16.探し物
警護所の書類庫。
誰もいない真夜中。
楓葉はただ一人、さまざまな書類を漁っていた。
理由はもちろん、墨に言われた言葉が気になるから。
古びて茶色くなった書類。
大昔の取調帳。
カビの生えた、よく分からない紙。
ありとあらゆるものを、まるで地面を掘るかのように探す。
──もうどれくらいの時間を探しているのだろう。
月も西へと傾く。
気が付けば、楓葉の影は足元から背後へと移動していた。
「…可笑しい。こんなに探しているのに、なんで見つからないんだ。ここまでひた隠しにするなんて、逆に怪しすぎる」
楓葉が探していたのは、ただ1つ、「虎雅」の名前が書かれた書類。
そう。
墨が浮かび上がらせた、その文字の原本を探しているのだ。
その書類には、きっと被害者…つまりは、貴族の名前も書かれているはず。
そして、もしかしたら貴族たちには何らかの共通点があるかもしれない、そう思ったのだ。
本来なら、警護所にとって貴族たちの護衛は1、2を争う程の大切な業務。
本当だったら、警護所全体で共有されなければならない内容なのに。
「虎雅くんは一体何を盗んだんだ…いや、本当は何を盗んだのか検討はついている…」
楓葉は書類を探す手を止め、小さく呟いた。
彼の脳裏には、貴族邸から「情報」を盗み出す虎雅が映し出される。
「虎雅くんは、きっと『文字』を巻物に確実に写し出すために、情報を集めているんだ。
彼は元貴族。
犯人は、そんな彼の家を滅ぼせるんだ。
きっと同じような…いや、もしかしたらそれ以上の大きな力が関わっているかもしれないから」
楓葉は床につけていた拳を力強く握り締めた。
爪が掌に食い込む。
「…だからって、一人、貴族の家に忍び込むのはあまりにも危険すぎる。
捕まったら、本当にそれこそ命はない。
この路川街に情けなんてものは存在しないのだから」
楓葉は窓の外を見上げた。
遠くの空が白み始め、夜明けを告げようとしている。
「…これは、貴族警備隊長に聞く必要がある」
力強い言葉。
楓葉は深く息を吸い込んだ。




