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第39話 ~そして目覚める者~

 二つの極大攻撃が放たれた結果は、凄まじいものだった。


「これが、マスターと同じ伝説に語られるべき方々の力……」


 咳き込む僕を支えるハーニャが、外界表示(モニター)に映る光景に、呆然と呟いた。

 『白金の大樹』とその周辺は、焼け野原と化したのだ。


 かつてMMORPGアナザーアースでは、強大なボスの様な敵と戦う際、このような高威力の必殺技的攻撃に注意が必要だった。

 ある一定の条件で放ってくる必殺技は、まともに受けるとどんな強力な冒険者パーティーでも全滅は必至であり、逆に言うとその対策を様々な形で準備することをプレイヤーは求められ続けたのだ。

 特に準備の必要なく、特定のギミックをこなせば致命的なダメージを軽減できたりするのは難易度的に低く、凝ったクエストでは事前にある一定のイベントアイテムを用意できなければ絶対にボスを倒せないようなパターンも存在した。

 そして、そう言った攻撃は、プレイヤー側でも発動できる。

 要はアルベルトやライリーが、地下空間に入りざまに行った強力な溜め攻撃がそれだ。

 あの事例の場合、『戦闘地域に入る前に溜める』という方法で、溜めの間の無防備な時間に対して対応していた。


 しかし、そういった安全な方法での()()では、放てない攻撃も存在するのだ。

 それが、先の二人の攻撃。

 戦闘状態の中で一定期間動きを止めると言うのは自殺行為に等しく、そのリスクを負う事で安全に溜めるよりも攻撃は強力なものとなる。

 今回二人が放ったのもそれだ。

 背面のキャリアーで運んできた子機(バード)に自分の周囲を護らせたライリーさんや、上空に逃れつつも一応敵の放射攻撃のギリギリ射程圏内に身を置いていたアルベルトさん。

 二人が負ったリスクはそれだけじゃない。

 竜と乗り手の二つの存在を一つにして放つ応龍の雷撃は、両者をつなぐ竜槍(ドラゴンランス)を核として放つために、その後同じ攻撃は出来なくなる。

 ライリーさん達の方を窺えば、強力な砲撃を放った代償に、両肩に構えた二本の砲塔が溶解して歪み、再利用すらできなくなっていた。


 ライリーさんの放った砲撃は、かなりの距離があると言うのに、正確に魔獣の胴の中心……恐らく核があるだろう場所を貫いていた。

 それどころか、かなりの出力で放ったためだろう、ライリーさんの居るところから、魔獣と大樹のある場所まで、一直線に地面が抉れている。

 『陰陽の魔獣』は、白金の森を抉り取りながら飛来したライリーさんの<複合精霊砲(フュージョンカノン)>で痕跡すら残さずに消滅していた。

 それと同時に、僅かに残っていた黒い靄も、完全に消滅していた。

 恐らくあの黒い靄や黒い線は、核となるモノを中心として発生する権能で、あの白と黒が入り混じった魔獣に核があるなりしたのだろう。


 遥か上空から撃ち下ろされたアルベルトさんの雷撃は、核とした竜槍(ドラゴンランス)が突き刺さった場所をを中心として大きなクレーターを作り上げていた。

 そのクレーターは、明らかに『白金の大樹』が立っていた場所そのものに出来上がっていて……つまりアルベルトさんは、一撃であの巨大な大樹の根元部分を消し飛ばしたことになる。

 少し視線を上げると、『白金の大樹』の幹が、天井からぶら下がっていた。

 根元は消滅しても、天井に繋がった部分は消滅を免れたらしい。

 もっとも天井からぶら下がっている部分も、到底無事では無かった。

 アルベルトさんの放った極大の電流は、天地を貫く大樹を細い電気配線に過電流を流したような状態にしてしまったらしい。

 透明な表面の下でさっきまで流れ続けて居た輝く粒子が、一切の動きを止めていた。

 それどころか、周囲を取り巻いていた白金の森が、漂う燐光が、森の中心から順に光を失い、消えていくのだ。

 同時に、僕は自分が深く息を吐いた事に気が付いた。

 さっきまで肺が苦しくて、そんな深い息なんて到底できなかったと言うのに。

 これは『白金の祝福』が、周囲のように力を失ったのだろうか?

 そう思っていると急に喉が焼けた。


「……ゴフッ!?」

「やっくん!?」「ミロード!?」「「マスター!??」」


 ゴポリ、と血の塊が喉からあふれ出る。

 操縦室に居る皆が、僕の只ならない様子に悲鳴を上げるのを、僕は何となく他人事のように眺めていた。

 口元を押さえた指の間から、逃げる様にすり抜けて血がしたたり落ちる。

 そのまま床に広がった紅の中心に、蠢くモノがあった。

 親指程の、僕の血で真っ赤に染まった『白』。

 清廉な程に純白であるはずのそれは、悍ましく蛆めいた動きでのたうつと、融け崩れる様にカタチを失った。


「これ、は……?」

「これが、『白金の祝福』と呼ばれるものの正体よ、ミロード」


 自分の体から出たモノとは思いたくないような代物の末路。

 特徴であった純白さも失って腐肉のように悪臭迄放ち始めたソレに言葉を失った僕へ、合流していたリムが口を開いた。


「ここでコレに蝕まれていた人達の記憶の中には、これを見て来た者もいたわ。教会は祝福何て誤魔化していたけれど……集合知性を持つ粘菌のような群体。コレはその末端ね」


 この白かった塊にしても、胞子のような形態にしても、ましてやこの森を形成する木々にしても、あくまで群体が集まり方を変えたモノに過ぎないと、リムは教えてくれた。


「でも、集合知性を持つと言っても、その重要度合いには差が出るわ。失って補填できる部分とそうじゃない部分があるの」

「それって、この周囲の様子は~?」

「意思を発する場所が失われたのでしょうね。木の根元に分離していた白黒の獣って、如何にも()()()場所じゃないかしら?」


 なるほど、脳に当たる部分が失われたなら、手足が残っていてもろくに動けなくなってしまうのも道理だ。

 つまり『白金の祝福』は同じ状況になったから、手足に当たる周囲の森も動く事さえできなくなっている、と。

 外界表示では、あれだけ光に満ちていたこの地下が、ゆっくり闇に包まれていくのが見える。

 どうやら、とりあえずの目標だった、僕の病気の元を倒せたみたいだ。


「それって、やっくんはもう大丈夫って事よね~?」

「ええ、もう治癒の奇跡で治療しても大丈夫よ?」

「やっった! ずっと治せなくて気になってたのよね~」


 それを理解したのか、ホーリィさんが、僕を奇跡で癒そうと気合を入れ始める。

 まぁ癒し手として、傍に居る僕をまともに治療できなかったのは、ホーリィさんも気になっていたのだろう。

 ギガイアスの操作も横に置き、ホーリーさんが操縦室の前から僕の元にやってきた。


 だから、それを見たのは、気真面目にギガイアスの操縦の補助を続けていたハーニャだけだった。


「……? アレは何かしら?」


 蜂女女王の視線の先、ゆっくり闇に包まれるはずの地下空間にあって、ほのかな明かりがともされていた。

 それはまるで闇夜に輝く夜行性の獣の瞳の様で……、


「え……アレは……?」


 声に釣られた僕が、向けた視線の先に、それを見た。

 アルベルトさんが開けたクレーターの奥底から、何かが現れようとしていた。

皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍3巻を11月15日に刊行しました。


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