつがあの黒い線の元となる存在なのだろう。


「身体が固着しない……奴らめ、だから言ったのだ。奇跡などと嘯いて異形共を利用するならば、真体の完成は遅れると……!」


 その鎌首は、何時しか僕等ではなく、天井の方向を睨んでいた。

 何だろう? 何故かさっきから聞こえてくる声は、僕等よりも腹立たしいなにかが居るかのようだ。

 ただ、これは好機だ。

 あの滅びの獣らしき黒い蛇が、僕らを見ていないと言うのなら、この隙に撤退してしまえばいい。

 この地下に来た目的であり、僕の体を蝕んでいた『白金の祝福』は、もういないのだから。


「行こう、ここにはもう用はない」


 既に大型モンスター移動用の魔法陣は展開してある。

 この場に居る仲間はギルラムさんも含め全員飛行可能なので、空中に浮かぶ魔法陣を通るのは問題ない。順次万魔殿に帰還していく。

 僕を乗せたギガイアスは、最後だ。

 振り返ったその先は、既に『土砂降り』が始まっていた。

 中央の『白金の大樹』の上部分が、天上にぶら下がり続ける事が出来ず、遂に落下したのだ。

 同時に天井にも張り巡らされていた『根』が、天井を広範囲で剥離させる。

 それが決定的だった。

 地下の空間は、大樹があった中心を起点として、大規模な崩落を起し始めたのだ。

 あの黒い蛇も、その土砂の中に消えて行った。

 そこまで確認して、僕とギガイアスは魔法陣をくぐる。


 それが、聖地地下に広がっていた広大な空間とそこに根付いていた異世界の神秘の終わりだった。


 

6章エピローグに入ります。


皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍3巻を11月15日に刊行しました。


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