27.皇帝の右腕
「なあ」
「ええ、何でしょう」
「黄史虎雅。生きていたようだな」
──皇宮、正殿。
黒髪を頭上で丸く丸めた男が、皇帝旺雪の隣に立っていた。
肩が幅広く、背も高い。
まるで武人のような体格である。
男は青隈のできた目を、旺雪に向けた。
「…で?何が言いたいんすか」
「おやおや、冷たいな。まあいい。私はお前に言いたいことがあったんだ」
「なんすか」
男は面倒くさそうに首のあたりを掻いた。
皇帝が遠回しの言い方をする時は、十中八九嫌なことを言われる。
そう確信しているからだ。
「ヤツを殺せ」
「え」
「当たり前だろう。黄史虎雅を殺さねば、本当の意味で黄史家を滅ぼしたことにはならない。
それにヤツももう15。いつ私に反撃を考えないとも限らん」
嫌なこと。
その自分の予想が当たった男は、思わず目を見開いた。
男の反応を見てか、旺雪はその美しい顔に皺を寄せる。
「なんだ、なぜすぐに返事をしない」
その声には怒気がこもっていた。
男は慌てて旺雪に跪く。
「はっ」
「ははは、それでいい!」
正殿には、旺雪の笑い声がしばらく響いていた。
*
男の名前は黒史策。
三大貴族のうちの一つ、黒史家の家長である。
学問を司る家柄であるためか、策も子どもの頃から頭脳明晰だった。
しかし一方で、彼は人付き合いが苦手だった。
読めない腹の探り合い。
彼は人付き合いのことをそう思っている。
「はー、ったく疲れるぜ。皇帝のお守りってやつもよ」
皇宮を出た策は、両手を大きく上に伸ばし深呼吸をした。
それと同時に出てくる欠伸。
彼は涙が浮かぶ両目を乱暴に擦り上げる。
彼がふと周囲を見回してみれば、そこらには多くの人間たちが地面に横たわっていた。
そう、家を無くした乞食たちである。
「ここ数年でまた増えたな。11年前、黄史家が宰相だった頃は、ちとマシになったもんだが」
策の言う通り、ここ華見台で乞食の姿を見ることは稀だった。
安寧、安心、安全な華見台…であったはずなのに。
こうも分かりやすく、国が荒れるのかと彼は内心頭を抱える。
「早く帰らにゃ、路川街に。この首都様々と違って、あっちの方がひでぇんだからさ」
彼はぼそっとそう言うと、頭に布を深く被った。




