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ピュアダーク  作者: CoconaKid
第六章
19/56

18 見知らぬ想い

 パトリックがまた何かを企んでると思い込んだベアトリスは、その手には乗るかと怖い形相で振り返った。

「いい加減にして…… ん?」

 そこにはおどおどとしたグレイスがいた。

「ご、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんです」

「ち、違うのよ。あの、他の人と間違えてその、グレイスだとは全くわからなくって」

 ベアトリスは慌てふためいた。

「そ、そうですか。誰かと待ち合わせですか?」

「待ち合わせというより、そのはぐれちゃって、今探してたの。ごめんね、怖がらせて」

「いえ、私こそ。でもここでベアトリスに会えて嬉しいです。よかったらそのお友達も交えて一緒にお茶でもどうですか。いつものメンバーがあっちに揃ってますけど」

 グレイスははにかんだ笑顔を見せて一生懸命誘ってきた。心を開いて接しているのがベアトリスには伝わった。

 その気持ちは有難く素直に嬉しかったが、パトリックをこの子たちの前で紹介するのは避けたく、守りの姿勢に入った。

 遠慮しようと断る文句を考えているときだった。

「よぉ、やっと追いついた。僕を放っていくなんて酷いじゃないか」

 最悪のタイミングでパトリックが現れた。ベアトリスは失敗でもやってしまったかのように片手で顔を抑えた。

「あっ、あなたは」

 グレイスが目を見開いて驚き、両手で口を押さえている。

 パトリックはグレイスを見ると、同じディムライトであることに警戒心が強まった。

 ホワイトライトを目の前に、親しくないディムライトと顔を合わせると無意識に張り合う体制となってしまうらしい。

「やあ、君とはどこかで会ったことがあるね。そうあのイベントがあったときだったね。ベアトリスと友達だったのかい」

 落ち着いた物腰柔らかい言い方でも目つきは厳しかった。

「えっ? グレイスと知り合いなの? イベントって何?」

 ベアトリスは意外な展開に驚いていた。

「ああ、スペリング大会(単語の綴りをどれだけ知ってるか競う催しの事)みたいなものだよ。能力を競って誰が一番優れているか決める大会のことさ。そこで昔会ったのを覚えてたんだ。この子もかなりいい成績だったからね」

 パトリックは若いディムライト同士が競う大会のことを意味していた。

 誰が一番優れているか、頭脳、力を競う大会。ホワイトライトたちにアピールできると考え、ライ トソルーションをより多く手にするための手段の一つとして、ディムライトたちには認識されている。

 優れたディムライトたちはホワイトライトも優遇するため、力の見せ所として定期的に催しが開催されていた。パトリックが護身用の特別な装置を持っ てるのも、こういう大会で努力して手に入れた結果であった。

 またディムライト同士の情報交換や交流の場でもあり、パトリックはベアトリスを探し出すために何か情報を得ようとそういう場所には積極的に参加していた。

 グレイスはすっかり怖がってしまい挙動不審になっていた。

 パトリックに、ベアトリスの存在を隠してたと誤解をされてるのが、彼の目の表情からとれた。

 以前会ったときに、子供の頃のベアトリスの写真を見せられ尋ねられたことがあった。その時にベアトリスがホワイトライトだということと、パトリックの婚約者だということを知った。

