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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
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24.通信記録



──大切に大切にしまわれたソレ。

まるで白史家の歴史に、故意に埋もれさせるようだと廉は思った。




廉が手にしたのは、何百枚にも及ぶ黒史家との通信記録の束であった。

ふと日付を見てみれば、それは543年から始まっている。


廉は唾を飲み込み、その束を1枚ずつ解く。




「かび臭い…」




廉が最初に思ったのは、匂いについての率直な感想だった。

恐らく、もう長いこと誰にも見られていなかったのだろう。

紙は独特な匂いを放つ。


彼は一度深呼吸をすると、その紙の内容に目を滑らせていった。



「…黒史家とのやり取り。はじめは普通の内容だ。近況報告であったり、季節の挨拶であったり…」



その束に、黄史家の名前が出始めたのは543年のことだった。

はじめに黄史家の名前を出したのは、白史家当主…つまり、廉の父親であった。





【最近、我らが路川街で黄史家という下級貴族が名を轟かせているらしいですな。

なんでも下級貴族の分際で、庶民たちを引っ張っているのだとか。

今に勢力を拡大したらやっかいです。

今のうちに潰してしまうのはいかがでしょうか。

神の名の下に】




それに対する黒史策の返信はこうだ。




【その話は俺も知っています。ですが、庶民の支持を集めている貴族を潰すのは、あまりにも短絡的ではないでしょうか。

貴方は最近、非常に物騒なことを言いますね】




そこからも、2人のやり取りは続いた。

話はほぼ平行線。

白史家当主の言葉に黒史家当主が反論する、といった具合である。


流れが変わったのは、546年のこと。

そう、裏京里が滅ぼされた翌年のことだ。




【神里の一つが滅されてから早1年。あれからさらに黄史家は力をつけています。

今や、路川街の庶民たちで黄史家の名前を知らぬものはおりません。

これでもまだ黙ってみていろ、とおっしゃるのですか!】


【白史殿。そう熱くならないでください。俺からみたら、貴方のような人間が宰相を務めることに危機感を感じます。

俺は今度の三大貴族会議にて、黄史家を宰相に推そうと思います。

貴方は一度、宰相の座から降りるべきだ】


【黒史殿!何をおっしゃります!下級貴族が宰相を務めたことなど、ただの一度もありません!】


【前例がないのならば、作ればいいだけのこと。

これ以上手紙の返信はいりませんので、悪しからず】




廉は、クシャクシャになっていたその紙を静かに見つめた。

恐らく父が思い切り握り潰したためだろう。

父の当時の気持ちが、そのまま伝わってくるようだった。




「…この後本当に、白史家は黄史家に宰相の座を奪われるんだ。

550年。黄史家が滅びるまで」




この後の通信記録は残っていなかった。

これは想像でしかないが、あの手紙のやり取り以後、父と黒史策は余程仲が悪いのであろう。


廉は集めた証拠を眺めて、苦笑した。

これを楓葉に持っていかなければならないのか、と。




「…いくら師匠が警護官、しかも隊長格とはいえど、さすがにここまでの情報は持っていなかったんだろう。

それでは、あの占い師も頼ることはできない。答えが絞れなさすぎる」




廉は「だから師匠は僕に依頼したんだ」と呟いて、その場にヘナヘナと座り込む。




「…僕がこの情報を師匠に渡すのはいい。でも、師匠はこれを見て僕のことを嫌いにならないか?

だって、白史家は師匠の里を滅ぼした協力者だと言っても過言ではないんだぞ」




廉の瞳からは光が消える。

そして同じく消え入りそうな声を出す。




「…僕がちゃんとした『白史家の者』だったら。逃げ出した役立たずじゃなかったら、もっと早く師匠の寿命を止めることが出来たのに。

…なんだこれ、僕が…いや、僕たちが、師匠の寿命を減らしたと言っても過言じゃないじゃないか」




廉の瞳はさらに曇る。

そして彼は床を見つめたまま、低い声で唸った。




「…まさか虎雅が。僕が倒したいと願うヤツが、一番師匠の力になってくれるかもしれない存在だったなんて。

あんまりじゃないか。

…僕は、楓葉様の元へは戻れない」




上半身ごと崩れ落ちた廉。

部屋の外からは、何者かが近付く足音がしていた。





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