幕間-7 廉と虎雅の買い物②
「俺さ」
「ああ」
「よく分からないんだ」
「は?」
散々泣き腫らした後、虎雅は小さくそう呟いた。
彼の口から、様々な罵詈雑言が出てくると思っていた廉は少し拍子抜けする。
「よく分からないとは?腹が立つとか、悲しいとか色々あるんじゃないのか」
「…それが分からないんだ」
「……」
虎雅はそう言って黙り込んだ。
廉はそんな虎雅に気の利いた言葉を言うことができなかった。
それはただ単に、廉の人生経験が足りないからだけではない。
きっと今虎雅が欲しいのは、言葉ではないのではと瞬時にそう思ったからだ。
しばし訪れる、沈黙の時間。
路川街の表通りからは、相変わらず賑やかな声や音が聞こえる。
虎雅はそれに釣られるように、ゆっくりと口を開いた。
「…賑やかだよなぁ」
「…あ、ああ」
「それだけ人がいて、賑わっていて、そしてみんなが幸せだってことだ。
ほんと、俺がガキの頃から変わらない街だよ」
「…そう、だな」
廉は虎雅の言葉に、そっと瞳を閉じてみせた。
廉も思い出す。自らが子どもだった頃のことを。
時々だが、父に手を引かれて街の中心街まで視察に同行したこともある。
「…俺ら、同じ街にいたのにお互い知らない者同士だったんだもんな。
同い年なのによ」
「そんなものだろ。この街に同い年の人間がどれほどいると思っている」
「それはそうだけどさ。なあ」
「うん?」
「もし、俺らが子どもの頃から知り合いだったら、今どうだったのかな」
何気ない虎雅の発言。
だが、廉は真剣に想像を巡らせた。
きっと活発な虎雅に手を引かれ、あちこちを遊び回っていたのだろうと廉は考える。
時には切磋琢磨しながら、そして時には貴族のことについて語り合いながら。
それはそれは、悪友のようになっていたのではないだろうか。
…まあ、今となっては全然違う未来に辿り着いているのだが。
だが廉は、一つだけ確かな確信があった。
それはお互いが政権を担っていたら、のこと。
「もし、僕らが政治の中心にいたのなら。きっと誰も傷付けないような街や国を目指していくんじゃないか。
痛みを知る僕らだからこそ。現実的には無理かもしれないが、きっと目指すんだと思う」
「…お前」
虎雅はそれまで伏せていた瞳を大きく開いた。
そして服の袖で両目をゴシゴシと擦り、その顔ににかっとした笑顔を浮かべる。
「お前、意外といいヤツだよな!」
「くー!!う、うるさい!」
「ははは!照れてやんの!」
真っ赤になった廉。
そんな彼をからかいつつ、虎雅は路川街の表通りの方へと足を向ける。
「あー、なんか泣いたらスッキリしたわ!ありがとな、廉!」
「…………ああ」
「ははっ!行こうぜ、ついでに土産に追加の甘菓子でも買って帰ろう!」
「やっぱり、買い忘れは嘘だったのか!」
「細かいこと気にすんなって!」
虎雅は満面の笑みを浮かべる。
廉はそれを見て、ほっと肩を撫で下ろしたのだった。




