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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第6章 新大陸と聖地の動乱

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第35話 ~創造者の怒り~


 遥か遠方の大樹と魔獣へ向け、大砲を放ち続ける『伍式迅雷』。

 その射線を頼りに、森を全力で走破したメイド人形(メイドール)のメルティは、『白金の騎士』達が迫る中でも開かれたままの搭乗口から、その中へと飛び込んだ。

 何時もなら二人乗りで乗り込むべきそこには、今は一人しかいない。

 メルティの主人であり、創造主であり、想いを寄せる男。<創造主(ザ・クリエイター)>にして錬金術師のライリーに、飛び込んだ勢いのまま、メルティはその足元に縋り付いた。


「マスター! どうか気を確かに! あれは私の意志ではっ!」

「……大丈夫だ、メルティ。よ~くわかってるさ」


 普段つけている片眼鏡ではなく、クロームグラスをつけてひたすらに敵を砲撃を続けるライリーに、メルティは危うく微かな悲鳴をこぼしそうになった。

 声は普段よりいっそ穏やかだと言うのに、声色の冷たさは氷結女公(フロストダッチェス)の吐息よりも凍てついている。

 握りしめられた操縦桿(コントローラー)には、僅かに血の痕跡がある──怒りのあまり、握りしめた指先が手の皮を破った名残だ。

 顔色はいっそ蒼白いほど。ライリーは、怒りの度を越えると、蒼褪めるタイプであることを、メルティは知っている。

 これほどまでに怒り狂っているというのに、その砲撃は冷徹なほど正確に彼方の真珠たちを射抜く。


「奴ら、メルティを弄びやがった。俺の嫁を悲しませやがった。ならやることは一つだ……潰す」


 ライリーの怒りの理由は、ただ一つ。あの黒い靄が、メルティに望まぬ行いをさせ、悲しませた……それだけに尽きる。

 メルティは、ゲーゼルグらと同じように、あの黒い靄に包まれ、自身が最も望まない行動をさせられていた。

 ゲーゼルグ達にとってのそれは、夜光を害する事。故に彼らは今も夜光に向け攻撃を続けている。

 かつて、夜光がマイフィールドに侵入してきた衛兵に甚振られているのを見て、逆上した彼らだ。

 今も黒い靄に囚われたままの二人は、己の身を切られるよりも過酷な苦痛の中に居る事だろう。

 メルティの場合、射程の関係で即座にライリーへ攻撃することはなかったものの、ある意味でそれ以上の真似をする羽目となった。

 遠距離だろうとメルティ通話可能なライリーへ、毒にまみれた離別の言葉を伝え続けたのだ。

 メルティの創造主である特権として、調整した創造物への命名権を使って、<俺の嫁(マイラブ)>などという種族名を与えるほどに、ライリーはメルティを溺愛している。

 その彼女からの離別の言葉は、ライリーにとって何よりも──現実(リアル)も含めて──もっとも精神的なダメージを与える事となったのだ。

 それまで、好調に遠距離砲撃を続けていた『伍式迅雷』の動きが、その後数分完全に途絶えるほど、ライリーはその時間精神的に死んでいたに等しい。

 直後にギルラムの助けでメルティとマリアベルは黒い靄から助け出されたが、もしそうでなければ未だにライリーは機能停止し続けて居たかもしれない。

 黒い靄から脱した直後から、メルティは謝罪と弁明と慰撫をライリーに送り続けた為、彼は何とか再起動し、砲撃を再開しているが、その様子は鬼気迫るものだ。

 初めは右肩の上のみに構えていた<複合精霊砲(フュージョンカノン)>は、今や両肩二門へと変わっていた。

 更に、背面に備えられていた箱状のキャリアーから、収容していた8機の子機(バード)を展開して周囲に近寄ろうとする『白金の騎士』達を薙ぎ払っている。


 そもそも、ライリーはメルティが多少彼を嫌おうが、笑って許せるだけの度量を持ち合わせている。

 夜光にも共通していることだが、作り上げ育て上げた仲魔のすることであれば、多少の悪戯も気にならない。

 娘に邪険にされるも受け入れる父親の度量とでもいうべきだろうか?

 だからこそ、メルティの離別を含む諸々の言葉に──『マスター、薬品臭いですよ。片眼鏡も似合いません』などなど──を言われたとしたも、ショックであり多少意識が飛ぶ程度のダメージを受けたものの、直ぐに復帰はしたのだ。

 だが、遠距離狙撃用の拡大外界表示(モニター)で、メルティの、彼女の表情を見た時、ライリーは今度こそ我を忘れた。

 狭い操縦席の中、狂ったように叫び、目に映るモノ全てに攻撃しかねない衝動を、こらえ続けて居たのだ。

 何とか、衝動を落ち着かせ、また黒い靄から解放されたメルティが森の中を疾駆するのを確認して──メルティも怒り狂って走りながら揮発性の致死毒をまき散らし、進行上の森を瞬時に枯死させていた──なんとか自身を取り繕いつつ、砲撃を再開していたのだ。


「メルティ、お前も腹いせをしたいだろ? 子機(バード)は任せるから、好きに暴れていいぜ?」

「マスター……ええ、もちろん。少し、はしたなくなりますけど」

「いいさ、俺ッチはそんなメルティも愛してるぜ?」


 これまで自動で『白金の騎士』達を迎撃していた子機(バード)の制御を、ライリーはメルティに託した。

 メルティも、慣れた様子でライリーの隣の席に座り、8機の子機(バード)……複合兵装搭載ドローンを操り始める。

 制御能力に秀でるメルティに操られた子機(バード)は、これまでが画一的な動きにとどまっていたにもかかわらず、まるで生命が宿ったように躍動し始めた。

 敵にとって不幸なことに、その躍動は猛禽のそれだ。

 防衛兵器が、一転群れで狩りをする魔獣へと変じる。


 その合間に、ライリーは動きを止めていた。

 普段はメルティに任せている動力の制御などをマニュアルで操作しながら、背負った砲塔をさらに展開させ、二門をリンクさせていく。

 遥か遠方では、魔獣と大樹の意識が、巨大な魔像──ギガイアスに向けられている。

 逃せる好機では無かった。


「夜光、ちょっと待ってろよ……デカいの、ぶちかましてやる」


 この地での初撃、溜めが必要だった大規模砲撃を上回る砲撃を狙い、ライリーはクロームグラスで隠された目を冷徹に輝かせた。

皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍3巻を11月15日に刊行しました。


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