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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第4章 ~混迷の皇都~

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第05話 ~皇国と異邦人~

「なるほど……それで、詳しい話は僕が到着してから話す事にしたんですね?」

「ええ、こちらの二人に先に聞いて貰っても良かったのだけど、同じ話を何度もするのは効率が悪いわ」

「そういう所、変わりませんねスナーク師」


 僕は、昨夜あった大まかな出来事をレディ・スナークやライリーさん達から聞かせて貰っていた。

 そもそも、大まかな流れはこうだ。


 アナザーアース終了間際にキャラクリエイトしたばかりの新人プレイヤーの同行者となったままサービス終了を迎えたレディ・スナークは、気が付くと簡素な部屋にいたらしい。

 これはおそらく、各キャラクター作成時に得られるマイルームの初期状態のモノだろう。

 てっきり世界の消滅と同時に自身も消滅すると思っていたスナークは、その新人冒険者のおかげでこの世界にたどり着いたことになる。

 これを恩義に感じた彼女は、その少年冒険者を保護しつつ一人前の実力まで育て上げると決心したそうだ。

 とは言え、彼女たちが居たのは初期状態のマイルームであり、僕やホーリィさんのような拡張を重ねたマイフィールドではない。

 到底その中で完結した生活など営めるわけが無く、早々に外の世界に出たのだとか。


「とはいえ、驚いたわ。地形は似ても似つかないのに、直ぐ近くにあの王都に似た皇都があったのだもの」

「ああ、初見は驚きますよね……」

「警戒するのには十分よね。だから常時隠密行動に徹したのだけど……」


 新人くんのマイルームの『門』は、先に調べた中に在った皇都にほど近くに出現したモノの中の一つだったようだ。

 僕が入手した情報の中にも、皇国が調査し特に収穫のなかった枯れた『門』扱いにされていた。

 実際新人プレイヤーのマイルームでは、中に何も無いも同然だっただろう。

 早々に門を出たせいか、僕のように調査の部隊にも遭遇しなかったようだし、本気で隠形した彼女を気取るのは伝説級の<斥候(スカウト)>でもない限り不可能だったはずだ。


 そうして姿を隠しつつ、皇都がかつての王都とほぼそのままな街並みであることを逆手に取って、巧みに秘匿された裏ギルドの隠し部屋などを利用しつつ数か月、今日まで過ごしていたらしい。

 もっとも、その生活はかなり大変だったようだ。

 

「とにもかくにもコレが大人しくしなくてね。見た目通り中身がこうも子供だとは……子守は裏ギルドの仕事じゃないのよね……」

「新人盗賊ですらなく、子守とは……」

「新人盗賊って何だよ! 俺は赤松祐太ってちゃんとした名前があるよ!」

「……真の名前を明かすんじゃないわよこの馬鹿弟子!!」

「あ! そうだった!? 俺ユータって言うんだ、よろしくなおっちゃん達!」


 いまのやり取りで分かったように、そのレディ・スナークを方法はともかく救ったのは、見た目も中身も少年な新人盗賊だった。

 身に付けているのは、位階の関係もあるのだろうけど、キャラクリエイト時の初期装備ばかり。

 盗賊称号を初期に選んでいるので、動きやすい簡易的な皮鎧に短剣と言った具合だ。

 つい本名が口から出たのだろうけど、ユータと言うキャラクター名は本名そのままで何の捻りもない。

 見た目的に黒髪黒目のごく普通の少年と言った風体だけれど、この分だと外見もリアルに寄せている可能性すらあった。


「……スナーク、この数か月凄まじく苦労したんだろうな……」

「わかる? 本当に苦労したのよ……裏ギルドの掟として恩や借りは返すのが筋なのだけど、何度くじけそうになった事か」


 特に酷かったのが、致命的なまでの落ち着きの無さなのだとか。

 予測不能なまでの無軌道な挙動に、伝説級の暗殺者である彼女の隠形すら無効化して騒ぎになりかけた事が何度も重なり、最終的に移動の際は下手なことが出来ないようにす巻きにするようになったらしい。

 自分を救ったユータを守るためとはいえ、随分な扱いなように思うけれど、そうも言って居られなかったようだ。


「知っての通り、この皇都はただでさえも密偵や裏の人間が多すぎるの。更に少し調べただけでも『門』の中の存在を皇国は重要視してる。知ってるかしら? 皇都付近では、一時期プレイヤー狩りめいたことさえあったのよ」

