26.卒業
「あんたみたいな役立たずのゴミ…いえ、むしろ疫病神。ほんと産まなきゃよかったわ。
産んでしまった、あんたをつくってしまったという事実でさえ、気持ち悪い」
護衛たちの背後から、洸貴はにやにやとした笑みを浮かべながらそう言った。
手にはあの青い扇。
廉は知っている。
あの扇は、廉の兄から母への贈り物であると。
洸貴はさらに続ける。
「まったく、昔からそう。あなたの兄は文武両道で顔も美しくて、肌も白くて言うことが何もないのに。
あなたときたらどうなのかしら?
もやしみたいな手足、そして一重の重い目。さらにはそのそばかす。
美しさの欠片もないわ。馬鹿だしね」
彼女はそう言って、楽しそうにケラケラと笑った。
そして洸貴の視線は、廉の前に立ちはだかる虎雅へと移る。
「…それになぁに?あなた、こんな汚い獣まで家に招き入れてしまって。
本当に余計なことしかしないのね?
…黄史虎雅。そして廉。死になさい」
洸貴が扇を閉じたのを合図に、護衛たちが一斉に、廉と虎雅に向かって剣を振りかざしてきた。
どいつもこいつも手加減する気はないのだろう、と虎雅は瞬時に悟る。
「おい、廉!てめえ戦えるか!」
「た、戦うって...!僕は実戦の経験なんて…!」
「うるせぇ!んなの、やらなきゃ初めの一から、なにも進まねぇのよ!」
「…っ!」
廉は舌打ちを打つと、急いで父の部屋に飾られていた木刀を手にした。
彼の脳内には、この半年間訓練を重ねたことが思い出される。
何度血豆を作ったことか。
何度肩を壊したことか。
そして何度、あの日を思い出して悔し泣きをしたことか。
「う、うるさい!僕に命令するな!」
「ははっ!いいじゃねぇか!このまま、ここを突破するぞ!」
「当たり前だ!」
二人は背中合わせになった。
虎雅の手には真新しい短刀が握られている。
「行くぞ!!」
「ああ!」
*
「ぐわっ!」
「ぐふっ!ごほっ!」
「あはは!弱いな!いいのか?三大貴族の護衛がこんなに弱くてよ!」
戦いの中、虎雅はあっという間に護衛たちを斬りつけていった。
彼の鋭い刃は、次々と彼らの腹をかっぴらいていく。
「…な、なんという外道!」
洸貴は、その光景を見て怯んでしまっていた。
辺りは血の海。
貴族育ちの高貴な女性が、何も思わない方が無理がある。
「外道?ふざけんな。そっくりそのままその言葉を返してやるよ。
な?廉」
「気安く呼び捨てにするな!」
廉は、自身にかかった返り血を拭いながら、虎雅に怒鳴りつけた。
彼の足元にも、数人の護衛たちの姿が。
そう。
彼がその剣術で捻じ伏せたのだ。
廉は洸貴の前に進み出て、そして彼女に真っ直ぐ木刀を向ける。
そして彼は、形よいその唇を開いた。
「僕はもう、白史家の者ではない」
「な、何ですって」
「僕は、今この時をもって白史家の因縁から卒業する。
つまり、あなたはもう母親ではない」
「な、何よ!」
洸貴は、廉の言葉に悲鳴のような声を上げながら叫んだ。
彼女は美しく整えられたその髪を、ガシガシと掻きむしる。
「ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ブス!ブス!ブス!ブス!!!」
ボロボロになった洸貴。
鋭い言葉の刃を受けた廉だが、その表情はピクリとも変わらなかった。
「あなたが何を言っても、もう僕には届きません。
僕はあなた方白史家が、国と組んでやってきた悪事を世の中に広めます。
そしてこの国をぶっ潰す。
僕の大切な人のために。そして、他ならぬ僕自身のために」
「ひっ!止めて!止めなさい!」
洸貴の悲痛な声。
しかし、廉はそんな彼女に向かって木刀を振りかぶる。
「さようなら、母上」
「きゃ、きゃー!!」
ソレは振り下ろされる。
ゴンッという、鈍い音が周囲に響き渡った。




