45.青天霹靂
──策が、薪生村に来てから2週間が過ぎた頃。事件は起こった。
「大変だ!少年が!赤髪の少年が!だ、誰か!」
一人の村人が見つけたという、謎の赤髪の少年。しかも傷だらけだと言う。
「まさか」
策の脳裏に、ただ一人の少年が映し出される。
大切な親友の息子で、ついこの前再会したばかりの少年。
態度は大きいが、その胸の内に繊細な心を隠し持っている少年。
そう、虎雅である。
「ちょ、その少年はどこに!」
「ああ、黒さん!ちょうど今、楓葉様と楊ちゃんが見てくれてるよ!
村外れの、社の中だ!」
「わ、分かった!」
策は村人からそれを聞くと、脇目も振らずに一目散に駆け出した。
*
「虎雅!?」
「きゃっ、黒!?」
「んな…!や、やっぱり虎雅じゃねぇか!大丈夫なのか!?」
村外れの、古びて薄暗い社。
どこかかび臭い匂いが鼻腔をつく。
土足のままそこに飛び込んだ策は、楊の膝上で眠っている少年…虎雅に飛び掛かる。
勢いよく両肩を掴んで揺らしてみるも、彼は目を覚まさない。
動揺する策。
社の中にいた楊と楓葉は、顔を見合わせていた。
「ちょ、ちょっと。黒さん、虎雅って何?誰のこと?」
「誰って!コイツのことに決まってるだろ!」
「お、落ち着いて。黒」
興奮と心配から口調が荒々しくなってしまう。
肩で息をする策に、楓葉は小さく溜め息をつく。
「黒史策様。どうか落ち着いてくださいませ」
「……は?」
「露華国の三大貴族である、黒史家当主の黒史策様。あなたに言っているのです」
楓葉は、その青い瞳を真っ直ぐに策へと向けた。
策は驚きから、その場に尻もちをつく。
「ど、どういうことだ。は、は?」
「……その反応は、やっぱり間違いでは無さそうですね」
「は?お、お前は一体何なんだ?」
尻もちをついたまま、ズルズルと後ろに後ずさる策。
そのうちに、壁に背中がトンっと当たる。
「…私も虎雅くんのことは知っています。黄史家の次男、のね」
「お、お前!」
「ちょうど3週間と少し前に、直属の部下からさまざまな報告を受けていまして。色々と聞いているのですよ」
「だ、だから何のことだ?」
策の顔が徐々に青ざめる。
楊も、楓葉の突然の変わりように目を丸くしていた。
「…路川街で何があったんですか。私がいない間に。教えてください。
貴方が突然、こんな所に現れたことと関係あるんじゃないですか。
師匠…墨が絡んでいるのならば尚更。
もうこれ以上、黙って様子を見ていることはできません」
楓葉は、楊の膝から虎雅を抱え上げる。
そして社の外へと足を向けた。
「私の家に来てください。話していただきます」
「…っ!」
楓葉の大きな瞳は、酷く細められていた。




