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ピュアダーク  作者: CoconaKid
第四章
14/56

13 人探し

 高層ビルが立ち並び、人も車もせわしなく動く空間。空気も治安もあまりよくなく、それでもそこはいつも大いに賑わう。都市のダウンタウンはいつもそういうところだった。中心と定められると、どんな人々も集まってくる。

 コールもそのうちの一人のようにキョロキョロとしてダウンタウンを歩き回っていた。

 ここに来れば誰かに会えると思ってるのか、人探しをしているようだった。

 ここのダウンタウンの特徴を挙げれば、歴史に残る事件がいつまでも語られる。ある男がビルの5,6階から大統領を狙って暗殺したとかとか。そのビルは今は資料館として残り、現在も観光客で賑わいを見せていた。

 誰もが疑問に思うのが、犯人は本当にその男だったのか、それとも他の陰謀説があるのか、映画にもなるほど真相がわかるまで憶測も交えて、永遠に語られる。

 だがダークライトに言わせれば、それもまた自分達の仕業であると豪語していた。

 大きな事件は皆ダークライトが一枚噛んでいる。

 そう疑ってもおかし くないほど、人々の醜い心に入り込んで跋扈するのが奴らの得意とするところ、そうそれがダークライトというもの──。

 この世の中は大きく分けて4つの種族に分けられる。

 身分の高いものから、ホワイトライト、ディムライト、ノンライト、そしてダークライト。

 ノンライトは普通の人間のことだが、彼らは力をもたないために他の者の存在を知らない。だが、感覚で天使や悪魔といったものの存在を想像で作り出している。

 ホワイトライトはその人間界でいう天使に位置し、ダークライトは悪魔に位置しているようなものだった。

 そしてディムライトはホワイトライトに選ばれし、 特別に力を授けられた元ノンライトのことであり、これもまたノンライトに言わせれば超能力者や霊感の強いものなど、その他色々な能力を発揮して、どれも人間離れした存在と位置づけることだろう。

