章間 小話 とても今更なアナザーアースのシステムのお話 その3
「称号かあ~、俺はまだ盗賊しかないんだよな」
「だろうな。でだ、今度はその称号の取り方について話すぞ?」
ライリーは、新たに書き上げたページを示すと、ユータはそれを覗き込んだ。
「えっと、クエストと、アイテムと、師匠?」
「ああ、その三つが、称号を得るための方法だ。順に話していくぞ?」
まずはとばかりに、ライリーはクエストの文字をつつく。
「称号の大半は、クエスト報酬だな。位階を上げて、前提条件を満たすことで、解放されるクエストをこなすことで、報酬として称号を得るわけだ。お前さんが経験済みの最初期教育も、此れの一つと言えるだろうな」
「なるほどな~。って、前提条件ってなんだ?」
首をかしげるユータに、ライリーは数ページ前の位階のページを見せる。
「一番わかりやすいのは、位階だ。称号にも格が有って、上位の称号を得られるクエストほど、受注するのに高い位階が必要になる。ま、当然だな。クエストって事は、何かの障害が存在してるって事だ。それをどうにかできる実力がなけりゃ、称号も得られない」
「あ、それもそうか」
「あとは、職業系の称号だと、上位の位階の称号を取るには、先に下位の称号を取得していることが条件になる。お前さんの盗賊系で言うなら、中級の義賊や斥候の前提条件が、お前さんの今就いてる盗賊を得ている事とかな。クエストでも、盗賊を持っていること前提の試練で鍵開けやら罠外しやらが待ってるぜ?」
さらに典型的な例として、下級の兵士から戦士へ、そこから更にそれぞれの武器に特化していったり、タンク職の守護系へと変化する称号ツリーを解説するライリー。
ユータはそれを、しっかりと聞いていた。
「あとは、職業以外の称号を得られるクエストだな。これは、俺達プレイヤーじゃなくて、テイムや制作したモンスターへ、追加の能力を付与するタイプの奴だ」
「え、そんなのがあるのか?」
「ああ、分かりやすいのだと、アルベルトの奴の相方だな。本気を出すと首が増えるだろ? あれはドラゴンや蛇系なんかのモンスターに追加能力を与えるクエストの報酬だ。大規模戦闘用に大型化したり、逆に大型モンスターを人化したりして小型化する称号なんてのもある」
ゲーゼルグらが巨大化するのも、それらの称号を得られるクエストを達成したからであり、テイムモンスターと共に受けるそれらのクエストは、非常に人気があった。
「そんなわけで、称号を手に入れるにはクエストをこなすのが基本ってわけだ。わかったか?」
「うん、わかった!」
「……本当に判ってるか? 少しは気になる事とかないのか?」
素直にうなずいたユータに、しかしライリーは眉をひそめた。
「へ? なんか今の説明って間違ってたのか?」
「そうじゃないが、お前さんの場合は気にせにゃならんだろ? 強くなりたいのに、そのための称号取得には、クエストが必要なんだぞ?」
「……?」
「ピンとこないって顔してるな。つまりはだ、アナザーアースが無くなって、クエストなんてものが受けられないのに、お前さんはどうやって強くなる気だ?」
「あっ! そうだ、それマズイよ!?」
ライリーの指摘でようやく事態を理解したらしく、ユータは慌てる。
実際、アナザーアースの世界が存在しなくなったと言う事は、そこで受けられた無数のクエストに一切アクセスできなくなっていると言う事になる。
既に必要な称号を取り終えているライリーや、コンバートにより一度初期レベルに戻った夜光達も潜在的に過去取得した称号は存在しているため、位階が上がれば再度称号をアクティブに出来る。
しかし完全に初心者なユータでは、それらの称号を得られるメインの手段が失われている事になる。
「ど、どうしよう!?」
「まぁ、落ち着けって。称号をゲットできるのは、クエストだけじゃないって言ったろ? 他にも手段はある。それ、使って見ろ」
慌てるユータにそっとメルティが差し出したのは、手のひらに乗る大きさの内に色彩を秘めた幾つもの結晶体だった。
よく見れば、その内なる色彩はそれぞれに何らかの紋章を象っているようである。
