悪役令嬢ですが、断罪される前に寝落ちしました
※本作は
『悪役令嬢と呼ばれた私も、断罪された宰相も、何もしていない』
を、全力で崩したコメディ短編です。
重いテーマ?
国家崩壊?
制度と空気の恐怖?
全部あります。
ただし、悪役令嬢は寝ます。
宰相は胃薬を飲みます。
深く考えず、
「断罪って雑だなあ」と笑ってもらえたら勝ちです。
本編を読んだ方は答え合わせに、
未読の方は勢いで、
どうぞお気軽に。
その日、王城の大広間はざわついていた。
理由は簡単で、断罪の日だったからだ。
私は玉座の前に立たされていた。
公爵令嬢、王太子の婚約者、そして――悪役令嬢、らしい。
「これより、悪役令嬢アリシア・フォン・なんとかを断罪する!」
王太子が叫ぶ。
叫ぶ必要はないと思う。距離、近い。
私は欠伸を噛み殺した。昨夜、なぜか猫と遊んでしまって寝不足だったのだ。断罪って、もっと短く終わらないだろうか。
「お前は聖女を虐げ!」 「王太子殿下を惑わし!」 「民の心を踏みにじった!」
踏みにじってない。
そもそも民とそんなに話したことがない。
「なにか弁明はあるか!」
あるにはある。
が、その前にまぶたが重い。
(……あとでいいか)
私はそのまま、立ったまま、寝た。
「おい! 寝るな!」 「断罪中だぞ!」 「起きろ悪役令嬢!」
起きない。
なぜなら眠いからだ。
ざわざわする大広間。
貴族が困惑し、騎士がざわつき、聖女が「えっ……?」と小さく声を漏らす。
「こ、これは新しい挑発か!」 「さすが悪役令嬢……!」
違う。普通に寝ているだけだ。
王太子が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「よし! ならば断罪はこのまま進める! えーと……宰相!」
呼ばれた宰相は一歩前に出た。三十代、胃が弱そうな顔をしている。
「……はい」
「この悪役令嬢について、何か言うことは!」
宰相は一瞬、寝ている私を見た。
そして、少し考えた後、正直に言った。
「……特にありません」
「は?」
「記録上、彼女は何もしていません。強いて言えば、昼寝が多いくらいで」
「昼寝は罪だろう!」
「それは国法にはありません」
宰相は淡々としている。
胃薬の匂いがした。
「くっ……ならば! この宰相も同罪だ! 悪役令嬢を庇った!」
「えっ」
宰相の人生が一瞬で転んだ。
「宰相を罷免! 爵位剥奪! 国外追放!」
「えっ」
二回目。
その時、私は目を覚ました。
「……あれ? もう終わりました?」
「終わっていない!」 「今まさにだ!」
私は状況を把握した。
どうやら私は寝ている間に、宰相ごと追放されることになったらしい。
「まあ、いいか」
よくないが、まあいい。
───
数日後。
私と元宰相は馬車に揺られていた。
「すみません……」
宰相が小さく言う。
「私がもう少し上手く立ち回れていれば……」
「大丈夫ですよ」
私は干し肉を齧りながら答える。
「私、あの国、あんまり好きじゃなかったので」
「……そうですか」
「朝早いし、夜遅いし、謎のパーティ多いし」
宰相は何も言えなかった。
隣国に着くと、宰相はなぜか即就職した。
帳簿を見せたら、周囲がひれ伏したらしい。
「数字が……美しい……」 「神か……?」
私は市場でパンを売ることにした。
理由は簡単で、焼きたてが食べられるからだ。
───
五年後。
私は二児の母になっていた。
なぜそうなったかは、あまり覚えていない。たぶん流れ。
宰相――元宰相は、相変わらず帳簿を見ている。
「この国、最近すごく豊かですね」
私が言うと、彼は頷いた。
「制度を整えただけです」
「へえ」
子どもが走り回り、パンの匂いがして、昼寝には最高の環境だった。
そこへ、旧王国の噂が届く。
「断罪しすぎて人がいなくなったらしい」 「次は誰を断罪するかで揉めてるとか」
私はパンを齧りながら言った。
「断罪、便利ですもんね」
「便利すぎると、国が壊れます」
宰相が真面目に言う。
「まあ」
私は欠伸をした。
「寝てる間に壊れる国なら、起きてても無理ですよ」
宰相は一瞬黙り、そして苦笑した。
「……確かに」
私は子どもと一緒にごろりと横になる。
悪役令嬢だった気もするし、違った気もする。
でも今はただ、眠い。
「お昼寝します?」
「……私も」
二人で並んで寝転んだ。
断罪?
王国崩壊?
それより大事なことがある。
今は、昼寝の時間だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作は
『悪役令嬢と呼ばれた私も、断罪された宰相も、何もしていない』
を、深く考えずに崩したコメディ版です。
本編では「空気で国が壊れる怖さ」を真面目に描きましたが、
こちらでは「そもそも断罪って雑じゃない?」という方向に全振りしました。
寝ている間に追放されるし、胃薬を飲んでいる間に人生が転ぶし、
でも案外それで何とかなってしまう、という話です。
重たい断罪も、国家崩壊も、
見方を変えると「真面目にやりすぎた結果の事故」だったりします。
なので今回は、あえて真面目にふざけました。
本編を読んだ方には、
「同じ骨組みでも、こんなに軽くなるのか」と笑ってもらえたら嬉しいですし、
こちらが先だった方は、
「なんか裏に重そうな話があるな?」と思っていただけたら成功です。
断罪より大事なものは、たぶん昼寝です。
それでは、また別の世界線で。