 まだそこから細かく分ければ色々区分され、ダークライトには影と呼ばれる存在が含まれる。

 これらは人の形をなくし、未練と絶望と醜い欲望の心の塊だけが影となってこの世に留まっている。

 またノンライトの世界で説明するならば、成仏できない霊、悪霊というのがしっくりするかもしれない。

 ダークライトはこれらの影を操り、ノンライトの体に送り込むことができる。

 それが入り込んだノンライトはまさに言葉どおりの魔がさし たような行動に駆られるのである。

 『魔がさす』というノンライトが作った言葉は、すなわちダークライトが入り込むことを無意識に説明しているに違いない。

 そういう存在を感じ、それを想像で作り出すことができても、本当に存在するとは気がつきにくい。

 ノンライトは全く力を持たず、その世界が全てと思い込んで生活しているだけに、例え教えられても確信をもって信じることもできない。

 コールは人探ししながら、すれ違うノンライト達をそういう理由で哀れんではあざけ笑っていた。

 コールが探しているのはホワイトライトに罠を仕掛けられる特殊な能力を持つ男。

 蜘蛛の巣を作るように、気で紡いだ糸をレーザー光線のように手当たり次第に張り巡らす。

 どんなホワイトライトでもそこに触れれば感知して知ることができる。

 コールは近くにホワイトライトが潜んでいることに確信を持っていた。それを見つけるためにはその男が必要だった。

「昼間だと、あいつは寝ているのかもしれない。一体どこにいるんだ、ゴードン」


 ダウンタウンといえど、空は晴れ渡り明るければ、誰もが安心感を持って、治安の悪さを忘れてしまう。

 お金をかけて美しく見せる町並みでは犯罪とは程遠い雰囲気も漂い、芝生や木がある場所ではほっと一息つくこともしばしばだった。

 昼間はそんな場所だと、ダークライトも気が抜けるのかもしれない。

 コールは人探しを諦めかけて、面白いことはないかと周りを見回していた。

「暇つぶしにちょっと遊んでみるか」

 ビルの一角にカフェショップがあり人が集まっている。

 休憩がてらにそこがいいとコールは足を向けた。どこへ出かけても必ず目にする珍しくないカ フェ。緑の女性のロゴが描かれた看板を尻目に店に入っていった。

 コーヒーを注文し、出来上がるまで店の端で待っていたとき、人々の話に耳を傾ける。

 声を聞くのではなく、心の闇を覗くように醜い感情を探り出す。

 例えば、あの男。窓際のカウンターで一人で座り、コンピューターを叩いていた。ブログの更新でもしているのか、仕事の同僚の気に入らないことを綴っているようだ。

 心の中は、同僚に腹が立つ思いで溢れかえっている。だが文章にして匿名で載せることによって、どんどん浄化されて喜びの部分がでてきた。

「ちぇっ、くだらねぇ。ちっぽけなことで満足しすぎ」

 コールは他のターゲットを探す。

 テーブルを囲んで若い母親が赤ん坊を抱いて友達と楽しそうに語っているように見えた。また集中して心の闇を覗きこむ。

 自分の赤ん坊を自慢して、早く結婚したらいいとアドバイスする若い母親に対し、友達の方は、顔は笑っているが心は鬱陶しそうに暗い影で覆われていた。

 コールは心の闇を読んだ。

「好きでもない相手と子供が出来たから結婚しただけで、きっとすぐに離婚する…… と彼女は思ってるのか。それを自慢されて優越感に浸って腹が立つか。 あっちの母親の方も独身女性の持ち物がブランド物で美しく着飾って気楽な人生を送ってることに嫉妬してやがる。女同士のつまらない見栄のやりとりだな。これもくだらない。影を呼んで手を貸してやるほどでもないな」

 こういう場所では凶悪なことは起こる訳もないと材料の乏しさにがっかりしていた。

 名前を呼ばれ自分のコーヒーを取りに行く。そのとき女子高校生の会話が耳に入った。何気なしに聞いているとあるキーワードが耳に引っかかった。

 コーヒーを手に取り、その女子高生達の座ってるテーブルの隣に背中を向けて座った。

「だから、さっきも言ってるけど、そろそろヴィンセントと仲直りした方がいいんじゃない。だってもうすぐプロムがやってくるわ。私達がジュニア(11年 生=日本だと高校二年生にあたる)になって初めてのダンスパーティよ。パートナーがいなくっちゃ参加できないのよ。このまま意地を張ってちゃヴィンセントも誘い難いって。ねえ、聞いてるのジェニファー」

 ジェニファーは気がかりがあるような顔をして、話している相手の顔を見ていなかった。

 コールはヴィンセントという名前に反応した。

 金曜日のこの時間、高校生がうろつくには早すぎる。休みになった高校と言えば、破壊されたヴィンセントが通う高校のみ。

 この女子高生二人がヴィンセントの知り合いだとすぐに感づいたのだった。

 コーヒーをすすり、テーブルの上に読み捨てられていた新聞を見るふりをして、 コールは耳を尖らせた。

「ねぇ、アンバー。私とベアトリスが仲いいことをどう思ってた?」

「そりゃ、変だとは思っていたけど、ジェニファーが友達と思ってたのなら仕方ないじゃない。でも今回はやられたわね。飼い犬に手を噛まれたって感じかしら。まさかあのベアトリスがヴィンセントにちょっかいだすとはね。ヴィンセントも付き合いもあって断るに断れなかっただけなのよ。許してあげたら」

「やっぱり仲いいように見えたよね。ベアトリスも私のこと崇拝して、私に逆らうことなんて一度もなかった。私に絶対逆らえなかったはずなのに、そのベアトリスがヴィンセントと二人っきりで授業をサボるなんて。あの子達が知らせてくれなかったらごまかされるところだったわ」

「ああ、あの下級生のメガネかけた子と、もう一人はソバカスが目立ってた子ね。あの子達、わざわざジェニファーに告げ口に来るなんて驚いたけど、『ヴィンセントがベアトリスに夢中になってるの許せるんですか』って言う言い方には笑ったわ。そんなことありえないし。まあ、ベアトリスが見た目ぱっとしないだけに、ヴィンセントに憧れてる女の子達はジェニファー以外は認められないってことね」

「違うわ……」

 ジェニファーは悲しい目つきで否定する。

「どうしたのよ。何をそんなに意地を張ってるの? ヴィンセントだって反省してジェニファーに気を遣ってヘコヘコしてるじゃない。それにベアトリスにはあの日一切近づかなかったし、そろそろ、素直になれば」

「あれは謝ってるんじゃない。何か自分に都合が悪いって感じがするの。ベアトリスを一人にするなとか、ベアトリスは悪くないとか、彼女のことばかり庇う。 また三人でいつも通り仲良くしようだなんて、私のことなんて何も考えてない」