「……それは初耳です」

「ワタシも詳しくは調べられなかったのだけど……この弟子の面倒を見ながらの調査は流石に無理があったから」


 突然起きた、『門』の大量発生。

 フェルン地方でも、大規模な調査が行われ、僕もその一環で編成された調査隊に見つかって酷い目にあった。

 この皇国中央でも同様な調査が行われ、そしてそこで皇国と接触したプレイヤーが何人か居たらしい。

 おおよそ殆どは皇国への協力を約束したのだとか。


 無理もない。

 僕らのように門を閉ざしても自給自足できるほど、マイフィールドを拡張していたプレイヤーは多数派ではない。

 モンスターを乗騎にしているアルベルトさんのようなプレイヤーでも、精々が専用の大きな部屋を用意するに留まる。

 レイド系のコンテンツ重視のプレイヤーが兵士を住まわせる都市などを作り上げていたけれど、逆にその場合は無数のNPCを養うだけの食料も必要になる。

 生産関連の称号持ちは、マイフィールドを拡張して農場や漁場を持っていたりしたけれど、ほとんどの場合自給自足ではなく他から食料を買い付けるなどの対応だったはずだ。

 つまり、ほとんどのプレイヤーは、門の外にある国に依存するほかなかったわけだ。


「まぁそれだけなら良かったのだけど、問題はそれ以外。皇国に帰順しなかった者達ね」

「おい、そりゃ何だ。まさか何も考えずに突っかかった奴らでもいたのか? 俺も戦争に加担したせいでこういう立場になったが、それでも名目は貴族に従ってたんだぞ」

「それならまだマシだったのでしょうけどね。裏ギルドの制裁が必要な輩が居たのが問題だったわ」


 僕も衛視のブリアン達の記憶や行動をリム達の精神魔法で操作していたけれど、それすらせずに調査隊を壊滅させた者もいたのだとか。

 更に不味い事に生き残りが難を逃れて皇都に報告したのだから状況は悪化、帰順した者以外のプレイヤーを狩りだすような動きになったらしい。


「それはかなり不味いのでは?」

「そうね。不幸中の幸いは、帰順した者達が協力して原因になったプレイヤーを制裁した事。結局、そのプレイヤーは殆どの財産を全て皇国に捧げて命だけは助かったらしいわ」


 そう言ったプレイヤーは何人も居て、凡そかつてのプレイスタイルがPK、つまりプレイヤーキラーのような悪行プレイを主とした者達だったらしい。

 普段の行っていたプレイ方針が裏目に出た形だろうか?

 多分、あの槍使い達が手に入れていた一連の装備の出元はおそらくそれらのプレイヤーなのだろう。

 あの槍使い達のPKめいた戦法も、もしかするとその辺りからやり方が流出した可能性もありそうだ。


「そんな札付きたちが良く大人しくなったもんだよな! あ、今だと事情が違うのか」

「ええ、調査隊を壊滅させたのと、その後のいざこざで『(カルマ)』が増えすぎて蘇生失敗率が危険域になったらしいわ」

「うへぇ、おっかねえ」


 そう、アナザーアースを基本とする僕らは、蘇生魔法が存在するけれど同時に行いによってその成功率が変動する。

 僕も最近蘇生を受けた身だからわかるけれど、『業』による成功率低下は余りに恐ろしい。

 その皇国と揉めたプレイヤーは、恐らく蘇生成功率が5割を切るところまで行ったのかもしれない。


「とはいえ、その出来事が却って皇国に帰順したプレイヤーの立場を固めたと言っていいわ。そのプレイヤーたちは今、皇王直属の異邦人隊として、各地の門を調査してるらしいわ。次第にその数を増やしながら、ね」

