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ピュアダーク  作者: CoconaKid
第十五章
52/56

51 狙われた命

「コール、生きていたのか」

 やっつけたと思った相手が不気味に笑って立ち上がるその姿は、ヴィンセントとベアトリスを震え上がらせた。

「俺がそんな簡単にお前ごときにやられると思うのか。それよりもお客さんがいるぞ。ベアトリスの婚約者が」

「パトリック!」

 ベアトリスは思わず叫んだ。ヴィンセントと抱合っていたところを見られたことが後ろめたいのか、体が縮小したように身構え、ヴィンセントから少し 離れた。

「お前、いつやってきたんだ」

 ヴィンセントが口を開くと、パトリックはその声に反応するかのように赤い目で睨みつけデバイスを取り出して光の剣を黙って向けた。

「おい、相手が違うだろう。それを向けるのはあっち」

 ヴィンセントはコールを指差すが、パトリックは爆風のような殺気を向けてヴィンセントに容赦なく襲い掛かる。

「いつものパトリックじゃないわ」

「ベアトリス離れるんだ」

 ヴィンセントは向かってくるパトリックの剣を避けたが、腕に少しかすって血が滲んだ。

 本気のパトリックだが、コールの時と違って攻撃ができない。ヴィンセントは非常事態に危機感を募らせた。

「まさか、影を仕込まれたか。どうして」

「そいつは影が三体も入り込むほどの憎しみと嫉妬の感情を抱いていたよ。どうだ、味方に攻撃を喰らう気分は」

 コールは愉快に笑っていた。

「パトリック、お願いだからやめて」

「ベアトリス、今のコイツに何を言っても無駄だ。影に支配されて我を忘れている。とにかくベアトリスは離れていて。俺がなんとかする」


 パトリックは何度もヴィンセントに剣を振りかざした。ヴィンセントは避けながらどうすべきか考える。

 圧迫した空間を作って影をおびき出そうとしてもパトリックは力のあるディムライトなために通用しない。

 パトリックの行動と自分の身を守ることに気を取られてしまい、他の事まで目が行き届かなかった。

 二人は暫く応戦しあっていた。

 そこに部屋の奥からマーサが痺れを切らしたかのように現れた。目の前にベアトリスが立っている。

──まだライフクリスタル奪ってないの。とっくに終わってるかと思ったのに。でもなんか急にお客も増えてどうなってるの。

 マーサは後ろからベアトリスの口を手でふさぎ、もう片方の手で抱き抱え込むように押さえつけた。

 ベアトリスは不意を襲われて、身動きが取れなくなってしまった。

「コール、何してんのよ。ほら捕まえたわよ。早くライフクリスタル取ってしまいなよ」

「さすがマーサだ。気が利くぜ」

 パトリックとヴィンセントが戦っている側を、コールは悠々と歩いてベアトリスに近づく。

「コール! 卑怯だぞ。やめろ!」

 パトリックの攻撃を受けながらヴィンセントは叫ぶ。

「何が卑怯だ。戦いに卑怯もくそもあるか。ベアトリスを救いたいのならそいつを始末したらいいことだろ」

 コールに正々堂々とした策など、はなっから通じないのはヴィンセントも判りきっていた。

「パトリック、目を覚ませ。ベアトリスが危ないんだ。頼むから目を覚ましてくれ」

 懇願するヴィンセントに容赦なくパトリックの剣はヴィンセントの肩を貫く。ヴィンセントは声を上げ酷く苦しみだした。

 ベアトリスは口を押さえられたまま、目の前の状況に悲痛の叫びをこもらせた。このままではヴィンセントはパトリックに殺されてしまう。二人を助けたいがために、近づいてきたコールに救いの眼差しを投げかける。そして自分がどうすべきか悟っていた。

