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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
29/55

幕間-3 虎雅の半年間


飯もない。

寝床もない。

虎雅は今日も、とある大木の上で盗んだ野菜をボリボリと噛む。





「南の貴族邸にも行ったし、北の貴族邸にも行った。でも、やっぱしこれといった情報は掴めねぇ」




虎雅は苦い顔をしながら、べーっと舌を出した。

彼が食べていたのは、どうやら酷く渋い野菜だったらしい。

虎雅はぺっぺっと唾を吐き出す。






──虎雅、15歳。

彼が楓葉邸から飛び出して、早4か月が経とうとしていた。




「あの占い師の巻物を使うには、ある程度の情報がなきゃ駄目だ。

でも俺は何も知らねぇ。このまま手当たり次第に巻物を使っても、いたずらに寿命を減らすだけだ」




あの日廉を担いで楓葉邸を出た後、彼は誰もいない警護所の入口に立ち寄った。

理由は簡単、廉をそこに置いていくためだ。


いくら力に自信のある虎雅でも、同い年の少年を担いで歩くのは容易でなかった。

途中、何度か彼は廉を投げ捨てようかと思った。

でも、廉が墨に見せた必死な顔を思い出すと、どうしてもそれができなかったのだ。



「…あのクソ野郎は今何をしてんだろうか」



虎雅はふと空を仰いだ。






*





実はここ最近、虎雅の耳には奇妙な噂が入ってきていた。

それは、彼が泥棒に入った貴族邸の人間たちが「路川街の占い師」を頼っている、というもの。


虎雅が知る限り、路川街に占い師はたった一人しかいない。



「貴族が『インチキ占い師』を頼っているなんて知られたら、それこそ醜聞にかかわるだろうに、一体何をしてるんだか」



木の上の虎雅の目線では、数羽の小鳥たちが楽しそうに踊る。

彼はそれを見て、険しくなっていた表情をふと緩めた。



「んま、人様の情報を盗み出してる俺が言えたこっちゃないがな」



彼の人差し指には、1羽の小鳥がちょこんと可愛らしく止まる。

なんと平和な光景なのだろうか。



「ま、俺が犯人なんて誰にも分からねぇだろ。だって、なんも証拠なんて残してねえし!」



虎雅はケラケラと軽く笑った。






──彼はまだ知らない。警護官の書類に自身の名前が書かれていることを。


そして、盗みを働いている現場を「とある三大貴族の男」に見られていたことを。



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