15.容疑者
──露華国。
そこは豊かな自然と、賑やかな街、そして神々への信仰が混じり合う多文化国家。
異国からの観光客や移住者を受け入れ、さらに国を盛り上げようとする皇帝、旺雪。齢35。
純白の白髪と、白い肌。
まるで雪のように美しい皇帝として、国中にその名を轟かせていた。
彼は理想の皇帝として、国民たちに奉られている。
*
「ふわぁあっ。今日の稼ぎは銅2枚かぁ、世知辛いねぇ」
墨は今日も路川街の片隅で、情報売りに励んでいた。
だが、儲けはたった少し。
彼はいつの間にか高くなった空を仰ぐ。
果てしなく高い空。
冬よりも湿気の少ない季節、夏。
虎雅との一件から、早半年が過ぎようとしていた。
「楓葉。そういえば、最近君のお弟子はどうしてる?」
ある日、墨は楓葉にそう尋ねた。
墨の宿の部屋で掃除をしていた彼は、ふと視線を上げる。
「弟子…廉のことでしょうか」
「そうそう」
「まあ変わらずですよ。半年前に虎雅くんにやられたことが悔しくて、日々訓練に打ち込んでいます」
「あらまあ」
墨は楓葉の言葉にけらけらと笑った。
「若者はそれくらいじゃなきゃ」と、墨は言葉を続ける。
「…廉は強くなっていますよ。流石私の弟子、ですよ」
「はははっ、自分で言う?」
墨は床をバンバンと手で叩いた。
あまりに力強く叩いたため、部屋中が揺れるようだ、と楓葉は思った。
それは彼だけではなかったようで、床下からはドンッと棒か何かで勢いよく突かれる。
それを聞いた墨は、床を指差しながらペロッと舌を出した。
「…師匠。貴方、何歳ですか」
「えーっ?分かんない!」
「あのねぇ…」
墨は楓葉に向けて満開の笑みを浮かべた。
──それは、日が沈みかけ楓葉が帰る支度を始めた頃のことであった。
墨は机に頬杖をつきながら、ボソリと口を開く。
「そういえばさ。ここ最近…数ヶ月の依頼人たちなんだけど」
「え?ええ」
楓葉は怪訝な表情で墨に振り返った。
墨が仕事のことを話すなど、今まであり得なかったからである。
「最近、頻発しているらしいんだ。高貴なお家の方々宅の盗っ人事件が。
ここ最近の依頼人たちは、カンカンに怒って犯人の名前を知りたがっていたんだ」
「え?」
「調べた結果、その容疑者が虎雅って名前でね。街の警護官たちの書類にそう書いてあったんだけど。
楓葉、何か知らない?
君も分隊の隊長格だろう?」
楓葉はそれを聞いた途端、目を大きく見開いた。
そして勢いよく、墨に詰め寄る。
「なっ、なんだ!それは!私は知らないぞ!」
「どうどう」
蹴飛ばされた楓葉の荷物。
そしてそこらに舞った埃。
床には楓葉の冷たい汗が零れ落ちた。




