第08話 ~教会領戦線 その4~
「本当にやる気なんですか?」
「俺もどうかと思うんだがな。どうにも抑えがきかんのだ」
万魔殿の上層、見晴らしのいい会議室で、僕は関屋さんと向かい合っていた。
僕も、関屋さんも困り顔。
「オウ、力が滾って仕方ないんじゃ!」
「儂らも訓練を積んだからのう!」
「そろそろ実戦とやらも、外とか言う世界も見ねばならん!」
関屋さんの後ろに居る、妙に暑苦しい一団だけは、むやみやたらと元気いっぱいだ。
その全てが、たっぷりの髭を揺らすドワーフ達。
「訓練て……元は職人たちなんでしょう?」
そう、彼らは関屋さんの商店街、そこで働く職人たちだ。
関屋さんが商品の生産を任せる、いずれも凄腕の職人たち。
ドワーフNPCは、種族特性としてそれぞれ何らかの生産称号を持っている。
その為関屋さんの商店街でも、ドワーフの割合は多い。
それは、関屋さん自身のアバターもドワーフであることと、無関係では無いのだろう。
その彼らだが、先に言った通り元は全て職人だったにもかかわらず、今はしっかりとした戦装束に身を固めていた。
それぞれが得意とする生産称号で生み出される、高品質な武具。
各々が作り上げたそれを身に着けたドワーフの職人たちは、厳つい風貌と相まって、とても威圧感があった。
それは、武具だけから来るものではない。
職人で、戦う力を持たないはずの彼ら自身から、暴力の気配を漂わせているのだ。
そう、彼らはもうただの職人ではない。
ドワーフは戦士の種族。それを思い出したかのように、彼ら職人たちは戦いの業をこれまで磨いてきたのだった。
□
そもそものきっかけは、僕が初めて関屋さんのマイフィールド、関屋商店街へと訪れた時までさかのぼる。
外の世界の山賊に不意打ちされた商店街は、位階こそ高いもののリアルな実戦は初めてな関屋さんが倒れてから、一方的に蹂躙されていった。
その記憶は、職人たちに深い影を落としていたらしい。
その後僕等の同盟、迷子達に参加した関屋さん及び商店街を営むNPCは、長らく裏方として僕らを支えてくれたのだけど、その合間に訓練を積み、戦士系の称号を取って自主訓練を続けていたとか。
そして今日、彼らは直談判に来たのだ。
「なんでも、地下道を通って奇襲して来る連中に、苦戦しておると言う話では無いか」
「儂らドワーフなら、地下は庭も同然じゃ。逆にやり返すこともできるぞい」
これよりしばらく前、僕らは外の世界の領主、フェルン候と協力関係を結ぶことに決定していた。
そこで僕らは、来る皇国の聖地攻略のための、協力を要請されたのだ。
その話を、何処からか聞きつけて来たのだろう。
「でもなぁ……関屋さんの所の職人は、どう考えても貴重だし、戦力はあるんだから無理に前線に出なくても……」
「俺もそう思うんだが、ここまでくると、勝手に外に出かねんのだ」
「あ~、なるほど……」
このドワーフの職人たちは、僕のマイフィールドのドワーフ達とも交流していて、そういう意味で自我の成長も著しい。
それが今回は、溢れすぎる意欲として暴走しているみたいだ。
そして、教会相手というのも……正直、悪くない相手だ。
職人たちは、程度の差はあれ元々の位階は高い。
基礎ステータス自体は、上級や伝説級など、元から高かったわけで、そこに新たに戦士系称号を鍛えているとなると、直ぐに屈強の戦士へと至れるだろう。
そして、外の世界にも例外があるとはいえ、殆どの存在は中級で頭打ち。
つまり比較的安全に実戦経験を積める相手だと言えた。
何しろ、西の大陸では、普通にかつてのアナザーアース産のモンスターが闊歩していて、中には伝説級の大型モンスターまで発生するほどだ。
関屋さんの商店街はそんな過酷な環境にあるのだけれど、僕らのような戦闘メインのプレイヤーの助けが無くてもある程度の自衛は必要で──なるほど、職人NPCもその辺りを自発的に判断するようになったらしい。
だからこそ、こうして関屋さんを伴って直談判をしに来たのだろう。
なら、下手に暴発されるより、ある程度手綱を握っていた方が良い筈。
そこで、僕は幾つかのセーフティをかけ、彼らを前線に居るゼルの元へと送ったのだった。