表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/242

第31話 ~晴れる霧、そして~

「通勤中だったはずが、気が付くとテスト用キャラでここに居てね。いやー、本当に途方に暮れたよ」

「やっぱり記憶はそこまでなのか。俺も前後は割とあやふやなんだよな」

「でも、カタギリさんが此処にいるって事は、『プレイヤー』ってそういう事なんでしょうかね?」

「断言するのも危険な気がするがな」


 皇王とカタギリさん、そして僕らは、長く話し合いを続けていた。

 カタギリさんの境遇は、僕らと全く同じで気が付いたら此処にいたと言うもの。

 だけど、明らかな事は、現実での彼が亡くなっているというのが明確な事。 

 彼は通勤中にとある事故に巻き込まれ、帰らぬ人となったのだ。

 カタギリさんが丁度開発の際のテストプレイでデフォルト仕様の容姿のキャラを使っていたこと、ムービーでデフォルト容姿のキャラを登場させていたこと。

 そこに彼の死が重なったことで、ムービーの登場キャラを追悼として彼の本名である『あきお』と呼ぶようになったのだった。

 多分開発側としても、せめてムービーの中でも生きていてほしいと言う願いがあったのだと思う。

 だとすると、ここに来たプレイヤーは何らかの形で命を落とした者たちなのだろうか?

 それも含めて話を聞くと、真っ先に明らかになったのが、この国の成り立ちだった。


「つまりなんだ? 皇国ってそういう国なのか?」

「うむ、余は王国を強大にしたかった。侍従長は他に行き場も無かった。同時に自身と同様の者達の存在を知った。故に皇国となったのだ」

「お互いの利害の一致というやつだね」


 カタギリさんがこの国に流れて来たのは10年前。まだこの国がガイゼルリッツ王国と呼ばれていた頃の話だ。

 僕達と同様にマイルームの中で目覚めたカタギリさんは、外からやって来た当時王太子であるヒュペリオンと出会い、保護されたのだそうだ。

 当時王国は各地の諸侯がそれぞれにまとまりなく動き、また東方諸国や南東陸峡地方の侵略に晒された危険な状態だった。

 そこに、この世界ではありえない強力な装備や技術を持ったカタギリさんがやって来たのだ。

 王太子であったヒュペリオンにとって、カタギリさんはなんとしても取り込みたい存在だった。

 また同時にカタギリさんも、見知らぬ土地と自分の境遇を鑑みて、彼の手を取らざるを得なかった。

 何しろ、旧王宮の庭がカタギリさんの『門』の出現地。

 逃げようがないし、そもそもカタギリさんのマイルームは初期設定のちょっとした広さの部屋に過ぎなくて、そこに引きこもると言うのも物資の問題で困難だったのだ。

 そうやって『門』の中のアイテムを融通したり、また技術を教えていくうちに、王国は急速に力をつけ、皇国となって行く。


「ん? いや待てよ。アンタの装備って、ローンチ時の頃のだろ? 開発だから当時の最終装備位は在るにしても、そこまで強くないんじゃないのか?」

「それが不思議なことに、どんどん装備やアイテムが増えたんだよ。どういう理屈なのかはわからないのだけどね」


 何故か彼のマイルームに増えていく装備と、強化されていく能力。

 それらを駆使して皇王は急速に国内を安定させていく。その中で明らかになったのが、『門』が稀に現れると言う事実だった。更には、その中でも稀に『プレイヤー』が居たという事が。

 カタギリさんはそれを知り、自分と同様に『プレイヤー』の保護を皇王に願ったのだと言う。

 だけど、それは中々に難しい問題だった。


「ほら、当初は陛下が『門』を通じて力を得たってのを諸侯から隠さないといけなかったから、大っぴらに保護出来なくてね。まだそこまで『門』の出現頻度も高くなくて、諸侯の力も強かったから『門』の中の物は皇国そのものに帰依するとしか交付できなかった。あまり諸侯に『門』の重要性を悟らせたくなかったのだけどね……」

