32.素直じゃない
虎雅が恐怖で何も言えない中、策は気まずそうに口を動かした。
そして言う。
「実は貴族邸の盗難事件の犯人を警護官に伝えたの俺なんだ」と。
一瞬、虎雅はあまりの衝撃に唖然とするが、脳の整理が追い付くと、深くため息をついた。
「なるほど、だからバレたんだ」
「酒に酔っていた日でさ。思い出の中のお前が成長した姿にそっくりで。
思わずそのまんま、警護所の貴族警備隊員に報告しちまった。
まさかこんなことになるとはな」
虎雅を真っ直ぐに見つめる策だが、彼から視線が返ってくることはなかった。
「ま、しょうがねぇな!
やっちまったもんだから!
策おじさん、昔から酒弱くて、よく俺の父上に怒られてたし!
…あ、買い忘れたもん思い出した!
廉、街に行くぞ!」
「は、はぁ!?い、いきなり!?」
──こうして、廉と虎雅が部屋を後にしたのが数刻前。
一向に戻って来ない二人。
策の頭は、時間ごとに項垂れてゆく。
「なあ、先生よ。俺はついに虎雅に嫌われてしまったかな」
「嫌いに?なるわけないじゃない。精々、
あまりの君の馬鹿さ加減に、腹を立ててしまったくらいじゃないかい」
「おいおい、慰めになってねぇよ」
策はそのまま部屋の中央にゴロンと寝転んだ。
あまりにも無防備なその態度に、墨はジト目を向ける。
「おやおや。それが三大貴族の家長の姿かい?」
「いいだろ、んなもん。俺だって、ただの人間だ」
策の溜め息は止まらない。
そんな彼を見ていた墨はくすりと笑ったのだった。
「そーんなに心配なら、街に探しに行ってみればいいんじゃない?」
「ばーか。ことはそんなに簡単じゃねえよ、先生」
「ったく、僕のこと本当は『先生』だなんて思っていないだろう」
「…ばーか、思ってるよ」
床に寝転び、瞳を閉じながら策はそう言った。
あまりに素直でない様子に、墨も珍しくやれやれといった表情を浮かべる。
「そういや、初めて会った頃の君も素直じゃなかったよね」
「うるせ」
策はボソッと小さく反論した。




