11.野生の虎
「とりゃっ!死ね!
お前なんかが、この屋敷に足を踏み入れて良いわけがない!」
「上司の屋敷で剣を振り回すお前に言われたくねぇよ!」
「うるさい!さっさと出ていけ!あのクソ占い師の手の者が!」
「ちっ、ちげえよ!」
楓葉と同じ羽織を羽織った、警護官の少年が激しく剣を振り回す。
虎雅は受け身を取りながら、必死にそれを避けた。
「くそっ!あぶねぇ!」
「そう思うなら、出ていけばいいんだ!楓葉様のお手を煩わせる者など、この世からいなくなればいい!」
少年はブンブンと剣を振り続けた。
屋敷の中は、少しずつ荒れていく。
先程までの綺麗だった柱には、無数の刀傷がついていた。
「この野郎、てめえ本当にろくでもねぇな!どうすんだ、屋敷の中ボロボロだぞ!」
「いい!後で僕の金で直す!」
「ったく、ボンボンかよ!」
「…っ!何も知らないくせに知ったような口を利くな!」
少年の黒髪と灰色の澄んだ瞳が、虎雅を真っ直ぐに捉える。
彼の剣捌きは非常に流暢であり、そして洗練されていた。
きっと自分とは違い、訓練された成果なのだろうと虎雅はふとそんなことを考える。
「…っ!俺はな!恵まれた環境にいて、それを分かっていないヤツが大嫌いなんだよ!」
虎雅は近くに飾ってあった木刀を手に取った。
これはきっとよい品なのだろう。
手に持つと、とてもよく馴染む。
「お、お前!それは楓葉様の物だぞ!」
「知ってるわ。傷つけたら、お前が弁償してくれんだろ?ボンボンさんよぉ!」
「この!その呼び方を止めろ!」
虎雅は木刀を構え、一気に少年に襲いかかった。
虎雅の刀は、勢いよく少年の脇腹を捉える。
少年は、脇腹を抑えてその場に倒れ込んだ。
「ぐ、げほっ、げほっ!」
「はっ、口程にもねぇヤツだな。てめえ、そんなんじゃ1人で生きていけねぇぞ」
「がはっ、ごぼっ!」
少年は勢いよく咳き込んだ。
長いこと脇腹を両手で押さえているのを見るに、かなりの痛みだったのであろう。
よく見てみれば、彼の咳と混じって、少量の血液が床に落ちていた。
「く、口がっ、げほっ、がはっ、さ、サビっぽい…」
「は?てめぇ、口から血も出したことねぇの?よくそんな甘ちゃんで、俺に喧嘩を売ろうと思ったな」
「う、うるさ…!」
少年は最後にそう呟き、その場に勢いよく倒れこんだ。
身体が床にぶつかる音が、辺りに冷たく響く。
虎雅はそれを見て、鼻で笑った。
「さあてと。敵の前で倒れ込むことがどういうことか分からせてやるわ」
虎雅は少年の腰に手を伸ばす。
向かうはそう。
彼の剣である。
「己の刃で己が刺される。愉快だよな」
彼はにやりと嗤う。
そして少年の剣を鞘から引き抜き、それを大きく振りかぶる。
──少年はピクリとも動かない。
「…死ね」
屋敷内に、虎雅の冷たい声がゆっくりと落ちていった。