「10年もあれば、まぁばれるわな」

「おまけに、何がどうなったのか、『門』の中を漁る盗賊の類が『冒険者』と名乗るようになってね。これに関しては本当に申し訳ないと言うか」

「……おかげで酷い目にあいました」


 事実、現皇王が急速に力をつけたように、またナスルロンがフェルンへ侵攻したように、『門』の力は諸侯のバランスを崩す。

 だけど、まだこれまでは『門』の出現頻度が低く、皇王直属のそしてこれまでに保護された『プレイヤー』である異邦人で編成された調査隊を派遣することで、そういう事態は避けえたそうだ。

 『門』も皇国内では中央の皇都付近での出現が多かったと言う事情もある。

 だけど、今回の大量発生と、東方諸国との戦争で異邦人部隊が多忙となった事で手が回らず、結果各地の諸侯が『門』を探索する事になったのだとか。

 その結果が質の低い調査隊に寄る僕への暴行やナスルロンの侵攻となって表れたし、『門』の中のアイテムが一気に世に出回ったのも、結果僕の死につながったと言えなくもない。

 情報の秘匿と『門』を狙う野盗じみた者達への規制が、紆余曲折の末に僕に襲い掛かったのは何の因果なのだろうか。

 まぁ、そんな愚痴はともかく。


「つまりは、皇国としては僕達を保護し、同時にその力を借りたい。そういう事なんですね?」

「そなたら『プレイヤー』は力を持ちすぎる。更には、そなたらの力を借りねば収まらぬ事態が皇国、いや、この世界で起きつつある。余は王としてこれらに対処せねばならぬのでな」


 僕らは、皇王ヒュペリオンに一つの選択を迫られることとなって居た。




 夜光らが皇王ヒュペリオンと侍従長カタギリと会っていた頃。


「やっくんは、今頃どうしてるのかしらね……」

「ホリ姉ちゃんは心配性だな~。スナねーさんも向こうに居るなら大丈夫だとおもうぜ?」


 皇都から遠く離れた地、にて、二人のプレイヤーが話し合っていた。

 一人は、夜光の昔なじみであるホーリィ。

 もう一人は、新たに夜光らのユニオンと遭遇したプレイヤー。

 見た目通り快活な、そして実年齢は更に幼い少年で、名前をユータという。

 このガイゼルリッツ皇国において、皇都は政治経済の中心地のひとつだが、トラブルや事件も多い。

 皇都にて「保護されたユータ少年は、同行者県保護者であるレディ・スナークの意向もあり、混乱の多い皇都からある意味後方の安全地へと送られたのだった。


  この世界の夜は長い。

 余程の都市部以外は、照明も限られ夜間の行動は難しくなる。

 逆に言えば、そういった都市部では、『門』の中の物品や技術を基にした豊かな照明の恩恵にあやかれると言う面があった。

 この町もそういった都市のひとつ。

 内陸水運と外洋交易の交差点。

 港町ガーゼル。

 大河エッツァーを挟み新旧の市街地を抱え、この世界においては珍しく、夜も喧騒が続く町だ。


「そうは言ってもね~。やっくんだって強い仲間を連れてるけど、ほんのちょっとのことで倒れちゃうのよ~。やっくん紙装甲だし~」

「そうなの? 俺まだアザッス始めたばっかりだからわかんないけど、レベル上げたら死ななくなるんじゃねえの?」

「レベルじゃなくて位階ね~。どんな強い英雄も死ぬ時はあっさりなのがアナザーアースなのよ~」


 語り合う彼女達が居るのは、夜光達のユニオンがガーゼルにて拠点として作り上げた拠点の一つ。

 NPCの商人らが素性を隠して購入した港湾地区の倉庫の一つを改装して作られたそこは、外観は元のままに「アナザーアース」仕様の内装に作り替えられていた。

 冷暖房に照明といった、それでいて現代人であるプレイヤーとして要求値が高い快適な居住空間が此処にある。

 夜光のマイフィールド内に居る職人系統のNPCや、関屋商店街の建築系の職人、その両者と幾つかの魔法道具によって、この世界ではまだまだ未発達な要素が此処に出来上がっていた。


