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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
27/54

26.卒業



「あんたみたいな役立たずのゴミ…いえ、むしろ疫病神。ほんと産まなきゃよかったわ。

産んでしまった、あんたをつくってしまったという事実でさえ、気持ち悪い」



護衛たちの背後から、洸貴はにやにやとした笑みを浮かべながらそう言った。

手にはあの青い扇。

廉は知っている。

あの扇は、廉の兄から母への贈り物であると。


洸貴はさらに続ける。



「まったく、昔からそう。あなたの兄は文武両道で顔も美しくて、肌も白くて言うことが何もないのに。

あなたときたらどうなのかしら?

もやしみたいな手足、そして一重の重い目。さらにはそのそばかす。

美しさの欠片もないわ。馬鹿だしね」



彼女はそう言って、楽しそうにケラケラと笑った。

そして洸貴の視線は、廉の前に立ちはだかる虎雅へと移る。



「…それになぁに?あなた、こんな汚い獣まで家に招き入れてしまって。

本当に余計なことしかしないのね?


…黄史虎雅。そして廉。死になさい」



洸貴が扇を閉じたのを合図に、護衛たちが一斉に、廉と虎雅に向かって剣を振りかざしてきた。


どいつもこいつも手加減する気はないのだろう、と虎雅は瞬時に悟る。



「おい、廉!てめえ戦えるか!」

「た、戦うって...!僕は実戦の経験なんて…!」

「うるせぇ!んなの、やらなきゃ初めの一から、なにも進まねぇのよ!」

「…っ!」



廉は舌打ちを打つと、急いで父の部屋に飾られていた木刀を手にした。

彼の脳内には、この半年間訓練を重ねたことが思い出される。


何度血豆を作ったことか。

何度肩を壊したことか。

そして何度、あの日を思い出して悔し泣きをしたことか。



「う、うるさい!僕に命令するな!」

「ははっ!いいじゃねぇか!このまま、ここを突破するぞ!」

「当たり前だ!」



二人は背中合わせになった。

虎雅の手には真新しい短刀が握られている。



「行くぞ!!」

「ああ!」




*




「ぐわっ!」

「ぐふっ!ごほっ!」

「あはは!弱いな!いいのか?三大貴族の護衛がこんなに弱くてよ!」



戦いの中、虎雅はあっという間に護衛たちを斬りつけていった。

彼の鋭い刃は、次々と彼らの腹をかっぴらいていく。



「…な、なんという外道!」



洸貴は、その光景を見て怯んでしまっていた。

辺りは血の海。

貴族育ちの高貴な女性が、何も思わない方が無理がある。



「外道?ふざけんな。そっくりそのままその言葉を返してやるよ。

な?廉」

「気安く呼び捨てにするな!」



廉は、自身にかかった返り血を拭いながら、虎雅に怒鳴りつけた。

彼の足元にも、数人の護衛たちの姿が。

そう。

彼がその剣術で捻じ伏せたのだ。


廉は洸貴の前に進み出て、そして彼女に真っ直ぐ木刀を向ける。

そして彼は、形よいその唇を開いた。



「僕はもう、白史家の者ではない」

「な、何ですって」

「僕は、今この時をもって白史家の因縁から卒業する。

つまり、あなたはもう母親ではない」

「な、何よ!」



洸貴は、廉の言葉に悲鳴のような声を上げながら叫んだ。 

彼女は美しく整えられたその髪を、ガシガシと掻きむしる。



「ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ブス!ブス!ブス!ブス!!!」



ボロボロになった洸貴。

鋭い言葉の刃を受けた廉だが、その表情はピクリとも変わらなかった。



「あなたが何を言っても、もう僕には届きません。

僕はあなた方白史家が、国と組んでやってきた悪事を世の中に広めます。

そしてこの国をぶっ潰す。

僕の大切な人のために。そして、他ならぬ僕自身のために」

「ひっ!止めて!止めなさい!」



洸貴の悲痛な声。

しかし、廉はそんな彼女に向かって木刀を振りかぶる。



「さようなら、母上」

「きゃ、きゃー!!」



ソレは振り下ろされる。

ゴンッという、鈍い音が周囲に響き渡った。





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