29.策の先生
「おい!久し振りだな!インチキ占い師!」
ズカズカと宿屋に足を踏み入れた策は、迷うことなく、とある部屋まで辿り着いた。
彼が勢いよく扉を開けてみれば、そこには窓の外を眺めていた墨の姿が。
「ちょっとちょっと。聞き覚えのある声がすると思えば、やっぱ君じゃないか。本の虫くん」
「けっ、その呼び方はやめろっての」
墨は面倒臭そうな視線で策を見た。
珍しくため息をつく墨を、後ろを追いかけてきた廉は意外そうに見つめる。
「黒史様とインチキ…墨は知り合いなのですか」
「えぇ、知り合いなんかじゃないよ〜。この子はさぁ…」
「うるさい、黙れ!知り合いだろうが!」
廉の素朴な問いに、墨と策は各々違った反応をしてみせた。
それに対して目を丸くする廉。
策はごほんと一つ咳払いをする。
「あー、ガキの頃にな。しばらくコイツのところに通っていた時期があってな」
「嘘つけ〜!僕にへばりついてた、の間違いじゃないの」
「だ、黙れ!」
策は顔を真っ赤にして怒鳴った。
廉は、初めて見た策の取り乱した姿に目をパチクリさせる。
「わ、分かりました」
なんと返事をするのが正解か分からない廉。
それだけ言って黙り込んでしまった彼を見て、策はガリガリと頭を掻く。
その様子を、墨はにやにやと見つめていた。
「あー、悪い。何というか、まあ。俺、俺がガキの頃…コイツを先生って読んでたんだよ…」
策の目が泳ぐ。
その言葉尻も、どんどん小さくなってゆく。
「せ、先生?ですか?」
「…ああ。こんなこと言いたくねぇけどさ。コイツって、す、すげぇヤツじゃん。俺は昔、知識を得ることに必死になってた時期があってさ…」
「な、なるほど…」
廉は唾を飲み込みながら、静かに相槌を打った。
宿屋の部屋には沈黙が流れる。
しかし。
その沈黙は、すぐに打ち破られることになる。
「おーい!言われた甘菓子買ってきたぞ!何で廉は追いかけて来ねえんだよ…って、誰よ」
策と同じく、宿屋の扉を勢いよく開けた者。
赤髪の彼の片手には、紐で括られた小さな包みが収まっている。
「…虎雅」
策の小さく低い声。
その声は、小刻みに震えていた。