 このような拠点は、エッツァー河口の左右にある新旧ガーゼルにそれぞれ複数建造されて居た。 

 この拠点はその中でも最も規模の大きい物であり、ガーゼルの市民や行政府に対しては傭兵団の拠点であると説明されている。

 今や新将軍としてフェルン軍の中核として取り立てられた傭兵ゼルグスの、彼率いる一党がガーゼルで活動の拠点とする為に購入したのだと。

 事実、ゼルグスがフェルン候に取り立てられるまで、この地での活動の拠点としたため、その事実は周知されている。

 団長のゼルグスが取り立てられた後も、傭兵仲間はそのままガーゼル周辺で傭兵仕事を続けており、その治安への功績は高いと評価されていた。

 もちろんそれらは表向きの顔であり、夜光のユニオン迷子達(ロスト・チルドレン)が、ガーゼルで活動する為のセーフハウスの意味合いが強い。

 表向きの傭兵業務は、人化可能な夜光の召喚モンスターや、ホーリィや関屋配下のNPCらが順当にこなしているため、ガーゼル市民からも好意的な視線で見られることが増えてきているのが現状であった。


「え~? レベルが上がるとHPとかも激増えするじゃんか! それでも死ぬのかよ!?」

「そういうのはちゃんと防御した時よ~。対策怠ると直ぐに割合ダメージ化するのよ~」


 そのセーフハウスにて、ホーリィとユータが何をしているかと言えば、一言でいうと勉強会であった。

 ユータは『プレイヤー』の持つ力の源である『アナザーアース』の初心者であり、自身のスキルの把握自体もまだ出来ていないとわかったのだ。

 更に言うと実年齢が低すぎて、所謂常識や基礎知識の部分もかけているのが判ったのだ。

 よってユータは当面の間、比較的安全なガーゼルの街中で過ごすことになり、またその教育役として買って出たのがホーリィであった。


「不意打ちや戦闘態勢に入って無いと直ぐに割合ダメージに変わるから怖いのよ~? ユーちゃんはちゃんと気を付けないとね~」

「ホリ姉ちゃんは心配性だなぁ。あと何か説明慣れてない? 何かセンセイっぽい」

「わたし、教育学部だもの~」


 彼女はアナザーアースのヘビープレイヤーであり知識は十分に深く、また同時にリアルでは教育学部の大学生ということもあり、人の指導にある程度慣れていると言う事情もあった。

 もっともリアルでは、外見的な意味で教師に見られるのは稀という事情もあるのだが。


「へ~、ダイガクセイってやつなのか? 大人っぽいもんな」

「私の事は良いのよ~。ソレよりも、割合ダメージの話ね? 病気とか、毒とか、あと窒息とかも直ぐに割合ダメージになるから、私達『プレイヤー』って、強いけど脆いのよ~。蘇生魔法もあるけど、経験値が削られちゃうから、やっぱりいろいろ気を付けた方がいいわね~」


 自分で振りながらもリアルの事情は横に置き、ホーリィはユータに説明を続ける。

 直近で『死んだ』プレイヤーを二人も見てきたホーリィは、蘇生魔法も万能ではないと知っていた。

 高位の位階称号が可能とする蘇生魔法であれば経験値ダメージは些細なものだが、低位のそれでは莫大な経験値ダメージが発生するのだ。

 関屋の場合膨大な経験値が失われ、結果伝説級位階で2ランクも降下する事となって居た。

 伝説級ともなると、2ランク分の経験値を取り戻すにも相応の手間がかかる。


「死んでも生き返るならいいじゃんか」

「死んだことがある二人に聞いたけど、死ぬのってすっごく痛いんですって~。どっちももう死にたくないって言ってたわよ~?」


 ホーリィの言う通り、それ以前にアナザーアースでのキャラクターの身体とはいえ、傷つけば痛みを感じる。

 アナザーアースのキャラクターの肉体は強靭で高性能では在るが、同時に感覚も鋭い。

 それは痛覚にも及んでおり、例えば同じ傷つくにしても、感じる刺激は強くなる傾向があるのだとか。

 現代人であっても日々生きる中で痛みに遭遇することが多く、多少なりとも身体がそれに慣れていく傾向にある。

 しかしアナザーアースのキャラクターの肉体はつい最近までデータでしかなく、肉体そのものがまだ痛みには慣れていないからではないか、という仮説をホーリィ達は立てていた。