「フェルンやナスルロンの連中はとっとと調べたようだが?」

「それができる地力のある地方領主は案外少ないものよ? アナタたちでさえ、すんなりとここには着けなかったでしょう?」


 スナークの言うとおり、僕らも紆余曲折の末にここにいる。 

 僕が知る限りのプレイヤーで、穏便に各地の領主と穏便に関係構築できたのは、アルベルトさんとマイフィールドを農園にしていたオタマさん位だろうか。

 僕にしてもライリーさんにしても、マイルームやマイフィールドに侵入されて困ったことになったし、調査隊以外の賊に侵入されて酷いことになった関屋さんのような例もある。

 そうでなくとも兵力の無い諸侯が門の調査に二の足を踏むような事態は起き得るだろう。


「つまり、他の地方では『門』とその中の者達の扱いに困っている諸侯が殆どだと? 自分たちでは手に負えなくて皇国に泣きつくものばかりだと?」

「ええ、同時に自力でアナタ達プレイヤーを帰順させたフェルン候、そして侵攻に失敗したとはいえ異邦人を戦力として従えたホッゴネル伯の評価は、実は高いわ」


 そんな状況の中、異邦人、つまりプレイヤーの力を駆使して戦争を起こしぶつかり合ったのがフェルン候とナスルロン連合な訳だ。

 それは皇国としても黙って見てられないだろう。

 皇王が紛争を調停するという名目の他にも、アルベルトさんやライリーさんの力を脅威に感じたからこそ、御前会議という場が必要になったと見るべきだろうか。


「他にも皇国が知りたがってることが有るわ。特に最近の話なのだけど……言ったわよね? プレイヤーが行方不明になってるって」

「確かそう言ってたな。その辺で新人坊やがようやく縄抜けして騒ぎ出してうやむやになったし、話の二度手間を避けたんだった」

「そう、それが気になって居ました。何があったんですか?」


 ある意味、ここからが本題だろう。


「そうね……・皇国に帰順したプレイヤーが異邦人隊になった話はしたけれど、戦闘に向かないプレイヤーはどうなったかの話にもなるわ」

「まぁ、俺らの身内にもそういうプレイヤーは居るな」

「彼らも皇国の監視下に置かれたけれど、それぞれ得意な分野で皇国に貢献することが求められたの。ほとんどはそれぞれの『門』の中で暮らしながら……だけど、そういったプレイヤーがほんの数週間前に一斉に失踪したらしいの」


 数週間前と言うと、僕らが皇都行きへの準備をしていた頃だろうか。


「失踪? 自分たちで何処かに行ったって事か?」

「皇国から見たらそう見えたのでしょうけど、ワタシの見解は別ね。近隣の門の中を調べたけれど、ほんのわずかに争った跡があった」

「……つまり何か? この近辺にはプレイヤーを狙う何かが居るって事か? それもレディスナがようやく見つける様な痕跡しか残さないような奴が」

「そうなるわね」


 それは、何ともそら恐ろしい話だ。

 皇国としても、プレイヤーの扱いは慎重にならざるを得ない筈だ。失踪など到底認められるはずも無く、痕跡は丹念に調べた筈。

 それでも見つからず、最高峰の斥候でもあるレディ・スナークでようやく見つける様な痕跡しか残さないような存在が、この付近にいる。

 至高の暗殺者でもあるスナークとしても、足手まといを保護しながらでは到底相手に出来ないような存在が居るのだ。


「……正直に言えば、ワタシの矜持としても保護を願いたくはないわ。でもアナタたちの力は頼るに値する。あの大魔王や強大な魔像を味方にしているアナタならば」

「……昨夜の事を見ていたんですか?」

「あれだけ派手に暴れて気付くなと言うのが無理でしょう? ワタシがこの世界で見たプレイヤーの中でも、あの戦力は群を抜いていたわ」


 確かに隠蔽はしていたけれど、派手にやらかした自覚はあった。

 同時に、彼女もあの破滅の獣の一角を僕らが下したのを察したのだろうと思う。

 だからこそ、今もキョロキョロと落ち着きの無いあのユータ少年の保護を願う気になったのだろうと。


「……事情はわかりました。もともと僕達のユニオンは、プレイヤーを見かけ次第保護や協力を要請するのが方針です。とりあえずは協力関係から、でいいですよね?」

「ええ、この弟子ともどもよろしく頼むわ……ほら、弟子! こっちに来て改めて挨拶する!」

「え~さっきよろしくって言ったよ!?」


 騒がしくやり取りする少年と暗殺者を見ながら、僕はふと予感めいたモノがよぎっていた。

 戦闘を主としないプレイヤーでも、無力とは程遠いのが殆どだ。

 何なら、本人以外の戦力を含めれば、決して侮れない筈。

 だと言うのに、微かな痕跡しか残さずに彼らを攫った存在とはいかなるものか。

 そんなことが出来る超常的なモノ。


「獣? それとももっと違う何か?」


 かすかに零れた言葉は、誰に聞かれるでもなく宙に消えていった。

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