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宿下墨写録 ─墨と全知の巻物と路川街─  作者: ずー
二章:路川街警護官編
16/52

15.容疑者



──露華国。


そこは豊かな自然と、賑やかな街、そして神々への信仰が混じり合う多文化国家。

異国からの観光客や移住者を受け入れ、さらに国を盛り上げようとする皇帝、旺雪。齢35。


純白の白髪と、白い肌。

まるで雪のように美しい皇帝として、国中にその名を轟かせていた。


彼は理想の皇帝として、国民たちに奉られている。





*







「ふわぁあっ。今日の稼ぎは銅2枚かぁ、世知辛いねぇ」




墨は今日も路川街の片隅で、情報売りに励んでいた。

だが、儲けはたった少し。

彼はいつの間にか高くなった空を仰ぐ。


果てしなく高い空。

冬よりも湿気の少ない季節、夏。





虎雅との一件から、早半年が過ぎようとしていた。










「楓葉。そういえば、最近君のお弟子はどうしてる?」



ある日、墨は楓葉にそう尋ねた。

墨の宿の部屋で掃除をしていた彼は、ふと視線を上げる。



「弟子…廉のことでしょうか」

「そうそう」

「まあ変わらずですよ。半年前に虎雅くんにやられたことが悔しくて、日々訓練に打ち込んでいます」

「あらまあ」



墨は楓葉の言葉にけらけらと笑った。

「若者はそれくらいじゃなきゃ」と、墨は言葉を続ける。



「…廉は強くなっていますよ。流石私の弟子、ですよ」

「はははっ、自分で言う?」



墨は床をバンバンと手で叩いた。

あまりに力強く叩いたため、部屋中が揺れるようだ、と楓葉は思った。

それは彼だけではなかったようで、床下からはドンッと棒か何かで勢いよく突かれる。


それを聞いた墨は、床を指差しながらペロッと舌を出した。



「…師匠。貴方、何歳ですか」

「えーっ?分かんない!」

「あのねぇ…」



墨は楓葉に向けて満開の笑みを浮かべた。






──それは、日が沈みかけ楓葉が帰る支度を始めた頃のことであった。

墨は机に頬杖をつきながら、ボソリと口を開く。




「そういえばさ。ここ最近…数ヶ月の依頼人たちなんだけど」

「え?ええ」



楓葉は怪訝な表情で墨に振り返った。

墨が仕事のことを話すなど、今まであり得なかったからである。



「最近、頻発しているらしいんだ。高貴なお家の方々宅の盗っ人事件が。

ここ最近の依頼人たちは、カンカンに怒って犯人の名前を知りたがっていたんだ」

「え?」

「調べた結果、その容疑者が虎雅って名前でね。街の警護官たちの書類にそう書いてあったんだけど。

楓葉、何か知らない?

君も分隊の隊長格だろう?」



楓葉はそれを聞いた途端、目を大きく見開いた。

そして勢いよく、墨に詰め寄る。



「なっ、なんだ!それは!私は知らないぞ!」

「どうどう」




蹴飛ばされた楓葉の荷物。

そしてそこらに舞った埃。

床には楓葉の冷たい汗が零れ落ちた。









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