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ピュアダーク  作者: CoconaKid
第八章
26/56

25 潜んだ風波

 かき乱された心を整理するように、それぞれの週末は羽目を外すことも、目立った事件が起こることも、全くない静かなものの様に思われた。

 だがそれは表面的なもので、確実にそれぞれの思惑はその下で渦を巻いていた。

 コールはホワイトライトの挑発に爆発し、リチャードにも正面からぶち当たる覚悟を決めた。そうでもしないと隠れてこそこそ罠を張るだけではホワイトライトなど捕まえることはできないと判断したからだった。

 油断した時を狙う奇襲作戦を企み、それを実行に移す本気の構えを見せ始めた。

 リチャードは仕事仲間からの情報はもちろん、力の弱いダークライトたちに接触してコールの動きを探っていた。同じダークライトにつくならどっちが得か、コールに気をつけろと暗黙で自分の力を見せ付けていた。

 アメリアは首の痛みも取れ、心配するベアトリスを押しのけ、仕事の遅れを取り戻すために休日出勤に出かけた。何かをしなければ、色々なことで心が押しつぶされそうになっていた。

 パトリックはベアトリスとの適度な距離を保とうと、一人で出かけては頭を冷やしていた。そして同時にダークライトによる不穏な動きはないかデバイスを片手に注意を払っていた。

 ヴィンセントはポーションを見つめ、カレンダーと朝日を浴びることができるこの先の天気予報をチェックしていた。確実にベアトリスに近づける日を検討し、その時のためにどうすべきなのか今後の対策を練っていた。

 そして、中心人物のベアトリスは誰も居ない家で、スナックを片手にテレビを観て呑気に過ごしていた。自分が原因で周りがそれぞれの思惑で動いているなど知る由もなかった。


 週末が明けた月曜日、どんよりとした曇り空で肌寒かったが、ヴィンセントとジェニファーのことを考えると、心も晴れなかった。

 学校が崩壊した後の登校は、あまり気が進まない。

 混乱が続くのに、また一人ぼっちが心細かった。

「待って、ベアトリス。僕が車で送ってってあげるよ」

 パトリックが後ろから叫んだ。

「いいよ、歩いていくのも運動なんだ」

 パトリックはそれならと一緒に歩いていくことにした。

 断ってもどうせついてくるだろうとベアトリスは好きにさせた。だが、一緒に歩いてくれる人がいると幾分心が落ち着いた。

 二人して肩を並べて学校に向かう。スクールバスが行きかい、子供達が自分の学校目指して歩いている光景が目に入る。朝は通学ラッシュだった。

「本来なら、僕も高校生で、こうやって学校に通っているところだったんだな」

 パトリックはそれが楽しいことのようにしみじみと語った。

「その若さで大学まで卒業しちゃってるし、先を急ぎすぎだよ。だけどそれだけパトリックは優秀だったんだね。尊敬する」

「違うよ、ただ無理をして急ぎすぎただけなんだ。本当はとても苦しかった。だけど僕はそうすることで自分を奮い起こしてる部分があった。勉強は自分だけ一生懸命やればいいと思っていたけど、学校生活は全く楽しくなかったよ。周りは全部年上で、僕のこといいように思ってなかったから友達なんて一人もできなかった」

「普通に通ってる私だって、あまり学校生活楽しくないかも。私も友達あんまりいないし……。学校ではどこか誰かに変なこと言われてそうで、といっても実際言われてるんだけどね。だからいつもおどおどしてしまう」

「ベアトリスらしくないな。昔の君なら、知らない人にでも声を掛けて、すぐに友達になっては皆から愛されていたのに。でもここでの暮らしが君に合ってないだけなんだよ。それは君のせいじゃないと思う」

「私のせいじゃない? まるで何か他に原因があるみたいな言い方ね」

 ベアトリスはパトリックの無茶な慰め方に笑ってしまった。パトリックはうまく言えないもどかしさを抱え、言葉を選んで説明する。

「ああ、君は特別な人なんだよ。変な虫がつかないようにするには、最初から人が寄ってこない方がいいんだ。だから寄せ付けちゃいけないオーラが身を守るために出ているだけさ」

「えっ、それって、私には自然に嫌われるオーラが出てるみたい。いくらパトリックが慰めようとしてくれても、なんだか余計に落ち込んじゃうな」

「あっ、そういう意味じゃなくて……ごめん。だけど、そんなこと気にせずに、学生生活は自分のやりたいこと思いっきりやるといい。周りがなんと言おうと、強く自分を信じてごらん。君はなんだってできるんだよ。時にはアメリアの言うことなんか無視する勢いでさ」

 パトリックの言葉はベアトリスの胸に光が差し込むように届く。少し勇気が湧いて自然と顔がほころんでいた。

「ありがとう。なんだか今日一日頑張れそうな気がする」

 学校の門の前まで来ると、パトリックはまた後でと手を振り、ベアトリスが校舎に入るまで見送った。

「ねぇねぇ、プロムの相手見つかった?」

 パトリックが女子生徒の会話をすれ違いに耳にした。

「一緒に行きたい人がいるけど、今探りいれてるところ。そういうあんたは」

「私は多分うまく行きそう」

 キャッキャという黄色い笑い声と共に、女子生徒達は校舎へ向かっていた。

「プロムか」

 パトリックは小さく呟いて元来た道を戻っていった。


 学校内はほんの数日で、ガラスが全て新しいものに入れ替わっていた。しかし教室内はまだ完全には元通りになったとは言いがたく、隅々には壊れたものの破片が残り、荒れた雰囲気はそのままだった。

 ベアトリスはパトリックがくれた勇気を抱いて、教室内へと足を踏み入れた。

 ジェニファーがアンバーと黒板の前で楽しそうに話している姿が目に入った。ベアトリスはできるだけ平常心を装い、いつも通り振舞うがジェニファーがベアトリスの存在に気がつくと露骨に無視をした。

