17.貴族警備部隊長
路川街、警護所。
そこは露華国に複数ある警護所のうち、2番目に大きい施設である。
1番大きな警護所は露華国首都、華見台に置かれている。
それぞれの警護所には、各々の内部組織が存在する。
街の治安維持を担当する、治安部隊。
収監者の指導、監視をする収監部隊。
そして。
各々の街にいる貴族たちを護衛する、貴族警備部隊である。
それぞれの部隊は独立しながら、しかしお互いに協力し合いながら活動を行っている。
ちなみに、楓葉は治安部隊の隊長。
若い彼だが、その腕を買われてそこまでのし上がった。
隊長に就任した当時から、あまり仲が良くなかった楓葉と貴族警備部隊長。
楓葉はこれから起こりうるであろうことを想像して、一人溜息をついた。
楓葉が動き出したのは、午前の市中見廻りが終わり、隊員たちが昼食を食べに出掛けた頃だった。
彼はひんやりとする自身の拳を握り締め、覚悟を決めて、貴族警備部隊長室の扉を叩く。
「はい、何でしょう」
扉の向こうから聞こえてきたのは、凛とした高い声だった。
どこかまだ幼さ残る声質に、楓葉は大きく息を吸い込む。
「治安部隊隊長、楓葉です。お話があります。入ってもよろしいか」
「どうぞ」
楓葉は、その声に従うように扉をゆっくりと開けた。
ある程度扉を開き、中を覗いてみれば、そこには薄桃色の髪を持つ美しい少女の姿が。
楓葉は一歩を部屋の中に踏み入れた。
「貴方がここに来るなんて珍しいですわね」
「ああ、そういえばそうですね、桃央隊長」
警備部隊隊長、桃央。
彼女は若干17歳でありながら、その知力と家柄で隊長に上り詰めた人物である。
露華国、三大貴族の1つ朱史家。
彼女は朱史家当主の三女なのだ。
「私のような泥臭い者が、貴族のお嬢様に近付くなどできませんからね。
いくら同じ隊長と言えども」
「あら、貴方のその面倒臭い物言いも変わっていませんこと」
桃央は、光る水色の瞳で楓葉を見据えた。
口元には孔雀が映える、真っ赤な扇。
彼女はそれをゆっくりと扇ぐ。
「…まあいいです。私たちは昔からこう。形だけの挨拶など意味はありませんね」
「ええ。わたくしもそう思いますわ。それで?何のご用事?」
桃央は扇を勢いよく閉じる。
その仕草で、彼女が苛立っていることが嫌でも伝わってきた。
楓葉は片手で頭をポリポリと掻いた後、ゆっくりと彼女に近付いた。
そして。
そのまま片手を自身の右腰に伸ばす。
「あら、どういうつもり?」
「どういうつもりもクソもねぇよ、この狸女」
楓葉は剣を抜き、真っ直ぐに桃央へと突き付けたのだった。