「だから、頭にきてるときは何を言われても悪いように考えてしまうのよ。一回くらいの浮気なんて許してあげなよ」

「浮気? あれが浮気っていうの?」

 ジェニファーはその言葉に驚いて疑問をアンバーに叩きつけた。

「えっ、そのまあ相手があの子じゃ浮気って言葉も変よね、ごめん。そのつまり、魔が差したってことよ」

 まずい言葉を使ったとアンバーは笑って誤魔化そうとした。そして手元のコーヒーカップを持ってずずーっとすすった。

 既に飲み終わっていてカップは空だっ たのが余計にどうしようもない焦りを感じさせる。

 ジェニファーは浮気という言葉の意味に反応したわけではなかった。

 ヴィンセントとジェニファーの間には元々何もなかったのはジェニファーが一番よく知っている。

 浮気など最初から発生しない関係。ジェニファーがもっとも恐れていたことが心に浮かぶ。

「ヴィンセントは……」

 ジェニファーが言いかけたが、口に出すのが苦痛でぐっとその言葉を飲み込んだ。しかしその後の言葉はコールが読み取っ ていた。

──ベアトリスに本気で惚れている…… か。へぇ、ヴィンセントはこんな綺麗なお嬢さんよりも心を奪われる女性が他にいるのか。気になるね。しかもこのお嬢さん、ベアトリスって言う子のことを相当嫌ってるもんだ。絶望、嫉妬、憎しみが入り乱れてる。面白い。これは面白い。ちょっと影を仕込んでおくかな。次、ベアトリスとかいう女の子に会ったときどうするか見ものだ。ヴィンセントもびっくりするだろうよ。

 コールは席を立ち、コーヒーカップをゴミ箱に捨てた後、顔をあげ、ジェニファーにフォーカスすると、目を見開いて一瞬焼き付けるように見つめた。コールの瞳が赤褐色に染まり、その後一体の影が、蛇が床を這うように現れ、すっーと融けるようにジェニファーの足元から体の中へ入っていった。

「程ほどに遊んで、あとで戻って報告してくれよ」

 そう呟くとコールは店を出て行った。

 ジェニファーは影を仕込まれたとは知らずに、ベアトリスへの憎しみを増幅させていく。 コールが仕掛けた影はひっそりとその時がくるまで出番を待っていた。

 そしてベアトリスが、自分が居場所を突き止めたいホワイトライトだということも、コールはこの時まだ気がつかないでいた。


 コールが人探しを再開するが、ダウンタウンを離れ車で辺りをうろついた。

 警察の車をやけに見かけ、何かあったと気になった。メインストリートを走らせていると、大型チェーンレストランの駐車場に目が行った。

「こういうところはランチタイムで車が沢山停まって商売繁盛なはずなのに、客が少ない上に警察の車が停まってやがる。ここでなんかあったんだな」

 近くに駐車して車から降り、通りがかりの通行人に声を掛けてみた。

「ああ、昨日、ここで通り魔が女性の首を絞めてちょっとした事件になったんですよ。なんせその犯人は目の前で消えるし、ちょっとしたミステリーとなり、気持ち悪がって客足が遠のいてしまったみたいですね。まあ銃で撃たれなかったのが幸いでしたけど」

 現場を一目見たくてその男はここに現れたと言い、写真を撮っては、後でブログにでも載せるようなことを言っていた。

「その通り魔はどんな風貌だったんですか」

「さあ、そこまでは知りませんが、フードを頭からすっぽりかぶって、ずんぐりむっくりでふてぶてしかったらしいと目撃証言で言ってましたけど、誰も顔は、はっきり見てなかったそうです。目の前で消えたとか言ってましたから、未知の生物か何かかな、なんて私は想像してしまいましたけど」

 男は冗談めいた自分の言葉に一人で受け、高らかに笑った。

 コールはニヤッとすると、男に礼を言って現場に近づいて行った。そして手当たり次第にふっと息を吹きかけながら歩いていた。

 そしてきらっと光り、糸が張り巡らされているのが一瞬見えたのを確認した。

「ゴードン! ここで罠をしかけてたのか。なるほど。ということは獲物が引っかかったのか。しかし昨日はホワイトライトの気配などしなかったが。何かの誤作動だったのか。とにかくゴードンを見つけなければ」

 コールは周辺を車で走らせた。

「あいつが瞬間移動できる範囲といえば、半径1マイル程度(約1.6km)。ここからそれを考えればどこがあいつの隠れ家になるんだ」

 コールは地図で照らし合わせると、はっとする心当たりがあった。何年も空き家になってる大きな屋敷。

 周りには大きな池もあり自然が溢れているが、そこは滅多に人も寄り付かない。何十年か前に殺人事件の舞台となったちょっと名の知れたところだった。売りに出しても買い手がつかない程の家。

「ゴードンはそこにいる」

 コールは自分の勘を信じて、心躍るように目的地へと向かった。

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