「な、何だコレ?」
「さっきも言ったろ? 称号を身に着ける方法の一つ、アイテムだ。称号結晶って言ってな、そいつを使うと、称号が手に入る」
称号結晶は、一種の救済アイテムだ。
アナザーアースの拡張パックにおいて、ひとつ前の拡張パックの範囲までの称号は、店売りのこの結晶で身に着けることが出来た。
これは各拡張のタイミングで新規プレイヤーの流入を狙ったもので、位階を一気に引き上げる成長促進剤と同じく課金などでも入手できたものだ。
「これの利点は、使えば即身に着けられるから、テイムしてるモンスターや同行NPCや何かにも使える事だな。こいつのおかげで、メイド達のカスタマイズがかなり楽なんだ。夜光もかなり使ってる筈だぜ?」
「へー……、あホントだ。見習い戦士覚えた」
試しとばかりに手にした結晶を使うと、結晶の中に宿っていた色彩がスッとユータの手の中に消えていく。
するとユータは、己の中に何か確かな熱のようなモノが宿ったのを感じる。
意識下に浮かぶコンソールには、称号の待機状態の欄へ新たに見習い戦士の文字が浮かんでいた。
「ただ、この手の結晶はあくまでその系統の称号の最新拡張の範囲はカバーしていないか、していてもレアか課金アイテムだ。お前さんの場合当面は良いが、伝説級になった後はちょいと困るかもな」
「いーよ、その時はその時だって。それに、伝説級の一個下までなら大丈夫なんだろ? 結構強くなれそうじゃね?」
「まぁ、上級まで行けば結構なものなのは確かだなあ」
門の先の世界は大半の存在が中級に留まることを考えると、上級に至れると言うのは破格だ。
上級まで至ると、称号も便利かつ多彩なスキルを網羅するようになるため、そういった意味でも一線を画すことになる。
「で、もう一つ称号を得られる方法だが……お前さんはもう知ってるぞ」
「へ? それって何のこと?」
「お前さんにはレディ・スナークが居るだろ? あれがもう一つの方法、師匠に繋がるんだ」
師匠、それはマイフィールドなどに配置できるNPCの系統だ。
配置すると、マイフィールド内にその系統のクエストを発生させたり、上の位階の称号を身に着けられる試練としてのクエストを発生させるようになる。
また、マイフィールド内のNPCやモンスターを指導させることで、称号を習得させることもできる。
「レディ・スナークは盗賊系初期教育の師匠NPCだが、そういう師匠として配置するのも可能なキャラなのさ。ついで言うと、ある程度NPCやモンスターが一定の系統の称号を伸ばしていくと、免許や皆伝なんかの許しを授与されて、簡易的な指導能力を持てるようになったりするのさ」
「あ~、それって俺はこのままスナねーさんを連れてれば、もっと強い称号教えて貰えるって事?」
「そうなるな。まぁ、レディスナはスパルタ系で有名だから、お前さんは散々にしごかれるだろうがな」
そんな~、というユータの声と同時に、ライリーは話はここまでとばかりに再び新作魔像のアイディアを考え始める。
ユニオンルームにユータの
「しごかれたくないよ~」
という嘆きの声が響く中、静かな時間はゆっくりと流れていくのだった。
皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍2巻は今月14日に刊行予定です。
既にアース・スターノベル様の公式ページに書影及び特設ページが上がっております。
今回は2章のプロローグを主に、1話に至るまでの間を描いています。
およそ8割は新規となっておりますので、これ知らない話だな? となることうけおいかと。
ご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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書籍2巻7月14日付で刊行します。
アース・スターノベル様の公式 2巻特設ページはこちら。
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