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13.叫び



「むぐ、むぐぐ…」

「あ、起きたじゃん。おっはよー!まだ真夜中だけどぉ!」

「…っ!イ、インチキ、う、占い師!」

「だから僕はもく、だってば」




静寂に包まれる楓葉邸の一室。

けらけらという、墨の軽い笑い声だけが不気味に響き渡る。


警護官の少年…廉は、両腕を使いながら、懸命に身体を起こした。

彼の瞳は、目の前にいる墨と虎雅を交互に捉える。



「…な、なんで貴様がここに!」

「あー、君の師匠…楓葉に言われて?」

「…っ、あのお方は!本当に!僕じゃ頼りないとでも言うのか!」



廉は表情を歪めた。

額にシワが寄り、細められた一重は己の拳を睨みつける。

虎雅には、彼の感情が手に取るように理解できた。


墨は廉の反応を見て、再び笑う。



「べっつにー?信用してないわけじゃないさ、恐らくね。

でも君、僕のことが嫌いじゃん。

そんで虎雅が僕とちょっとでも関わりがあることを知ってるじゃん。

だからきっと、こうなることが予想できたんじゃないかな。

まだまだだねぇ」

「この野郎!」

「おーっと、まだ動かない方がいいんじゃない?虎雅は君よりよっぽど強い。

そんな彼にやられたんだからサ」



廉はその言葉に、その目を見開いた。

そしてそのまま、床をドンッと殴りつける。



「僕は!楓葉様の弟子として、楓葉様の故郷の方々の敵を取らなければいけない!

それなのにどうして!

どうして、こんな野蛮な人間に負けてる暇があろうか!

敵は、あの呪具の付喪神なのに!」



廉の言葉に、今度は虎雅が目を見開く番であった。

そして虎雅は、勢いよく墨を見つめる。


墨はいつもの笑顔を消し、そして虎雅を見つめ返した。

黄色の瞳がいつもより揺れて見えるのは、気のせいだろうか。


 

「黙るな!お前も同じ付喪神だろう!

何が神、だ!

人殺しの仲間なのに、よく楓葉様に関わっていられるものだ!」



廉の叫びは止まらない。

彼は唾を吐き散らしながら、まだ続ける。



「なぜ、犯人が呪具の付喪神だと知っていながら、平気な顔で楓葉様と暮らし続けられたんだ!

何を思って、楓葉様に本当のことを教えなかった!

どうして犯人の名前すらも教えなかった!

もし貴様が楓葉様に知っていることを教えていたら、楓葉様は1日たりとも寿命を減らさなくてよかったのに!」



最後の方は、息を切らしながら。

廉はこれ以上無いほど必死だった。

敬愛する師匠の命が関わる問題だ。

当然と言えば、当然なのだろう。



「貴様は、呪具の付喪神が裏京里を滅ぼそうとした本当の理由を知っているんじゃないか。

もしかしたら、巻物に文字として載っていなくても付喪神同士で話すこともあるんじゃないか。

…もし、本当にそうだとしたら僕は貴様を殺す」



廉は最後にそう吐き捨てると、再びその場に倒れ込んだ。

恐らく身体の限界が来たのであろう。





──しばらくの静寂の後、虎雅は無意識のうちに廉の肩を抱き上げていた。



「…なあ。今の話、本当なのかよ」



虎雅は廉を担ぎ上げながら、小さく呟く。

しかし墨は何も応えない。



「50年って、あんたらカミサマにとっては大したことがねぇのかよ。

人一人の命なんて、どうでもねぇってのかよ。

…あんたは、楓葉や俺のことも玩具としてしか見てねぇってことなのかよ」





虎雅は低い声でそれだけ言い残し、楓葉邸を後にした。




…ボロボロになった屋敷には、墨がただ一人だけ残される。

月明かりが池に反射して、部屋内をほんのりと照らしていた。


魚は眠っているようだ。

水面も波紋を立てない。



「…ほんとだよねぇ。僕って共犯者なのかもね」



墨の独り言は、誰にも聞かれること無く消えていった。




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