34.策と墨②
『なんだい』
『えっ…と、その』
『用事がないなら僕は行くよ』
『ま、待ってください!』
青年に声を掛けたのはよかった。
しかし人見知りの策にとって、その後の言葉を紡ぐのは非常に難しい。
『えっと、その』
『ん?』
知らない人に声を掛ける。
それも自分の欲のために。
その行動の恥ずかしさに気付き、策は徐々に顔を真っ赤にした。
中々次の言葉が出てこない策を眺めていた青年。
彼は何が面白かったのか、くすりと笑い声を漏らす。
『ちょっとー。用事があるから声を掛けたんでしょう?
人を呼び止めておいて、その態度は無いんじゃない?』
『ご、ごめっ!』
『あー、別に怒ってるわけではないよ?ただ、その癖は直したほうがいい。そう思っただけだよ』
青年はにこりと優しい笑みを浮かべると、右の方を指差した。
『ねえ、暇なら僕の食事にでも付き合ってくれない?』
*
路川街中心部の観光地。
あちらこちらに並ぶ食べ物の屋台。
策は青年と一緒にそこを歩いていた。
先程まで青年の手にあった巻物は彼の背中へ括りつけられ、そして両手には様々な食べ物が。
『うーん!うまいねぇ!さすが路川街!特に川魚がうまいね!』
先程までの不思議な雰囲気はどこへやら。
青年は両手に抱えた食べ物を、交互にバクバクと食べていた。
満足そうな表情を浮かべる彼を、策は唖然と見つめる。
『なに?食べたいの?』
『い、いえ』
『あ、そう?なら僕は遠慮しないよー!って、ああ!あそこの屋台も美味しそうじゃないか』
すたこらと屋台に向かう青年。
策はその後ろ姿を眺めながら、小さく溜め息をついた。
自分は一体何に付き合わされているのだろう、と。
変な人に声を掛けてしまった、と。
彼は背中を翻して、その場から立ち去ろうとした。
しかし、そんな策に青年の声が掛かる。
『おーい!少年!お金が足りないから貸して!お金持ってるでしょー』
『は?』
策は、ニコニコしながらこちらに手招きをする青年の方を振り返る。
そして自身の耳を疑ったのだった。