「さて、ベアトリス。さっきは邪魔が入ったが、今度こそライフクリスタルを頂く。もう抵抗するなよ」

 ベアトリスは体の力を抜きあっさりと大人しくなる。マーサは自分は必要ないと押さえていた手を離し、コールの邪魔にならないように少し離れた場所に移動 した。

「なんだちゃんと言うことを聞けるじゃないか。いい子だ」

「お願い、パトリックを元に戻して。そして二人には手を出さないって約束して。そしたらライフクリスタルあなたにあげてもいい」

「取引きか。いいだろう。最後の願いくらい聞いてやろう(と一応言っておこう)」

「ベアトリス! そいつが約束なんか守るはずがない。俺のことはいいから、早く逃げるんだ」

 ヴィンセントはパトリックを抑えながら必死に叫ぶ。

「もう逃げても無駄なのは私がよく一番知ってる。コールからは逃げられない」

 ベアトリスは目を閉じた。

 コールは再びベアトリスの胸に手をかざして光を吸い取る。光が徐々に集まりだし形を形成し出した。ベアトリスの意識が遠のき始める。

「ベアトリス! くそっ! パトリックいい加減に目を覚ませ、ベアトリスが死んじまうぞ!」

 ヴィンセントは一か八かに賭けた。パトリックの首根っこを押さえつけて持ち上げる。パトリックは息ができなくなり苦しさで足をバタバタさせていた。

 死の淵を彷徨うほどに窒息しかけていたとき、背中から影が三体浮き上がりそうになってきた。パトリックが先に死ぬか、影が先に出るか、ヴィンセントの手も震え出す。

 パトリックの顔は真っ青で危険な状態となり、影はとうとう見切って三体ともパトリックの体から飛び出した。ヴィンセントはすぐにパトリックから手を離 し、三体の影を切り刻んだ。

 パトリックは床によつんばになって、何度も苦しそうに咳き込んで喘いでいる。

「パトリック生きてるか」

「ああ、生きてるよ。僕に何をしたんだ」

「説明は後だ。ベアトリスが危ない」

 二人がベアトリスを見たとき、ベアトリスは伐採した木のごとく床に倒れこんだ。

 そしてコールの手には光り輝く丸みを帯びた透明な石が握られていた。それを手にしながらコールは大声で笑っていた。

「ベアトリス!」

 ヴィンセントもパトリックも悲痛な叫び声を上げた。

 その瞬間破るようにドアが開き、リチャードとアメリアが駆け込んできた。二人は一瞬で状況を把握すると真っ青になった。

「遅かったなリチャード。ライフクリスタルは頂いたよ。これで全てが俺のもの」

 コールは高らかに笑い勝利宣言をした。

 ヴィンセントは床に無残に転がったベアトリスを見て怒りを爆発する寸前まで来ている。

「ヴィンセント、怒りで爆発させても何も解決にはならない。落ち着くんだ」

 リチャードが叫んだ。

 パトリックも、アメリアも、呆然と立ちすくみ、悲痛な思いで泣き叫んでいた。怒りと悲しみが絡み空気がよどむくらいの振動があたり一面にいきわたる。

 誰もがショックで打ちのめされていたとき、周りが急激に乳白色の柔らかい光に包まれ、暗い部屋から突然違う空間へと移された。周辺は霞が漂った柔らかい感触の光で満ち、優しい白さに包まれて癒されるような空間だった。

「なんだ、ライフクリスタルを奪った影響なのか。もしやここはホワイトライトの住む場所か」

 コールは周りを見ながら呟いた。

「大雑把に言えばそうでもあるが、厳密にいうとここは私が作った隠し部屋みたいなもんだ。ここも時間の概念がない。永久に永遠の場所。ここに居る限り全てはそのままで何も変化しない」

