幕間-6 廉と虎雅の買い物①
「ちょっと!君はどうして、いつもそう勝手なんだ!」
「……」
「なんだ、今度はだんまりか!」
策と再会した後。
廉は虎雅に腕を引っ張られ、路川街の街中にいた。
辺りは非常に賑やかで、買い物を楽しむ人々の声が直接鼓膜に届く。
着物の裾が伸びてしまいそうで、廉は虎雅の腕を強引に振り払った。
「本当にいい加減にしてくれ!」
「…っ!」
廉に腕を振り払われ、虎雅はハッと我に返ったようにその場に立ち止まった。
しかし、廉の方を振り返ろうとはしない。
廉はそれに無性に腹が立つ感覚を覚える。
「この10日、墨の下で君と暮らしてみて分かった事がある。
君は確かに勇気がある。実力もある。決断力もある。
それは僕に足りないものだ。
君の行動力があったからこそ、僕は今、こうやって生きていることができる。
だがしかし、君には思考というものが一切合切足りない」
一緒に暮らし始めて、何度目の小言であろうか。
廉はこちらに背中を向けたままの虎雅にブツブツと続ける。
「大体君は、物事の危険性というものをきちんと理解しているのか?
というか、物事に危険性があるということを分かっているのか?
白史家に忍び込んできた時もそうだ…」
腕を組みながら文句を言い続ける廉。
しかし彼は、途中でその小言を言うのを止めた。
なぜなら、目の前の虎雅の肩が小さく震えていることに気が付いたからだ。
「…お、おい」
思わず小さな声で虎雅に語りかける。
あまりにも小さな声。
それが虎雅に届いているかすら分からない。
むしろ、この喧騒の中で消えてしまっているのかもしれない。
「…お…おい。おい!」
罪悪感から、廉は虎雅の前に進み出た。
そして虎雅の顔を見た廉は、思わずぎょっとする。
なぜなら、そこには涙をボロボロと零しながら、地面を睨みつける虎雅がいたからだ。
彼は奥歯をしっかりと噛み締め、嗚咽だけは漏らさないようにしている。
「…君、泣いているのか」
「……」
震えたまま、声が出せない様子の虎雅。
彼は廉の顔が見えると、今まで噛み殺していた嗚咽を漏らしそうになる。
「ま、待て!」
廉は慌てて、虎雅を路地裏に連れ込む。
今度は廉が虎雅の腕を引っ張って。
人通りがだいぶ遠くに来ると、廉は虎雅の方を振り返った。
「うわああああ!!!」
「……泣け」
人の姿が見えなくなると、虎雅は大きな声で泣き叫ぶ。
廉はその場に崩れ落ちた虎雅の横に、静かに胡座をかいた。
*
「落ち着いたか」
どのくらいそうしていただろう。
泣きすぎてしゃくり上げる虎雅を、廉はチラりと見た。
真っ赤な目。
啜り上げる鼻水。
廉はそれを確認した後、ふうっと小さな溜め息をつく。
「悪かった」
「…は、は?」
「僕も浅はかだった。言い過ぎた。イライラしていたんだ」
廉は座り方を変えた。
それは小さな子どもが、膝を抱え込むような幼い座り方。
彼は自身の膝に顔を埋める。
「僕も、ここ最近予想外のことが起きすぎて心の整理がついていなかったらしい。
それを、一番…その、言いやすい君にぶつけた。申し訳なかった」
廉の言葉に、虎雅の視線が上がる。
迷うような瞳。
廉はそれを逃さないように、しっかりと見つめ返す。
「…君が動揺しないわけ無かったんだ。旧知の人間に再会して、さらにはその男に『酒に酔って通報した』なんて言われたんだ。
苦しくないわけない。
そして、家のことを思い出して辛くならないわけがない」
淡々と。
しかし綽々と。
ゆっくりとした時間が流れる。
「君の感情を吐き出してみないか」
廉は瞳を伏せながら、小さな声でそう言った。