 もちろん側には残りの三人もいた。

「あの時は、本当に知らなかったんです」

 突然グレイスは大きな声をあげ主張した。逃げ出したくなる気持ちを抑え、体が震えている。

「ちょっと、グレイス、どうしたの。落ち着いて」

 グレイスは人見知りをしている。

 慣れてない人に会うと怖くなって、パニックを起こしてるのかもしれない。

 ベアトリスは真相のことも知らずにグレイスを庇った。

「パトリック、あんまりこの子を脅かさないで。私も最近仲良くなったばかりで、この子人見知りしちゃうんだから。こんなかわいらしい子になんて目で見てるのよ」

 パトリックもやりすぎたかと反省する。

「ごめんごめん、この子、見た目と違ってかなり出来る子だったから、ちょっとライバル心が芽生えて…… すまなかったな」

「ライバルって、パトリックはもうすでに大学卒業してるじゃない。大人気ない」

「まあそうなんだけど、この子だって、二年くらい飛び級してるんだぜ」

 パトリックの言葉にベアトリスは目を丸くした。

「えー、グレイスが飛び級。そしたら私よりもさらに三つ年下ってこと?」

 グレイスは遠慮がちに頷いた。

「そう言えばグレイスは小さいし、他の皆より幼い感じがする。だけどどうして皆そんな簡単に飛び級なんてできるの」

「ベアトリスだって、やろうと思えば出来たと思うよ。だけどアメリアが許さなかったと思う。あの人決まったことはきっちりと順序立てないと気がすまない人だから」

──それにそんな目立つことしたらベアトリスの正体がばれてしまうことを懸念したんだろうけど。

 パトリックは心の中でつけたした。

 グレイスはまだ落ち着かず、パトリックを怖がっていた。

「あの、私、その、お邪魔してすみませんでした。それでは失礼します」

 逃げるように走って去ってしまった。

「んもう、これもパトリックのせいだからね。とにかくここで待ってて、すぐに戻ってくるから」

 ベアトリスは非難の指先をパトリックに向けた。そして放っておけずにグレイスの後を追った。

「待ってグレイス」

 折角心開いて誘ってくれたのにと思うとベアトリスは申し訳がなかった。

 グレイスが人見知りなのは飛び級したせいで、年上の人間といつも接して気を遣うからかもしれないと考えた。

 そんな中で自分には心開いてくれるグレイスだからこそ、放っておくわけにはいかなかった。

 グレイスの後を追いかけ、フードコートまで来るとそこにはいつもの三人がいた。グレイスが半泣き状態で戻り、ベアトリスも一緒についてきたので、三人は何事かと驚いていた。

「ちょっと、グレイスどうしたの。それにベアトリスも、どうしてここに?」

 レベッカがそう言うと、不思議そうにグレイスとベアトリスの顔を交互に見ていた。

 ケイトも同じようにしていた。

 だがサラだけ、ベアトリスが現れたことでさらに機嫌が悪くなり、無意識に睨んでしまった。

「ハーイ、みんな。あのね、そこでグレイスに偶然会ったんだけど、私と一緒にいた友達が怖がらせてしまって、それでグレイスが怯えてしまったの。だからちょっと心配でついてきたの。グレイス本当にごめんね。ちゃんとまた注意しておくから」

「ベアトリスの友達って? まさかジェニファー」

 ケイトが小声でレベッカに言うと、二人はあたふたしていた。

「グレイスのことは私達に任せて下さって大丈夫ですから」

 サラが面倒くさそうに言った。その裏には早く帰ってという気持ちが込められていた。

「そうだよね、それじゃ私はこれで…… 」

 ベアトリスはこの言葉ですっーと帰れるはずだった。それなのにそれができない。後ろからパトリックが現れてしまった。

「ん、もう! 待ってて言ったのに、なんで来るのよ」

 ベアトリスが困った顔をしたとき、ケイトとレベッカは呆然とし、そしてサラは思わず席を立って直立していた。

「パトリック……」

 小さく呟いたのはサラだった。心の中で必死に感情をコントロールしようと葛藤している。

「やあ、仲間が揃ってたのか。へぇ、みんなベアトリスの友達かい」

 パトリックは一人一人の顔を見る。怪しいディムライトはいないか確認するようだった。

 ケイトとレベッカは椅子の背もたれに仰け反ってしまい、硬直していた。

 グレイ スはうつむき加減で恐々と様子を見ている。

 だがサラはパトリックと目が合うと心に電気が流れたようにピクっと震え、その衝撃で突然に鼓動が早くなった。

「ちょっとまた怖がらせてるんじゃないの。この子達も最近友達になったばかりなんだから、あまり変な行動とらないでよ」

「わかってるって。それより皆に僕のこと紹介してくれないの? 婚約者だって」

「ちょっと、それはまた違う話でしょうが!」

 ベアトリスはあたふたと慌てるとサラが冷静に口を挟む。この状況をどうしたらいいのか、咄嗟に計算していた。

「知ってます」

 どこかでみたことあると、パトリックは目を細めてサラを注視した。

 サラはにこっと微笑むとパトリックに近づいた。

「私はサラです。そしてこれが、ケイトとレベッカ。グレイスはさっき会ったからもうご存知ですね。以前ベアトリスにも言ったんですけど、あなたの噂は聞いた事がありました。だから婚約者であることも知ってます。こうやってお会いできて光栄です」