「誰だ?」

 突然コールの側にブラムが姿を現した。コールは警戒して身構えた。

「ブラム! どうしてもっと早く来てくれなかったのよ。ベアトリスのライフクリスタルが奪われしまった。彼女は彼女は」

 アメリアが責め立てて泣き叫ぶ。側でリチャードがなだめるように彼女の両肩を支えていた。

「安心しなさい。ベアトリスはまだ死んではいないし、そのライフクリスタルもまだ完全じゃない」

「あんたも、ホワイトライトか。どういうことだ、これが完全じゃないとは」

 コールが聞く。

「それはあることをして初めて意味を成す。ほらごらん、その証拠にベアトリスが目を覚ましたよ」

 ベアトリスは目を開き、体を起こそうとするが力がなく立ち上がれない。重力に押し付けられるように地面に倒れこんでいた。

 パトリックが咄嗟に走りより、ベアトリスを支えた。

「パトリック、元に戻ったんだね。よかった」

 ベアトリスは声を絞り出し笑顔を見せる。パトリックは言葉につまるが、涙を一杯溜めた目で慰めようと精一杯の笑顔を返した。

 ベアトリスが辺りを見回し、アメリアとリチャードが居ることを知って安心した表情になった。ヴィンセントも野獣の姿ながら無事を確認して満足していた。 そして髪の長い男に視線がいった。

「あなたは、あの時の人」

「やあベアトリス、覚えていてくれたんだね。中々私を呼んでくれないから、近づきようがなかったよ。忘れられたかと思っていた」

 ブラムが状況も把握せず何事もなかったかのように軽く笑いながらしゃべる。

「ブラム、どういうこと。いつベアトリスに接触したの」

 アメリアが驚いて口を挟んだ。

「そんなに驚くことでもない。私は少しベアトリスの苦しみを和らげようと試みただけだ。自己紹介も兼ねてだったが。だが無視されてしまったようだがね。 おっと、こんなことはしてられない。ライフクリスタルを奪われたらこの空間でもベアトリスの存在が危うくなってしまう」

「おいおい、勝手なおしゃべりは遠慮して貰おうか。それよりもどうすればこのライフクリスタルが完全になるんだ。教えろ」

 コールはブラムに飛び掛るが、ブラムはすっと姿を消したように避ける。

「俺よりすばしっこいじゃないか」

「コール、そなたは私を捕まえることはできない。以前もそうであっただろう。私の気を掴みながら見つけることもできなかった」

「おまえ、あの時の奴か。やはりからかっていたのか。くそー」

 コールは意地になりブラムを追いかけるが何度捕まえようとしても手を延ばしたとたんに姿を消して、違うところに現れた。

「ブラム、遊んでないでベアトリスを助けて」

 アメリアが叫んだ。

「パトリック、ベアトリスをこっちに連れて来い」

「はい、ブラム様」

 パトリックはベアトリスを抱きかかえ、ブラムの側に運ぶ。

 ブラムは空中で息を吹きかけやわらかな白い霧を発生させる。それをかき集めベッドのようなものを作り上げた。

 パトリックはベアトリスをその上に寝かせる。そのベッドはふかふかとした真綿でできた空に浮かんだ雲のように見えた。

「ベアトリス、寝心地はどうだい」

 ブラムが聞くと、ベアトリスは寝心地のよさを弱々しい笑顔で表現していた。

「かなり弱ってきたみたいだ。言葉も発せられないか。これは早くしないとヤバイかもしれない」

「ブラム様、ベアトリスは助かるんですか。教えて下さい」

 パトリックが不安でたまらない表情を見せる。

「コールの持ってるライフクリスタルを元に戻さない限り、ベアトリスはこのままでは消滅してしまう」

 コール以外の全てのものは嘆いた。

「おいおい、いい加減にしてくれないか。追いかけっこさせられるだけでも頭にくるのに、さっきから途切れ途切れに話すから話が見えずにイライラするじゃな いか。もっと俺にもわかるように説明してくれないか」

 コールがライフクリスタルを何度も宙に投げたり掴んだりとこの状況に呆れだした。

 ベアトリスの命でもあるライフクリスタルを玩具のように扱うコールに、ヴィンセントもパトリックも我慢ならない。隙をついて奪い返そうと気を抜かずに コールを睨んでいた。

「ライフクリスタルはホワイトライトの命でもあるが、持ち主があることをしなければそれは奪われても正常に機能しない仕組みになっている。ライフクリスタルを奪われてもホワイトライトは暫く生きていられるが、ある程度の時間が経てば体は消滅しそれは死を意味する。アクティベイトしていないライフクリスタルもまた同じように消滅する」

