10.「私は君を信じているから」
「さてと。私はそろそろ行かねば」
深夜。
楓葉はぼそりと呟き、腰に2本の剣を差した。
「どこへ」
「なに、警護官の仕事だ。今日は夜中から勤務に出なきゃいけないんだ」
虎雅の問いに、楓葉はあっさりと答えた。
あまりにも淡々と告げられたため、虎雅は思わず唖然としてしまう。
「お、俺をひ、一人家に置いておいていいのかよ」
「ははっ、何だ、そのこと」
楓葉は、辿々しく言う虎雅に軽く笑った。
そして玄関の方へ視線を移す。
「直に私の部下が来る。何かあったら彼に何なりと告げるといい。
彼は君と同い年だから、話しやすいだろう」
「い、いやそうじゃなくて」
「ならどういうことだ」
今度は楓葉が首を傾げる番だった。
言っている意味がよく分からない、という雰囲気を醸し出す彼に、虎雅の顔は真っ赤に染まる。
「だっ、だから!俺をそ、そんなに信用していいのかって言ってんだよ!
俺がこの屋敷を荒らしたり、てめえの部下を殺したりとか思わねぇのかよ!」
「ああ、そのこと」
楓葉はポンッと手を叩き合わせた。
そして玄関の扉に手を掛けながら、にいっと微笑む。
その顔は、まるで墨を彷彿とさせた。
「大丈夫大丈夫。私は君を信じていますから、虎雅くん」
「んなっ!」
楓葉はギイっと扉を押して屋敷を出ていく。
虎雅は唖然としたまま、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。
虎雅は一人ぼっちになった屋敷で、しばらく呆然としていた。
彼はふと屋敷内を見渡す。
見るからに高級な木で作られた、互い違いの棚。
そこに飾られている、質素な壺や花。
だが、虎雅には分かった。
その壺は、遥か古代の陶工が造ったものであると。
なぜなら、虎雅の実家にも似たような壺が何個も並んでいたからだ。
「あんたを信じていいのかよ…」
真っ暗な部屋に、虎雅の呟きが溶けていった。
──それからどのくらいの時間が過ぎただろうか。
「寝るな!」
「うがっ!」
布団に座ったままウトウトしていた虎雅は、誰かに頭を引っ叩かれて目を覚ました。
やけに痛む後頭部を擦りながら、虎雅は目の前に立つ少年を睨みつける。
「…だっ、誰だよ!お前!」
「お前、だと?失敬なヤツだ。僕は楓葉様に言われてここに来てやったんだ。少しは敬ってもらおう」
「は、は?」
虎雅は布団から飛び出す。
若干身体がふらつくが、彼はそれを懸命に立て直した。
「はっ」
少年はそれを見て、鼻で笑う。
そして自身の腰についている刀をゆっくりと引き抜いたのだった。
「虎雅…ね。なにが、雅だよ。ただの野生の虎じゃないか」
「んだと!?」
虎雅と少年は、真っ暗闇の部屋の中で睨み合った。




