表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄砂の太陽  作者: タイシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

タイトル未定2026/01/26 07:09

春の終わり、黄砂が街を包み込むある週末の午後。中年の男たちが河川敷に集まり、炭をおこし、ビール缶のプルタブを弾いた。かつて小学生だった彼らは、今ではそれぞれの人生を歩み、頭には白髪も混じる年齢になっていた。


 「よっしゃ、焼けたぞー」

 大きな声を上げたのは、かつての“餓鬼大将”だった坂本である。小学生の頃から喧嘩っ早く、近所のガキんちょをまとめていた彼は、今では工場の現場監督をしている。


 ジュウ……という音とともに肉が焼ける。香ばしい煙が立ち上り、ビールを注ぐ音がそれに重なる。


 「しかし、懐かしいなあ……こうして集まるのも何年ぶりだ?」


 「10年くらいになるか? 最後は佐野の通夜だったよな」


 その名が出た瞬間、空気が一瞬重たくなった。佐野——小学生の頃から穏やかで、誰にでも優しく、夢は医者になることだった。


 そして彼はその夢を叶えた。しかし、数年前、彼は自ら命を絶った。


 「……あいつ、なんで自殺なんかしたんだろうな」


 誰かがポツリとつぶやいた。


 「わかんねえよ。あいつ、何でもできたし、性格だってよかった。……俺らなんかより、ずっとまともだったのにな」


 坂本がビールを口にしながら、遠くの夕陽を見つめた。黄砂の影響か、空はどこか濁っていた。しかし、そこに沈む夕陽は異様なほど鮮やかな朱色で、まるで空が燃えているかのようだった。


 「あれ、綺麗だな」


 「黄砂だよ、あの赤さ」


 「そうなのか?」


 坂本はうなずいた。


 「空が濁るからこそ、あんなに赤く見えるらしい。皮肉なもんだよな」


 誰かが佐野のことを思い出すように言った。


 「そういや、あいつ、小学生の時……覚えてるか? 夏休みに俺たち、馬鹿みたいに日本酒持ち出して、近所の裏山で飲んだろ?」


 「ああ……あったな」


 「佐野、顔真っ赤にして『俺たち、今日のこと一生忘れないよな』って言ってさ」


 「あいつ、そういうとこあったよな……感情をまっすぐに出すっていうか」


 静かな時間が流れた。風がふき、黄砂を含んだ空気が河川敷を包む。夕陽がゆっくりと沈んでいく。


 「……たぶんさ」

 坂本が、ぽつりとつぶやいた。


 「俺たち、心が濁ってきたんだろうな。あいつは、きっと最後まで濁らなかった。でもな、濁るのも、悪いことばっかじゃないのかもな」


 「どういう意味だ?」


 「綺麗すぎると、生きづらいってこともある。人の裏も、理不尽も、飲み込んで生きていくには、少し濁ってた方が楽かもしれない。黄砂で空が濁るから、あんな綺麗な夕陽が見える……なんか、そんな気がしてな」


 誰もすぐには言葉を返さなかった。やがて、ひとりがつぶやく。


 「……そうだなぁ」


 もうひとりも、ビール缶を掲げながら言った。


 「たまには、汚れてみるのも……生き残る術かもな」


 そうして皆、黙って赤く染まる空を見上げていた。夕陽はゆっくりと沈み、黄砂の空は次第に闇へと変わっていった。


 だがその朱色の記憶だけは、胸の中に、鮮やかに残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