第3話 夜の散歩
(オーグ視点)
夜の庭は静かだった。
昼間の熱を残した石畳に、月明かりが淡く落ちている。
私はオリバーと手をつないで、ゆっくり歩いた。
胸の奥がふわりと温かくなる。
「星が、よく見えるな」
「ええ。雲もありませんし」
その光は遠くにあるのに、私の胸の奥まで届くようで、鼓動が少し早まる。
「……きれいだ」
「はい」
オリバーは短く答えたあと、私の手を少し強く握る。
その温もりに、思わず心がぎゅっと締め付けられる。
「遠征の間、空を見るたびに思っていました」
「?」
「今頃、同じ星を見ているだろうか、と」
胸が締め付けられると同時に、温かい何かで満たされる。
「…私は、あまり見てなかった」
「そうでしょうね」
責める響きはなく、静かで柔らかい。
それが余計に、申し訳なくて、嬉しい。
「でもな」
「はい?」
「帰ってきて、こうして一緒に見られているなら、それでいい」
オリバーは一瞬だけ目を伏せ、それから静かに微笑んだ。
その笑顔に、胸が熱くなる。
―ああ、私は、本当に愛されている。
夜風が頬を撫でる。
私は無意識に、オリバーの方へ少しだけ身を寄せる。
「寒いですか?」
「いや……ちょうどいい」
本当は違う。
ただ、今この温もりから離れたくなかっただけだ。
ふいにオリバーが立ち止まる。
どうしたのかと顔を向ければ目が合い微笑まれる。
彼は何も言わず空を見上げる。
つられて見上げる。
無数の星が瞬き、静寂が二人を包む。
「…僕、最近、夜が好きになったんですよ。」
「何故?」
「ふふっ、だって貴方とこうして過ごせるんですよ?」
「…」
「それに、ほら、今夜の星空。」
「空?」
「貴方の瞳そっくりです。」
「は?」
「まるでダンネブルク家の青金石の瞳の様です。綺麗で、いくら見ても飽きない。」
オリバーと視線が絡む。
それが恥ずかしくて逸らした。
「…わ、私だって、君の…太陽に透ける新緑の様な瞳は好きだ。癒される。」
「ふふ、じゃあ、膝枕はお互い最高の体勢ですね。」
「…そう、かもな?…撫でてくれるのも、好きだが…。」
「ええ。僕も好きですよ。」
「…オリバー」
「はい、オーグ」
「また、帰ってくる」
「ええ」
それだけで十分だった。
手を繋いだまま、二人で星を見上げ続ける。
静かな夜の庭に、私たちだけの時間がゆっくりと溶けていく。
胸の奥に残るのは、温かさと幸福感――
遠征の寂しさも、もう、ほとんど消えてしまったように思えた。




