幕間-3 虎雅の半年間
飯もない。
寝床もない。
虎雅は今日も、とある大木の上で盗んだ野菜をボリボリと噛む。
「南の貴族邸にも行ったし、北の貴族邸にも行った。でも、やっぱしこれといった情報は掴めねぇ」
虎雅は苦い顔をしながら、べーっと舌を出した。
彼が食べていたのは、どうやら酷く渋い野菜だったらしい。
虎雅はぺっぺっと唾を吐き出す。
──虎雅、15歳。
彼が楓葉邸から飛び出して、早4か月が経とうとしていた。
「あの占い師の巻物を使うには、ある程度の情報がなきゃ駄目だ。
でも俺は何も知らねぇ。このまま手当たり次第に巻物を使っても、いたずらに寿命を減らすだけだ」
あの日廉を担いで楓葉邸を出た後、彼は誰もいない警護所の入口に立ち寄った。
理由は簡単、廉をそこに置いていくためだ。
いくら力に自信のある虎雅でも、同い年の少年を担いで歩くのは容易でなかった。
途中、何度か彼は廉を投げ捨てようかと思った。
でも、廉が墨に見せた必死な顔を思い出すと、どうしてもそれができなかったのだ。
「…あのクソ野郎は今何をしてんだろうか」
虎雅はふと空を仰いだ。
*
実はここ最近、虎雅の耳には奇妙な噂が入ってきていた。
それは、彼が泥棒に入った貴族邸の人間たちが「路川街の占い師」を頼っている、というもの。
虎雅が知る限り、路川街に占い師はたった一人しかいない。
「貴族が『インチキ占い師』を頼っているなんて知られたら、それこそ醜聞にかかわるだろうに、一体何をしてるんだか」
木の上の虎雅の目線では、数羽の小鳥たちが楽しそうに踊る。
彼はそれを見て、険しくなっていた表情をふと緩めた。
「んま、人様の情報を盗み出してる俺が言えたこっちゃないがな」
彼の人差し指には、1羽の小鳥がちょこんと可愛らしく止まる。
なんと平和な光景なのだろうか。
「ま、俺が犯人なんて誰にも分からねぇだろ。だって、なんも証拠なんて残してねえし!」
虎雅はケラケラと軽く笑った。
──彼はまだ知らない。警護官の書類に自身の名前が書かれていることを。
そして、盗みを働いている現場を「とある三大貴族の男」に見られていたことを。




