章間 小話 とても今更なアナザーアースのシステムのお話 その2
「冒険者、つまりプレイヤーキャラは、俺っちやアルベルト、それに夜光やホーリィの姉ちゃんとかを見てれば判ると思うが、位階が同じでも傾向は全く違う」
ライリーは、新たなページをユータに見せた。
そこには、彼らの同盟のメンバーの名と、その説明が記されている。
「単純に分類するなら、俺っちは支援寄り術者兼生産職、アルベルトだとテイマー兼前衛タンク職だ。同じ位階でも、こうも違う。基礎値は同じだってのに、だ。それがなぜかわかるか?」
「さっき言った、称号って奴?」
「ああ、称号だ。こいつは、他のゲームで言う職業を思い浮かべると良い。アナザーアースでの成長システムは、この称号がほぼすべてとも言っていい位だ」
ライリーは更に、ノートの空白部分へユータの名を記し、そこへ一つ『見習い盗賊』と書き記す。
「お前さん、確か最初期教育の途中だろ? それでレディ・スナークがついているなら、初期に選んだ称号は『盗賊』、そうだろ?」
「うん! ライリーの兄ちゃん、よく知ってるな?」
「キャラメイク時に選べる称号は決まってるからな。初期称号シリーズの内、スナークが師匠NPCに着くのは初期で盗賊を選ぶしかない。もっと詳しく言うなら、初めは見習いと付いていた筈だ」
アナザーアースでは、プレイヤーはまず戦士、魔術師、盗賊、神官等の基本称号の見習いからスタートする。
複数のクエストで構成された最初期教育の途中で見習いが外れ、まかりなりにも広い世界を旅する資格が有ると判断されたところで、本格的な冒険がスタートするのだ。
「でだ、まだ称号の付け替えをしたことが無いお前さんではわからんかもしれんが、称号には補正値ってのがある」
「付け替え? 補正値? なんだそれ?」
首をかしげるユータに、ライリーは意識に浮かぶコンソールを操作し始める。
「言葉の通りだ。称号ってのは、変えられるのさ。例えば、俺っちの……特級鑑定士を、こうやってお前さんと同じ盗賊にすることもできる」
「あ、ほんとだ。変わってるぞライリーの兄ちゃん」
同じ同盟のメンバー同士であり、プレイヤー同士でもある為、ユータはライリーの称号欄の端が変わるのを見て取っっていた。
「称号ってのは取得した後に、こうやってアクティブにすることで効果を発揮する。今なら……そうだなこんな事も出来る」
「おお、すげえぜ兄ちゃん!」
ライリーは、何処からともなく小ぶりなナイフを取り出すと、空中を一瞬で切り刻んで見せた。
それは、ユータも扱える攻撃スキルである<ナイフ戦闘>の効果だったが、位階差による基礎ステータスの違いにより、全く別物の冴えを見せたのだ。
「ただ、単にナイフを扱うだけなら、特級鑑定士のままでも出来ることはできる。だが、とうてい同じにはならんのさ。で、称号を元に戻すと、こうなる」
ライリーが称号を元に戻し、再度ナイフを振るうと、その差は歴然。
下級のユータでも解る程、その速度とキレに断然の差がついていた。
「さっきは全然見えなかったのに、今のは俺にも見えたぜ」
「これが、補正って奴だ。称号に合った行動をする場合、行動の成功率や効果にボーナスがつく。俺も普段は近接スキル何ぞ全く使わないが、称号さえ付け替えればさっきの通りだ」
「それなら、素早く称号を付け替えたら凄いんじゃねえの? 魔法を使いながら剣振り回したりさ!」
「それがそうもいかないんだな、これが。称号の付け替えにもルールがある。それが称号の制限だ」
ライリーは、今まで書いた同盟メンバーの称号の横に、制限と一つ書き加えた。
「せいげん?」
「判りやすい例を言うとだ、大体の術師系の称号の能力補正やスキルを扱うためには、身軽な装備である必要があるってこった。夜光や俺っちは、ローブやこの白衣みたいな身軽な服だろ?」
「そういえば……そうだったっけ?」
「……出会う相手の装備はよく見とけよルーキー。でだ、武器もさっきみたいなナイフならともかく大型の剣なんぞは術師系のスキルの邪魔になるわけだ。だから、戦士系称号と術師系称号の両立は難しい訳だ」
これらの称号による制限は、生産職にも存在する。
少なくとも戦闘用の装備を身に着けていた場合、肝心の生産スキルがそもそも発動しない、もしくは大失敗を引き起こすなどのデメリットが起きるのだ。
ただし、これらの制限も例外が存在する。
「とはいえ、魔法剣士みたいなスタイルも不可能じゃあないんだがな。ほら、夜光の所の色っぽい悪魔の姉ちゃんが居るだろ?」
「あ~、いたいた。あの姉ちゃんになんかあるのか?」
「やっこさんは魔法戦士スタイルだぞ? 全身鎧をつけて剣と盾持ちながら、精神魔法をぶっ放したりしてくるんだ」
「そうなのか!?」
ライリーは夜光と魔像の摸擬戦を繰り返すうち、それぞれに従えている仲間モンスター同士も戦闘させていた。
ライリーの最愛のメイドであるメルティはメイドでありながら暗殺者ビルドに寄せている。
対して夜光が送り出した者たちの内、淫魔の魔王であるリムスティアは、普段の露出過多な姿から戦闘時は一変して重装の暗黒騎士といった姿に変わっていた。
「あの姉ちゃんの武具は、特定の術師系統の称号を阻害しないって特性があるんだ。同じような武具は他にもあるし、生産職ならそういう武器を作ることもできる。それで制限を回避できるって事だな」
「へ~」
他にも、術師称号の中でも装備面での制限が緩い神官等の奇跡系称号などは、重装備でありながら奇跡も併用できる。
そういった例を挙げながら、ライリーは次の要素の説明を書き加える。
「でだ、さっきも言った魔法戦士スタイルだが、現状のお前さんはそれでもまだ出来ない。何でか判るか?」
「ん? いや、称号を付け替えればいいんだろ?」
「それがな、戦闘中や特定のイベント中、あとはダンジョン内なんかは、称号の付け替えが出来ないんだ」
「え~、なんだよそれ! 不便じゃねぇか」
「話は最後まで聞けよ。あくまで、まだの話だ。お前さんが位階を上げて行けば、それは解決するのさ」
ノートに書き加えられていたのは、『位階=スロット数』の文字。
「位階の段階が上がると、同時にアクティブに出来る称号数が増えるのさ。つまり、下級のお前さんは一つしか称号をアクティブに出来ないが、中級にまで育てば称号は二つまで有効になる。伝説級まで行くと、五つまでアクティブだ」
「おお、何か凄え!」
「当然ステータス補正も、称号に伴う使用可能スキルも、そして制限も全部重複するんだがな。この称号の組み合わせこそ、アナザーアースの成長の真骨頂って奴だ」
称号について多少は理解したのか、ユータは目を輝かせる。
その様子を見ながら、ライリーは更なる講義の為に、筆を躍らせるのだった。