 であるならば、死という痛みは現実と比べてどれ程のモノになるのか。


「でも前衛職とかはそういう痛みにも耐えやすくなるみたいなのよね~。あっくんが言ってたわ~」

「それって俺みたいな盗賊だとどっちなんだ?」

「盗賊っていろんなことに気付かないといけないから、感覚も鋭くなる方じゃないかしら~? 痛みって、要は身体の異常を知らせる機能だもの~」

「うわ、おっかねぇ」


 戦闘系の称号で習得できるダメージ軽減などのスキルがあると、痛覚もある程度緩和される傾向があるらしい。

 プレイヤーの知り合いの中でもタンク系の称号を持つアルベルトはそれに該当している。

 また、鍛冶職人系の等の称号で得られる熱に対する耐性も、同様に過酷な熱さ暑さを感じにくくなると言う。

 逆に言えば、より一層感覚を鋭くするスキルを持つ称号の場合、痛みや感じる感覚は強くなると言う事だ。


「そういえば、この身体になってから、音とかよく聞こえる気がするし、暗いとこが少し見えやすくなった気がするな」

「そうそう、そういうのよ~。だからゆーちゃんは気を付けないとダメよ~?」

「わかったよ、ホリねーちゃん」


 そんな事を話していた、その時だった。


「あら?」

「ん? 如何したねーちゃん」

「ちょっとユニオンチャットがね~……え? 緊急? やっくんじゃなくて関ちゃんから?」


 ホーリィの脳裏に、ユニオンリングの機能、仲間内でのメッセージ通知があると知らせていた。

 問題はその内容。緊急となって居る事で夜光らからかと思えば、相手は関屋からであった。


「何かしら? えっと……え??」

「如何したんだよねーちゃん。顔が変だぜ?」

「言い方! そこは変な表情とかにしてよね~……じゃなくて、赤い霧が、晴れた? どういう事なの?」


 関屋からの連絡に困惑するホーリィ。

 それは、彼女らのマイフィールド、その周囲を取り巻き境界となっていた『赤い霧』の消滅を意味していた。



 同じ頃。


「おいおいおい、何だよ……妙な霧をようやく抜けたと思ったら、あの島は何なんだ」

「西の海にこんな島があるなんて……もしかして伝説の最果ての島って奴か?」

「何だって良い! あれだけデカい島なら水だってあるだろう! 助かるぞ!!」


 激しい嵐で交易路から大きく外れ、難破船のようになったとある交易船が、ある島に流れ着こうとしていた。

 それが何を引き起こすのか、知る者はまだいない。


「船? 外から!?」

「大変! 海王様に知らせなきゃ!」


 ただ波間に潜む者達の先触れが、遠雷のように異変をその島へと知らせるのみ。

 その島の名はアクバーラ島。

 万魔の主の領地であった。


―――― 第4章 終わり ――――

少し中途半端ですが、これにて4章終了となります。

ちょっとこの章はごちゃごちゃしすぎて整理できていないので、どこかで構成を調整するかもしれません。


書籍化情報ですが、アース・スター様の公式にて書影が公開されています。

表紙は仲間そろって集合写真っぽいですね。

実はちゃんとギガイアスも映っています……ほぼ背景ですが。


あとは、昨日見本が届きました。

紙の書籍は手に取るとインパクトが凄いですね……分厚すぎる。

本編+書籍化SS+後書きなども含めて390Pほどの大ボリュームとなりました。

もう少し削れたら良かったのですけどね……もっと文体スリム化しないとなぁ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何だかんだいっても結局あちこち侵略して領土を広げてるって事で皇国がロシアみたいな悪の帝国にしか見えない…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