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28.酒の失敗




あれは数ヶ月前。

策がいつもの様に、夜遊びに繰り出した日。


路川街にある、とある下級貴族の家から見覚えのある少年が飛び出してきたのが見えた。


彼は胸元いっぱいに紙を詰め込み、それを数枚落としながら、慌てて逃げていく所だった。

それも塀の上から。


酒に酔っていた策は、何も考えずに取り敢えず警護官に報告した。

「泥棒はいかんぞ〜、虎雅ぁ」と回らない舌で何度も言いながら。






彼がことの重大さに気付いたのは、知り合いの占い師に貴族たちが群がっているのを見た時である。



「我々下級貴族など、警護官が相手にしてくれるはずがない!」

「でも大切な書類が盗まれた!あれは、今年の金銭出納帳だ!あれがないと困る!」

「私も下ためておいた恋文が盗まれた!犯人を見つけて!」

「警護官なら名前も知ってるはず!お願い、犯人の名前を写し出して!できるんでしょ!?」



貴族たちは、占い師に寸分の距離もなく詰め寄っていた。

占い師はやれやれという雰囲気で、彼らと少し距離を取る。



「はいはい、分かったよ。みんなが知りたいのは、警護官の書類に書かれている貴族邸泥棒の名前、でいいね?」



占い師がそう言うと、貴族たちは大きな声でそれに賛同する。

彼はそれを聞いて、満足そうに頷いた。








「…あの後虎雅の名前が聞こえてきて、俺はそりゃ腰が抜けるほど驚いたさ。

ま、自分が原因なんだけどよ」



虎雅の名前が聞こえた時、策はそれこそ腰が抜けそうなまでに驚いた。

しかし、それと同時にこれ以上ないほどの喜びもこみ上げてきたのだ。



「俺はアイツはもうとっくに死んだもんだと思ってた。

俺は虎雅が腹ん中にいる時から知ってる。

だからさ、なんというか甥っ子のように思ってんのよ。

…おっと、そうこうしてる間についたわ」



策は頭の上に被せてあった布を取り、目の前の古びた宿を見上げる。

そう、ここは彼の知り合いの占い師が拠点としている場所なのだ。



「俺も華見台からの長旅疲れたわ。泊まろうかな」



彼はそう呟きながら、宿屋のガタついた扉に手を掛けた。




*




「おっと!」

「わっ!」



扉を開けたその時。

策の胸元に、誰かが勢いよくぶつかってきた。


黒髪短髪の少年。

この少年のことを、策はよく知っていた。



「ああ?誰かと思えば、白史家のお坊ちゃんじゃねぇか」

「え…って、あ、あなたは!」

「おう、俺のこと分かるか。流石だねぇ」



策がぶつかった相手。

それは他ならぬ、白史廉であった。

策は知っている。

この少年が白史家で酷い扱いを受けていると。



「どうした、三大貴族の坊っちゃんがこんなボロい宿屋から出てくるなんて。家出か?」



冗談っぽく、そう言ってケラケラ笑う策。

しかし当の本人である廉は、彼からすーっと視線を反らす。



「お、おいマジかよ」

「…っと、あの。話すと長くなるといいますか」

「ちょ、ちょっと待てよ。家出って、お前が警護官やってるってことだよなぁ!?そうだよなあ!?」

「…いえ、その」

「…おいおい」



策は廉の反応から、彼の下した判断がそう生温いものでは無いことを悟った。


どこか気まずそうに左右に視線を泳がせる廉。

策はそんな彼の頭をガシガシと撫で回す。



「まあいいわ。話を聞かせてくれ。俺でよければな」

「んなっ、め、滅相もございません!」

「そう固くなるなって。入るぜ」



半ば強引に宿屋に足を踏み入れる策。

廉はその姿を呆然と見つめていた。





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