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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
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25.再会




「…う、うげっ」

「…は、は?」




床しか見えない廉の耳に届いたのは、どこかで聞いたことのある声だった。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔。

彼はそれを服の袖で乱暴に拭う。



「…ん、え?」

「え、じゃねぇよ。てめえ、なんでこんなとこにいんだよ!」

「…こ、ここは僕のじ、実家で…」



廉は、どこか安心するその声の主を探るように、ゆっくりと視線を上げる。

…そして、その人物の顔を捉えた。



「…き、君は」

「げっ、こっち見んじゃねえよ!や、やべ!てめぇの実家だとは思わなかったわ!逃げなきゃ!」



その人物…虎雅は、ハッと我に返ったようにそこから立ち去ろうとする。

しかし翻った虎雅を追いかける様に、廉の右手が宙を舞った。



「ま、待ってくれ…!」

「はぁ!?馬鹿言ってんじゃねえよ!この状況で逃げねぇアホはいねぇだろ!」

「お、お願いだから!」



廉の悲痛な声が部屋中に響いた。

今までに見たことの無い彼の様子に、虎雅はその動きをぴたりと止める。



「…んな、ど、どうしたんだてめぇ。ま、まさか俺を陥れようっていう魂胆じゃ…」

「そ、そんなことしない!僕も…人のこと言えた立場じゃないから」

「は?お前、自分の実家なんだろ?」

「…それは、そう…だけど」



モゴモゴと口籠ってしまう廉。

虎雅はそんな彼を見て、深く溜息をついた。



「…んだよ、訳ありかよ」

「そ、そうなんだ…」





*




「はーっ、まさかお前が白史家の次男だったとはね。

それにその手紙の内容!

まさか国の裏側がこんなに鮮明に書かれているとはな!


こりゃー、楓葉があのインチキ占い師使っても知りたい情報が出てこねぇわけだわ!」

「お、怒っていないのか」

「は、怒る?別にてめぇはこの件に関して何にも悪くねぇじゃねぇか」




あの後廉は、自分が見たもののことを全て虎雅に説明していた。


廉は自分でも不思議だった。

あれ程倒したいと思っていた虎雅に、今、自分がこんなに縋ってしまっていることが。


楓葉に対する気持ちとはまた違う。

虎雅には弱みを見せることが、なぜか恥ずかしくなかった。




「…だが、僕の家は君の家…黄史家も滅ぼした。

本来なら僕を見るだけで、怒りや悲しみや恨みが出ても可笑しくない。

僕のことを殺したいくらい憎いはずだ」

「だから!」

「きっとそれは師匠も同じ…!」

「だから落ち着けって!」



虎雅は、廉の頭をバシンッと力強く叩いた。

太鼓を叩くようないい音が鳴る。

廉は反射的に虎雅を睨み付けた。



「何するんだ!この馬鹿者!」

「…おーっ、それでいいんだよ」

「…は、は?」



虎雅は廉の大声に満面の笑みを浮かべてみせた。

しばらく呆然としていた廉だが、彼の言うことの意味を理解して、顔を真っ赤に染める。



「だから大丈夫だって」

「は?」

「楓葉は馬鹿ではねぇと思う。そんなアイツがお前に情報を取ってくるように頼んだんだ。ある程度の仮説は立てていたんだと思うぜ」



虎雅は部屋の入口を気にしながらそう言った。

そして、そのまま廉を自身の背後に隠す。



「…お前の話を聞く限り、楓葉は16歳の時に、里を滅ぼした真犯人が皇帝であることを掴んでいるんだ。


アイツがどんな情報を掴んで、その真実を巻物で浮かび上がらせたかは分からねぇ。

でも、その時からある程度の理解はしていたんだと思うぜ」



虎雅は廉を振り返って、にいっと微笑んだ。

そして床に散らばっていた、例の手紙たちを乱暴に自身の懐に突っ込む。



「な、何をするんだ!」

「何もクソも。

やっと半年間探し続けていた情報が手に入ったのよ。

これでやっとこそ泥生活が終わりなんだ。

幸いなことに、あの占い師も頼らなくて良くなったしな…!


…でもよ。これを無事にここから持ち出さなきゃ意味がねぇのよ」

「え」

「お前気付いてねぇのかよ。俺たち、囲まれてるぜ」



虎雅の言葉と同時に、部屋の外からは複数人の剣士たちが現れる。

みんな白史家の護衛たちだ。


その背後から、白史洸貴が顔を覗かせた。



「あらまあ。不思議だったのよ。廉、あんたが今更帰ってきたことがね」



冷たく、地面に響くような声だ。

廉は思わず小さな悲鳴を漏らした。





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