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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
30/50

幕間-4  墨の日常



「ふわあああ〜、眠いなぁ」

「ちょっと!タダで泊まらせてるんだからね!ちゃんと掃除くらいしてもらわなきゃ!」

「えーん、酷いってぇ。女将さぁん」

「酷いのはどっちだい!この丸メガネ!」



路川街のとある宿屋の一室。

今日もお馴染みの怒鳴り声が聞こえてくる。

怒鳴られて涙目…のようになっている墨の手にはボロボロの布切れ。

彼はいやいやながら、それで窓硝子を拭く。



「でもさっ、こんなにボロボロなんだから新しくすればいいのに。布も硝子も」

「お生憎様。誰かさんみたいなのがいるせいで、ウチは貧乏から抜け出せなくてね」

「ありゃー、誰のことだろなっと」

「あんたねぇ!」



宿屋の女将は、額に青筋を立てながら墨の頭にげんこつを落とす。

彼はわざとらしく泣いてみせた。



「うえーん、ひっどーい!女将さんが殴ったあ」

「嘘つくな!ったく、あんたは昔からそうなんだから!

よくもまあ、よく来るあの美男子の兄ちゃんは、あんたから逃げ出さないもんだよ」

「楓葉のことー?駄目だよー?あの子、多分理想高いから。

いくら女将さんでもあげませーん」

「何変なこと言ってんだい!そんなつもりで言ったんじゃないよ!

ほんっと、あんたと話してると疲れる!」

「へへへ、褒め言葉として受け取っとくよ」



ここまではいつもと同じ流れ。

女将は変わらない墨に向かって、深くため息をついた。



「あたしもね、いつまでも生きているわけじゃないんだ。今年でもう75。いつ何があっても可笑しくないんだから」

「あの可愛かった子が、もうそんな年かあ」

「そうだよ。この宿屋だってボロい。あたしが死んだら壊しちまうかもしれない。

あんた、もっとちゃんと身の振り方考えなよ。

…って、そう言い続けてもう60年か」

「ははは、そうだね」



女将の表情が緩む。

そして彼女は、部屋の入口へと歩いていった。

部屋を出る前、彼女は顔を少しだけこちらへ向ける。



「掃除が終わったら、次は買い物だ。それくらいやってもらうよ」

「はいはい」

「はい、は一回!」

「はぁい」



トントンと階段を降りていく音がする。

墨はその音が聞こえなくなるまで、しばらく耳を澄ませていた。





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