プロローグ 堕ちし世界樹 その4
何か目の前の少女が、珍妙な事を口走った気がする。
おかしいな? 聞き間違いだろうか? それとも新手のジョークか? 滑り過ぎだろう?
そんな事を想うのを止められない俺を、アンだかアンナと呼んでほしいらしい少女が先導していく。
その素振り、足取りを見ても、ごく普通の少女だ。
本人が言うような、創造神とは到底思えず、普通の人間種にしか見えない。
俺もアナザーアースは雑にしかやっていなかったが、神とかの分類のモンスターやNPCは、もっとこうオーラなり威厳なりがあったはずだ。
やはり、何かの冗談なのだろう。
その証拠に、ミミはこのアンとかいう少女への警戒を完全にやめていた。
無害って事なのだろう。
そうしているうちに、俺達はこの商店街の主だと言う男の居る部屋へと通されていた。
「お、おい、何だコレ? デカいテレビ? それとも映画か?」
「お、来たか。お前さん達、タイミングが良いな? 丁度良く、俺らのリーダーの働きを見られるぜ」
ずんぐりとした、まるで樽が喋っているようなドワーフが、一瞬だけ俺達の方へ視線を向けるが、直ぐにそれまで見ていた物へと向き直る。
軽く名乗り合うだけのあいさつの後、この場に居る全員の視線がある方向に向いた。
そこにあったのは、壁一面に映し出された、戦場の光景だった。
台座に置かれた水晶玉みたいなアイテムから光が伸びて、壁一面にプロジェクターみたいに映像を映し出しているのだ。
ご丁寧に、音もついている。
無数の邪樹翁の群れと、無数のモンスター達のぶつかり合い、そしてその向こうにそびえる、ソレ。
映し出されている光景も気になったが、それよりも確認したいことがあった。
「アンタたちの同盟のリーダー? ……リーダーはアンタじゃないのか?」
「ああ、俺は生産を受け持っちゃいるが、発起人はあいつ、夜光の奴だ」
クイっとドワーフが親指で指示したのは、画面の向こう。
無数のモンスターの中心に居る、ローブ姿の子供だ。
あの数のモンスターを率いているという事は、テイマー系のプレイヤーだろう。
画面の中では、無数のモンスターが邪樹翁の群れを一方的に押している。
あんな風に軍勢を指揮できるというのなら、巨大な魔像を操るライリーや、大規模生産職の関屋をまとめるリーダーを務めているのもおかしくはないように思えた。
「その口ぶりだと、ライリーの奴は碌に説明していなかったらしいな? 全くあいつは…」
「アンタの名前が出た時点で、こっちも勘違いしたからな。まぁ、リーダーの名は聞いていない」
関屋が、全くあいつはとあきれたように息を吐く。似たようなことは何度もあるのだろう。
もっとも、同盟のリーダーなんてそう特別でもない。
俺も比較的名が知れた関屋の名前を聞いて、こいつが中心なのかと勘違いしたが、逆に言えば生産職メインでもリーダーでも務まるという話でもある。
「それにコレはなんだ? こんなアイテム、アナザーアースにあったか!?」
「それでこいつなんだが、ウチの新作だな。陽光神や風浪神あたりの権能をアイテムで再現出来ないかって考えてな。案外うまくいったぜ」
陽光神や風浪神の七曜神は知っているが、そんな力があるのは知らなかった。
聞けば遥か遠くの光景や音を、タイムラグ無しで映し出せるそうだ。
地味に、飛んでもないアイテムを作り出しているな……。
「でだ。この光景は、俺らのリーダーが、今回の騒動の元になっている狂った世界樹に、カチコミをかけている様子だな。ほんのついさっき、あのクソッたれな邪樹翁の根っ子を押さえたのさ」
「おお、マジかよ!?」
「ああ、今回はマジで苦労したぜ。何しろ、あのクソウドの大木の奴、大陸中探してもどこにも居やがらなかったんだからな」
忌々しそうに話す関屋は、リーダーだという夜光って奴の軍勢のあばれっぷりを見ながら、あの画面の奥、ねじ曲がりながら生茂った巨大な世界樹を見つけた経緯を話し出す。
こいつらの同盟は、邪樹翁が出始めた当初から、原因が世界樹と目星をつけていたそうだ。
それに、これだけの規模の群れをあちこちに沸かせる以上、大本の世界樹はとてつもなく強力かつ、植物モンスターの宿命として力に見合うほどに巨大になっている筈だと。
ただ、話に聞く東の大陸では邪樹翁は沸いて居ないそうだから、世界樹はたぶん俺たちが住んでいるこの大陸に居る。
だが、その筈だってのに、空から大陸中、それこそ離れた小島も含めて探しまくったのに、見つからなかったらしい。
なら、どこにいたかといえば……、
「あのクソ大木、よりにもよって精霊界に潜んでやがった。そのうえで根の一本だけ現世に伸ばしてやがったのさ」
世界樹は、精霊と親和性が高い。
それこそ精霊界の入り口をその洞に設定できるくらいだ。
今回の件の原因の狂った世界樹は、もともとのプレイヤーが精霊界に配置していて、そのせいで発見がここまで遅れたそうだ。
「まぁ、そのせいでうちの同盟に参加するようになったプレイヤーや、他にも協力し合うようになったプレイヤーの集まりとかができたんだがな。まぁ、そこは今重要じゃない」
だが、大地を司っている地母神とその神官たちが地脈に乗る邪樹翁達を逆に辿って、ようやく大本をみつけだしたらしい。
「狂った世界樹は、地脈を通して邪樹翁を送り出すだけでなく、大地の力を無理やり吸い上げてあの数の邪樹翁を作り出していたみたいでな。大地に紐づいている地母神もかなり弱らされていたんだが、なんとか見つけ出してくれてな。居場所がわかった以上、速攻で元を叩くと夜光の奴が出て行ったのさ。で、こんな感じだ」
精霊界は、様々なプレイヤーのマイフィールドがこの大陸に出現したことで、それぞれのプレイヤーが配置していたものもつながってしまったらしい。
関屋の同盟のリーダーも、自分のマイフィールドに精霊界を配置していて、そこから元凶が居る精霊界に向かったのだとか。
そして、今のあの戦場の光景。
無数の、そして様々なモンスターが、溢れる邪樹翁達の群れを、一直線に引き裂いていく。
そして、
「道が開けたな。出るぜ、あいつの、夜光の切り札が来る」
屹立した竜王の巨大なブレスが、世界樹までの道を切り開いた時、それは来た。
空中に描かれた、巨大な魔法陣。
そこから飛び出したのは、ライリーの深紅の魔像と同様の、巨大な鳥型の魔像。
そして、俺は目に焼き付ける事になる。ライリーやさっき見た多頭の竜王を超える、こいつらの同盟の力の粋を。
皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍2巻は本日刊行です。
既にアース・スターノベル様の公式ページに書影及び特設ページが上がっております。
また、アース・スターノベル様の公式ツイッターでの告知で、拙作のCMというかPVが作成されているそうです。
公開は本日14日。
私もまだ見ていないので、どんな内容なのか今からドキドキです。
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書籍2巻7月14日付で刊行します。
アース・スターノベル様の公式 2巻特設ページはこちら。
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