 ベアトリスは仕方がないと黙って自分の席に座る。

 話をする友達も居ないとわかっていたので、時間を潰すために予め本を持参していた。それを取り出し、読み始めた。

 これなら誰にも迷惑はかけず、本という世界に入り込んで暫しの孤独も紛れる。考えた末に用意したものの、いざ学校で本を読もうとしても自分の置かれてる立場が心に大きく影響して全く頭に入ってこない。

 それでも、教室では疎外感を感じこれを乗り越えるには読んでるフリをするしかなかった。

 そしてヴィンセントの席に目がいった。まだ彼は来ていない。彼の席を見つめながら頬を手で押さえ机の上で肘をついていた。

 その様子を遠くからジェニファーは憎悪の感情を抱き睨んでいた。

「ジェニファー、どうしたの。表情が怖いわよ。いつものあなたらしくない」

 アンバーに指摘されて、ジェニファーは一瞬はっとしたが、自分を取り戻したとき体の中から何かが暴れる感覚を覚えた。挑発されるような押さえられない感情がくすぶっているようだった。

 それはベアトリスを見ると波が押し寄せるように表面に出てくる。ジェニファーはベアトリスの存在を無視しようと必死に見ないようにし た。

 クラスが始まるギリギリの時間にヴィンセントが教室に入ってきた。ベアトリスはその姿にドキッとしてしまう。

 思わず目を伏せたが、首を横に振り、自分の 立てた仮説を抱きながら勇気を振り絞りヴィンセントを見ていた。

 ヴィンセントは無表情で、誰とも接触する気を見せず、ただ前を向いて席に着いた。ジェニファーがチラチラと様子を伺っていたが、ヴィンセントはもう言い訳しようとも近づこうとも、ジェニファーを見ることすらしなかった。

 ジェニファーはそれが気に入らず、目を細めきつい表情になっていた。

 先生が教室に入ってくると生徒の心のケアーを兼ねて、その日のクラスの一時間目は変更されてホームルームとなった。

 それは表向きで教室の片づけをさせられた。それが終わると自習となり、まだすんなりと授業再開とまではいかなかった。

 生徒達は好き勝手にグループを作り、話し込んだりしていた。ベアトリスは一人ポツンと教室の隅で本を読む。ページはいつまでも変わらず同じところを開いていた。

 ヴィンセントもまた誰も近寄せることもなく、一人で焦点も合わさずポケットに手を突っ込んでだらけて座っていた。

 そして昼休みになると、各自昼ごはんを求めて教室を出て行った。ヴィンセントもその一人だった。

 生徒がまばらになった教室で、ベアトリスは一人本を読むフリをしながら食事をしていた。そこにベアトリスを呼ぶ声がした。

 声のする方向を見ると、ドア附近でレベッカとケイトが手を振っていた。ベアトリスは席を立ち上がり、二人に近寄った。

「どうしたの、二人ともこんなところまで」

「これを渡してくれってたのまれて」

 レベッカが四つ折にされた紙を差し出した。ベアトリスはきょとんとしてそれを受け取った。

「それじゃちゃんと渡したからね」

 ケイトが早口で言うと、二人は逃げるように去っていった。辺りを気にしながら何かに怯えているようだった。

「変な二人」

 ベアトリスが席に戻ってその紙を広げて驚いた。

 ヴィンセントからだった。

 心臓がドキドキと大きな音を立てて、息が速くなる。ごくりと唾を飲み込み、震える手でその手紙を読んだ。



 親愛なるベアトリス


 君とジェニファーが仲たがいをしてから、僕は君に安易に近づけなくなった。

 僕が君に近づけばもっと君たちの仲を複雑にしてしまうと考えたからだ。

 教室内では適度の距離を保ってしまうけど、僕はいつも君の事を考えている。

 君に迷惑をかけてすまないと思ってる。

 今度ゆっくりと二人だけで君と話がしたい。

 その時はまた僕と一緒に授業をさぼってくれるかい?

 また連絡する。


 ヴィンセント


 

 ベアトリスは手紙を抱きしめる。水面のように目が潤んでいた。ヴィンセントが自分のことを考えていてくれたことが感激するほど嬉しくてたまらなかった。

 ベアトリスは飛び上がりたいほどの感情を抱え、一人で浮かれていた。

 そこへジェニファーが教室へ戻ってきた。

 ベアトリスが一人でも笑顔で楽しそうに座っている姿が気に食わない。

 足が自然にベアトリスの方へ向かい、殴り飛ばしたいほどの感情が湧いて、殴りかかるために本当に拳に力を込めていた。

 ベアトリスはジェニファーが近づいてることにも気がつかず、ヴィンセントの手紙ばかりうっとりと見つめていた。

 ジェニファーがベアトリスに近づこうとしたその時、ジェニファーの体が沸騰しそうなほど熱く煮えたぎった。苦しくて呼吸困難に陥ると、我に返り後ずさった。

 教室内に生徒が次々と帰ってくる。ジェニファーはそれに紛れて自分の席に戻っていった。

 ヴィンセントが戻ってくると、ベアトリスはすぐに彼を目で追った。

 ヴィンセントも何が起こってるかわかっているのか、ベアトリスの顔を見なかったが、少し口元を上向きにしていた。

 ベアトリスはそれだけで自分にサインを送っていると感じ取った。

 しかしそれをジェニファーも目を光らせて見ていた。体の中で何かが今すぐ暴れろと指示を出す。それに葛藤するかのように胸を押さえていた。

 ジェニファーは人目のつくクラスの中だと自制し、まだこの時はなんとか感情を制御できていた。

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