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31.陰謀



「…ほ、ほんとに策おじさんなのか。子どもの頃、お、俺と遊んでくれた」

「ああ、そうさ。お前の親父と親友だった黒史策だよ」



虎雅の身体はガタガタと震え続けていた。

彼の脳裏には、一気に子どもの頃の情景が思い出される。






『策おじさん!今日はたま蹴りをしよう!』

『おい、おっさんって呼ぶなって!俺はまだ24だぞ!』

『だって父上がおじさんって呼びなさいって!』

『く、あの野郎…!』

『はは!僕4歳!兄上6歳!』

『ったく、若いねぇ!』



虎雅と兄は、策に毎日のように遊んでもらっていた。

当時、宰相の座についていた黄史家。

三大貴族の黒史家とは、たくさん打ち合わせることもあったのだ。


遊べるのは短い時間だった。

でも今でも鮮明に思い出せるということは、余程楽しく印象に残る思い出だったのだろう。




「…俺が、皇帝旺雪の使いで、一時的に国を離れている期間があった。

その時だったよ、黄史家に大量の軍隊が攻め込んだのは」




策はボソリと呟いた。

彼が虎雅を受け止めている手は、小さく震えている。

策は続ける。




「黄史家全滅の報せが届いた時は、実は俺も死んでしまおうかと思ったよ。

俺のせいだ、俺が余計なことをしてしまったせいだと思ってね。


でもできなかった。

俺は腐っても、三大貴族である黒史策。

それに何より、黄史家の次男坊の死体がないという情報だけは耳に入っていたから。


…あれから10年。長かった」




策の大きな手が、虎雅の頭を包み込んだ。

そしてそのまま、彼の赤髪がぐちゃぐちゃになるまで、ワシャワシャと撫で回す。




「ありがとう、生きていてくれて。本当にありがとう」



策はそう言いながら、涙を流した。

次第に彼の鼻からは、鼻水も溢れ出す。



「…策おじさん、汚ねぇよ」

「ばーか。お前の言葉使いの方が汚ねぇよ」



廉と墨は、そんな二人の姿を静かに眺めていた。





*





「さてと」




しばらく再会を喜んだあと、策は虎雅の身体をそっと離した。

彼ににこりと微笑んだ策は、そのまま自身の身体を廉と墨の方に向け直す。




「悪い、時間をもらってしまったな」

「別にいいよ?ねぇ、廉くん」

「は、はい」




辿々しく答える廉に苦笑した後、策は咳払いをした。

それを合図に、「策おじさん」ではなく「黒史策」の目付きになる。




「俺がここに来たのは言うまでもない。墨、あんたに言っておきたいことがあるんだ。情報売りの墨に」

「えー、何だい?まさか面倒事?」

「俺が直々に来るんだ。当たり前じゃねぇか」



策の大きな態度に、墨はべーっと舌を出した。

そんな彼の反応を確認してから、策は言葉を続ける。



「まず一つ。皇帝旺雪が、俺に虎雅の殺害を命じた」

「えっ、はっ!?」

「はいはい、虎雅。落ち着こうね〜」



慌てて立ち上がった虎雅を、墨が宥める。

廉も、その細い目をこれでもかと見開いていた。



「皇帝は、黄史家の生き残りである虎雅を脅威に感じている。

俺が黄史家と親交があったことを知っているくせに、本当に氷のように冷たい男だよ」

「ほほう、で?二つ目は?」

「二つ目は。朱史家について」

「ほほう」



今度は、策の視線が廉に移る。

あまりの緊張から、廉の喉がごくりと音を立てた。



「朱史家は、虎雅の盗難事件を頑なに公表しない方向でいる。

朱史桃央。

貴族警備隊長の彼女が、路川街警護官たちにすら、情報を公開していない。可笑しいと思わないか」



廉はその話に聞き覚えがあった。

そう。

以前、楓葉に聞いた話だ。



「俺は三大貴族の家長だから、嫌でも裏事情は耳に入る。

ま、その理由までは分からない…のだが」



策はそこで言葉を切り、今度は墨を見つめた。



「…これはあくまでも俺の推測に過ぎない。だが、おそらく十中八九正しいと思う」

「ほう。それは?」

「…朱史家は皇帝旺雪と手を組んで、虎雅を殺そうとしている。それも秘密裏に。

きっと彼らは、俺が虎雅を殺せないと気付いているんだ。


アイツらは、呪具の付喪神に魂を売っているから。

きっと黄史家を根絶やしにするまで、何でもやるぞ」



静かな時間が流れる。

虎雅は自分の全身から、血の気が引いていくのを感じていた。





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