 パトリックはグレイスのことは印象に残っていたが、他の三人は見たことがあるくらいにしか覚えてなかった。

 だが、大会では手当たり次第にベアトリスのことについて質問していたので、彼女達にも質問したことを認識していた。

「そっか、それなら話は早い。こちらこそよろしく」

 パトリックも安心した顔でサラに答えた。

 サラは自分をよく見せようと背筋を伸ばし、品のある笑顔を作る。そしてベアトリスに近づき腕を絡ませた。

「私達、先日知り合ったんですが、今ではすっかり仲良しなんです。ねぇ、ベアトリス」

 機嫌が悪かったさっきまでの態度と全く違い、サラの行動は残りの三人にはわざとらしく見えた。

「うん、そうなの。私の方が仲良くして貰ってるって感じかな。だから、失礼なことしないで」

 パトリックに向かってベアトリスは釘をさした。

「それから、婚約者って話は誰にも言わないで。これは書類上のことであって、私は認めてない話なの」

 ベアトリスが四人に向かってそういうと、今度はパトリックが口を出す。

「おいおい、僕がこんなにも愛しているのにそれはないだろう。これから一緒に住むんだし何も隠すことはない」

 このパトリックの発言はサラには耳をふさぎたくなる言葉だった。唇を無意識に噛んでしまう。

「あんもう、また誤解するようなことを。違うの、ただのゲストで暫く泊まるだけだから」

 ベアトリスがパトリックの足を踏んだ。

「痛っ、何すんだよ」

「とにかく、邪魔をしてごめんね。私達はもう行くから。また学校でね」

 ベアトリスはパトリックの腕を掴んで引っ張った。時々後ろを振り返り、苦笑いしてはバイバイと手を振って去っていった。

 四人は暫く口が利けないほど圧倒されていた。そしてサラはパトリックを見えなくなるまで寂しげに目で追っていた。

「誤解されて怖かった。前回の大会でパトリックにベアトリスのこと聞かれたけど、写真見せられても子供の時の写真で今と全然違うし、シールドが強くてあの時は本当に同じ学校にベアトリスがいたなんて気がつかなかった。ちゃんと誤解とけたかな。それとも連絡先もらってたけどベアトリスに気がついた後すぐに連絡しなかったこと怒ってるのかな。どうしよう」

 グレイスはまだ怖がっていた。

「だからあのとき、早く連絡しようって言ったのに、サラがダメとかいったからややこしくなっちゃったのよ」

 レベッカが言った。

「済んだこと責めても仕方ないじゃない。とにかく自ら来たんだから私達にはもうこれ以上責任はないわ」

 ケイトはどうにでもなれとため息混じりに言った。

 サラは何も言わずまだ二人が去っていった方向を焦点も合わさず見ていた。


 サラがパトリックに初めて会ったのは大会よりもずっと前のことだった。

 親戚付き合いで、挨拶に訪れたとき、そこで偶然パトリックを見かけた。

 それはベアトリスが連れ去られて数年たった頃だったが、ディムライトならそこで何が起こったか、必ず耳にし、サラもすぐにベアトリスの話を知ることとなった。

 その話のせいでサラはパトリックを見かければ、興味本位に観察するように眺めていた。

 パトリックと話したことはないが、見つめているうちに、しっかりとした風貌から知らずと憧れの対象となってしまった。

 そしてディムライトが集まる大会に参加したとき、グレイスがいい成績を修めて勝ち残り、それに付き添った。

 その時にパトリックが現れ、すっかり大人びたその姿にサラの心を釘付けにしてしまった。

 サラはその時パトリックに恋をした。どうしようもない恋だった。

 人探しをしているからと、パトリックが見せた子供の頃のベアトリスの写真は、サラが素敵なホワイトライトを想像するにふさわしいものだった。

 自分とは全く 違う世界の人だとベアトリスにも憧れを抱き、お似合いのカップルだと思い込むことで自分の感情を抑えていた。

 同姓同名で以前からベアトリスのことは気になっていたがずっと半信半疑だった。

 ホワイトライトの光を感じたことでやっと本人だと気がつき、そして一緒に時を過ごせば、ほんの短時間でイメージとはかけ離れた彼女に酷く失望してしまった。

 今ではすっかり嫌いになっている。

 だからこそ恋焦がれるパトリックには、自分が認められないベアトリスの側に来て欲しくなかった。

 ましてや『愛してる』などという言葉など聞きたくもない。一層のことホワイトライトだから力を手に入れたくて近づいていると言ってくれたらどんなに救われるかとあれこれ考えていた。


「ちょっと、サラ、いつまでもどこ見てるのよ? ほら帰るわよ」

 ケイトが言った。

「えっ?」

「んもう、映画観てからずっと変だけど、一体どうしたのよ。浮き沈み激しすぎ」

 レベッカが近寄り、サラの頭を人差し指でついた。

「もう、ほっといてよ」

 サラはスタスタと一人で歩いて行ってしまった。

 三人は顔を見合わせた。

「まさか、サラはパトリックに好意をよせてるとかじゃないよね」

 グレイスが恐る恐る聞くと、ケイトとレベッカが同時に答えた。

「まさか」

 三人はとりあえず否定してみたが、実際のところ肯定するほうがよっぽど自然だと思えた。

 それを認めなかったのは、気づかないフリをすることが一番の良策だということを、長年の付き合いからこの三人は学んでいたからだった。

 この話はサラにしないように、また自分達も振り回されたくないことから、三人は受け流した。

 サラはそれを知ってか知らないでか、またドレスがディスプレイされているショーウィンドウの前で立ち止まって思案していた。

「プロムか…… 」

 サラは鋭い眼差しをドレスに向けて何かを考える。それが一つの策になるかどうか一か八かの賭けに出ようか迷っていた。

 三人が後ろから機嫌を取るように明るくサラに接すると、サラは考えを新たにして素直に微笑んだ。

──やってみる価値はありそうだわ。

 サラはその時何かを決心した。


※プロムについて少し補足

日本で言う高校二年生と三年生だけが参加でき、学校が主催するダンスパーティ。学校によって様々で、ジュニアとシニアの合同であったり、別々に行われるときもある。必ずパートナーを必要とし、相手がいないと出られない。参加資格があるものは違う学校の相手でも同じ学校の参加資格がない相手でも誰をパートナーに選んでもいい。

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