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3.警護官の青年

「わーお、よく食べるね。想像以上だ」

「ふふさい、はまれ」



あれからおよそ十分後。

墨が言った通り、虎雅の目の前にほかほかの食事が運ばれてきた。


薄黄色の練り物。

葉物の漬物。

小魚の和え物。

そして湯気が立つ汁物。


料理を運んできた女将は、突然増えた宿泊客に特に何も言わなかった。

ただ1つ、笑顔だけを虎雅に向けたのだ。



「僕の言った通りだろう?ここの女将は融通が利くんだ」



黙々と食べ続ける虎雅。

墨はそのまま喋り続ける。



「実は僕、旅をしていてさ。この街に来るのは、んー、何度目かな。まあ、とにかくたくさん来ているのよ」



墨は窓の外を眺める。

ヒビの入った窓硝子越しに、観光客や商人たちの活気ある声が聞こえてくる。



「この街に帰ってくる度、僕はここが好きで、そして嫌いだなと思うんだ。

なんたって賑やか。つまりは煩いし、落ち着かないだろう?」



虎雅は箸を止めた。

そして墨を見る。



「あとはこの湿気。冬だというのに、過ごし難いったらないよ!


…てなわけで、僕は一刻も早く金を貯めてこの街から出たいんだけど、そうもいかない事情があってね。

ま、昨夜その中に君の存在が追加されたわけなんだけど…」



墨の黄色い瞳が虎雅を捕らえる。

虎雅は咀嚼していた食べ物を、音がなるほどにごくりと飲み込んだ。


それとほぼ同時に、部屋の扉が軽く叩かれる音がする。



「おっと、来たようだ」



墨は扉を見つめて、嬉しそうに微笑んだ。







「師匠、お久しぶりでございます」



扉を開けて入って来たのは、長い茶色の髪を頭の上で束ねた背の高い青年だった。

彼は上質な衣服に身を包み、懐には剣を二本差している。

目には黒い眼帯も。

怪我をしているのであろうか。



「こ、こいつ!」



青年の姿を見た虎雅は、目の前の食器を蹴り飛ばし、彼から距離をとる。

必然的に墨との距離が近くなるのだが、おそらく彼はそのことには気付いていないのであろう。



「…おい、インチキ占い師!俺に紹介したい人物って、もしかしてコイツか!?」

「えー?あー、うん。そうだけど?あれ、知り合い?」

「知り合いもクソも!コイツ、路川街の警護官じゃねぇか!この野郎、騙しやがって!俺を捕まえに来たんだろ!」



虎雅は血走った目で墨を睨み付けた。

彼は胸元に隠してある短刀に手を伸ばす。

しかし。



「は、な、無い?」



虎雅の手は何度も胸元を叩く。

しかし自身の肉体に触れるだけで、目当てのものを見つけることは出来なかった。



「あー、もしかしてコレのこと?」

「は」



虎雅の背後。

つまり、墨から言葉がかかる。

彼の手に握られていたもの。

それは、昨夜虎雅が握りしめていたあの短刀だった。



「な、なんでテメエがそれを!」

「あー、危ないから?ごめんね、預からせて貰ったよ。

すやすや寝ちゃって可愛いんだから」



短刀は、墨の手の中でくるくると回る。

虎雅は自分の頭に血が昇っていくのを感じていた。



「返せ!」

「あー、もう。無理だよ。

今返したら、殺し合いになっちゃうじゃないか」



手を伸ばす虎雅。

それを軽快に避ける墨。


一向に終わりがない攻防が続く。



「っち!」



しばらくその戦いを続けたあと、虎雅は宿屋の窓を突き破り、外へと逃げ出した。

勝ち目が無いと悟ったうえでの結論だろう。


粉々に割れてしまった窓硝子に手を添えながら、墨はクスクスと笑う。

その一連の流れを見ていた青年は、呆れたような視線を墨に向けた。



「からかい過ぎです、師匠。逃げてしまいましたよ。どうするんですか」

「大丈夫大丈夫。彼は遠くへは行かないさ」

「何をもってそんな自信が」

「虎雅は巻物の力が必要みたいだからね。宿屋にまで侵入してくる子だ。また来るさ。僕の所へ」



墨は嬉しそうに窓の外を眺める。



「さてと。窓の修理代、どうしようかな」

「…師匠」



警護官の青年は、重い溜息をついたのだった。


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