「だったらどうすれば、これはアクティベイトするというんだ。ベアトリスが消えるまでに何をすればいいんだ」

 コールはクリスタルライフを握り締め問うた。

「私がそれを言うと思うか。このままではライフクリスタルまで消滅してしまうぞ。ここは一度ベアトリスに返した方がいいのではないのか」

「そんな手に乗るか。お前が白状しないのならこっちから聞き出すまでさ」

「だから無理だというのがわからないのか。私を捕まえられぬ」

「だったらこれはどうだ」

 コールは素早いスピードでアメリアを人質にしようと襲い掛かった。しかしブラムはお見通しのように余裕で笑みを浮かべる。

「だから無駄だというのが判らないのか」

 アメリアはすっと姿を消すと、ブラムの側に瞬間移動をした。コールは肩透かしにあい、近くにいたリチャードに取り押さえられた。

「アメリア、これで判っただろう。思い人を引き寄せる力。私が君を愛していなければ使えない力だ」

 アメリアを目の前にブラムは微笑んで語った。アメリアはそれでも素直になれず、顔を背けた。

「思い人を引き寄せる力…… 愛していなければ使えない力」

 ヴィンセントが呟いた。

 コールはリチャードと揉み合った。リチャードも必死にベアトリスのライフクリスタルを奪おうと、コールを締め上げるが、コールに怪我をした傷を攻撃され、 一瞬の怯みに取り逃がしてしまった。

「いつまでそこに突っ立てるんだ、ヴィンセント。命を賭けてでもベアトリスを守るんじゃなかったのか」

 ブラムに言われ、ヴィンセントははっとする。野獣の姿のまま、恐ろしい形相で立ち向かう。破壊の力を使おうとするが、パトリックに刺された肩が痛く力が入らなかった。

 リチャードも左腕に負った傷を庇いながらヴィンセントと協力してコールに立ち向かう。

 傷が邪魔をして二人とも本来の発揮ができないでいた。

「あの傷はデバイスの剣で負ったもの。パトリックがやったのか」

 ブラムが三人の戦う姿を高見の見物のように見ながら聞いた。

「全く二人を傷つけるつもりはなかったのですが、結果的にそうなってしまいました」

「そうか。そんなに悲観するな。ディムライトとしてダークライトを始末するのは悪いことではない。お前は当然の義務を果たしただけだ。コールはともかくとして、あの二人も我々には邪魔な存在。パトリック、あの二人を始末するんだ」

 パトリックは衝撃を受けていた。

「ちょっと何を言ってるの、ブラム。リチャードもヴィンセントも私達の味方。それはあなたもわかっていることじゃない。パトリックだってそんな命令に従えるはずがない」

 アメリアが非難した。

「パトリックは私の支配下にある。そして私に忠誠を誓ったディムライト。私の命令には背けない。背けばそれが何を意味するかパトリックにはわかっているはずだ。今ならあの二人はコールに気を取られている。不意をついて背後から剣で突き刺せば始末できる。それにヴィンセントは君にとっても邪魔な存在だろ。さあ、やるんだ」

「ブラム、めちゃくちゃなこと言わないで。パトリック、言うことなんて聞かなくってもいい。ブラムは狂ってるわ」

「私が狂ってる? その狂ってる私を好きでいてくれたのは誰だ? 呼び寄せる力は、本人が愛しているだけでなく、相手も同じ気持ちを持っていなければ反応しないのはアメリアも良く知っているだろう」

「やめて!」

 アメリアは子供のように耳をふさぎ、無駄だと判っていても頭を強く振って逃れようとした。ブラムの言う通りと判っていても自分の本心が素直に認められず許せない。

 ブラムの言葉ですっかり心乱され周りが見えなくなった。

「さあ、パトリック、あの二人を始末しろ。その間にコールは私が始末をしてライフクリスタルを奪い返す。早くしないとベアトリスが消えてしまうぞ」

 パトリックはブラムの命令には逆らえなかった。ホワイトライトは絶対的存在であり、命令に従わなければ自分自身の存在、家族や親戚、そして自分の町の全ての ディムライトに影響を与えてしまう。

 パトリックは背に腹は変えられなかった。

 ベアトリスの青ざめた顔を見つめ、パトリックは覚悟を決めた。

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