41.童歌
花咲く村に 一人の神さま
神さま少女に言いました
僕は君を好きかもしれない
少女神さまに言いました
でもあなたは神さま
私たちはどうにもなれないわ
神さま泣きました
少女も泣きました
ならば二人 よき友人で
ならば二人 よき知り合いで
しかし運命は残酷で
皇帝二人の村を燃やしてしまう
少女天へ登り
神さま地に残りました
なんだろな
なんだろな
これは神さまと少女の
悲しき恋物語
「…変な童歌だ」
「おやおや、変とは失礼ですね。この歌は、昔々からこの里に伝わる童歌なんですよ。変というのは、どちらかというとあなたの方です」
「おいおい」
里の子どもたちが歌いながら駆ける。
策は額の汗を拭いながら、ボソリと小さく呟いたつもりだった。
しかしその声は、バッチリと楓葉に伝わっていたようで、容赦ない小言を食らう。
裏京里…いや、今は薪生村。
その名の通り、薪の出荷を主な生業としている村である。
策がここに辿り着いてから、早5日が過ぎようとしていた。
路川街を出た時から数えて、15日。
路川街は、墨はどうなったのだろうと考えない日は1日たりともない。
ここでの暮らしの中で、策が世話になっているのが楓葉という男だった。
彼は自分のことをほとんど語らなかった。
ただ彼について分かったのは、楓葉が墨の弟子で間違いないということ。
それ以外の、普段何をしているだとかそういうのは一切話さなかった。
…まあ、それは策自身もそうなのだが。
「ところで黒さん。あなたは腰が引けてますね。本当にそんなんで農業経験者ですか?何度も口煩く言うようですけど、働かざる者食うべからずですよ」
「あほ!分かってるわ!」
「…いい年した大人が。そんな言葉使いをしていいと思っているんですか」
「いてっ!ケツを叩くな!」
策は畑のど真ん中で、自身の尻をさする。
この優男は容赦ない、と策は思う。
見た目に反して、非常に攻撃的だとも。
策は、目の前でケラケラと笑う楓葉を見ながら、ふと、初めて出会った時のことを思い出していた。
*
『ふーっ、ここで探すか』
『誰をですか?』
『…そりゃ、先生の弟子を…って、は!?』
あの日、ボロボロの状態で裏京里…薪生村に辿り着いた策を見つけたのは、他でもない楓葉だった。
楓葉の第一印象は、若き美青年。
しかも優しそうな好青年。
腹を空かせ、傷だらけだった策は、正直「助かった」と思った。
第一里人が彼で良かった、と。
しかし、そんな期待はすぐに崩れ落ちた。
何故なら楓葉は、笑顔のまま、策に剣を突きつけたからだ。
『先生、とは誰のことですか』
『…っ!ま、待てよ!いきなり何なんだ!』
『答えなさい』
楓葉は瞳の奥に、確かに怒りを滲ませていた。
それに気付いた策は、その場にゆっくりと正座をする。
『…お、俺は黒っていうんだ。じ、実はさ。先生…墨って言うんだけど…に、ここに来るように言われて。
弟子がいるから、俺の助けになってくれるんじゃないかって』
『墨…?』
楓葉の片眉がピクリと動く。
そしてしばらくの後、ゆっくりと剣を鞘に仕舞ったのだった。
『…なるほど。で、あなたは黒、さんでしたっけ』
『…あ、ああ』
『…ふうん。ま、墨の弟子というのは私のことです。いいでしょう、助けになります』
楓葉はそう言うと、身を翻した。
策が彼の変わりように驚いていると、楓葉は一度笑顔で振り返る。
『あ、私は楓葉と申します。よろしく、黒色の黒さん』
『…っ!』
『さ、行きますよ。私の家に』
策は歩き出す楓葉の後ろを、慌てたように追い掛けた。




