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30.策おじさん




「んで、このおっさん誰」

「お、おっさんとは!虎雅、君はなんてことを!」

「はあ?だっておっさんじゃん。お前、買い物すら来ねぇくせに文句だけは一丁前だな」



虎雅の一言をきっかけに、同い年二人はぎゃあぎゃあと言い合いを始めた。


その光景を唖然とした様子で見る策。

そんな彼に、墨はくくっと笑いかける。



「いつものことよー。ここに来てから、早10日。毎日のように二人で喧嘩してるんだよ。参っちゃうよね」



墨の言葉に、策はさらに耳を疑った。







──毎日喧嘩?あの穏やかな虎お坊ちゃんが?


──いやしかし。いざ目の前にすると、やけに野性味に溢れている気がするな。






策は、顔や手足にたくさんの傷跡を作った虎雅の姿をまじまじと見つめた。

次から次へと溢れ出る懐かしさを必死で抑え、策は虎雅に声を掛けた。



「なあ。虎雅」

「ああ?なんだ、おっさん。気安く呼び捨てすんじゃねぇよ!」

「お、おい!虎雅!」

「何だよ、さっきからうるせぇぞ!廉!」

「だーかーらー!」



再びぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人。

策は一つ溜め息をつくと、両手をパンパンと叩き合わせた。

廉は迫力のあるその拍子に、びくりと背筋を伸ばす。



「だから何なんだよ!俺だけ何も分からねぇみたいじゃねえか!」



虎雅は、にまにまと笑い続ける墨を睨み付けた。

彼が何も言わないことに、虎雅はチッと舌打ちをする。


そして虎雅の視線は、ゆっくりと策へと移った。

策はそれを確認して、小さく微笑む。





「大きくなったな」

「は?」

「黄史家のことは本当に申し訳なかった。俺が守りきれなかった」

「て、てめぇ…何を言って…!」




突然出された「黄史家」の名前。

虎雅は分かりやすく動揺する。




「俺が黄史家を宰相に推したから。あの時はその選択が一番だと思っていた。黄史家にとっても、そして国や路川街にとっても」

「ま、まさか…」



虎雅の身体がわなわなと震え始める。

彼が手にしていた菓子の包みが、ぼとりと音を立てて床に落ちた。



「…策おじさん」

「ああ。よく生きていた」



虎雅は膝から崩れ落ちる。

策は、その身体をしっかりと受け止めたのだった。







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