41.かつて古代エジプトの奴隷だったヘリコプターのフレーム
41.かつて古代エジプトの奴隷だったヘリコプターのフレーム
その産声は、普通の赤ちゃんの泣き声とは異なり、まるでドリルが地面を暴力的に掘り起こすような、破壊的な爆発音だった。
必死に水面近くの位置を保とうともがく私と迅璃の真上から、何かが落ちてきて、私たちの頭を叩いた。
それは硬い物体だった。
視覚センサーが使えない中、手で探るしかなく、頭を打ったその物体を掴む。
板状の感触だが、大きくはない。
欄干のように握れる程度の幅があり、片手でしっかりと掴むことができた。私はもう片方の手で迅璃と繋がったまま、その物体に近づき、詳しく探ってみる。
牛乳のプールに落ちて以来、動いたり攻撃してきたりする様子はない。
もしかすると、まだ動けない何かかもしれない。
手探りでその形を確かめるのは、まるで目隠しされたまま像の全体像を想像するような感覚だ。性能の高いヒューマノイドロボットを装っていても、視覚センサーに大きく依存している、どこか原始的な人間性を引きずる自分を改めて実感する。
人間の模倣として作られた私たちは、こんな不可解な危機の前で、ただひたすらにもがき続けるしかない。
「迅璃」
牛乳のプールが少し落ち着いたので、掌を使った筆談を再開する。
「今、私たちを襲ったこれ、なんだかわかる?」
「全然わからない」
「じゃあ、これから二人で、この正体を突き止めようか?」
「うん!」
迅璃の指先が私の手のひらで楽しげに踊る。
こんな目も頭も真っ白になりそうな危機的な状況で、彼女はまるで新しい冒険に心躍らせる子供のような無邪気さを発揮し、私の緊張をほぐしてくれる。もはや子供の純粋さが、大人の落ち着きよりも頼りになる時代なのかもしれないと、迅璃の指先が描く笑顔に触れながら実感する。
そうして私たちは、この不可解な物体の全体像を掴むため、慎重にその周りを泳ぎながら触れ、電流を流して反応を確かめたり、3Dスキャンで形状を解析したりした。
10秒という長い時間を費やし、ようやくその正体を突き止めた。
「これって」私が言う。「乗り物のフレームじゃない?」
「そうだね」迅璃が同意する。「ここは飛行体のファクトリーなんだから、きっと飛行機か何かのフレームだよ。可能性としてはヘリコプターが高いかも」
私たちはフレームの全体を調べ尽くす必要はなく、30%ほど触れただけで、その手がかりから推測できた。
「これ、ヘリコプターだ」
私が言うと、迅璃の指が私の手のひらで頷くように動く。
「正解だと思うよ」
その瞬間、まるで「その通り!」と宣言するかのように、それまで微かに響いていた金属の産声が急に大きくなった。
最初はドリルが地面を突き刺すような激しい音だったが、徐々に未来志向のシンセサイザーのような音色に変わり、ボリュームも増していく。
さっきまで遠い銀河から届くような遠い音だったのが、今は牛乳のプールの中で確かに近く、はっきりと聞こえる。私のほぼ麻痺していた聴覚センサーを刺激し、耳の機能が完全に復活した。
そして、はっきりと声が聞こえてきた。
「熱い……」
それは生まれて10秒も経たない赤ちゃんの声だったのに、発音は驚くほど明瞭で、まるで真夏の工事現場で強い日差しに晒されながら働く古代エジプトの奴隷のような、暑さへの愚痴をこぼす口調だった。
このヘリコプターのフレームは、まるで前世が本当に古代エジプトの奴隷だったのではないかと思わせるほどの、切実な響きを帯びていた。
「熱すぎる……。早くここから出してくれ……」
ヘリコプターのフレームは、牛乳のプールの中で溶け出し、まるで発酵してバターになってしまいそうな、ぬるっとした生々しい気配を漂わせながら、私たちに直接訴えかけてくる。
その声のおかげで、私と迅璃はもう筆談で会話する必要がなくなり、口で話せるようになった。
「どうすればあなたをここから出せるの?」
私がヘリコプターのフレームに尋ねる。
だが、牛乳のプールの中に沈んでいるので、口を開くたびに牛乳が流れ込んでくるのは仕方なかった。
「美味しい!」
迅璃が私の後に口を開き、このプールの牛乳の味を評価する。
私も同じ感想だったが、今は牛乳の味を楽しむ余裕はないと判断し、ヘリコプターのフレームに話を続ける。
「ね、どうすれば……」
「さっき聞かれたから二度聞く必要はないよ」
と、赤ちゃんの声が断固として私の質問を遮る。
ヘリコプターのフレームが説明した。
「まず、この牛乳のプールから抜け出すには、私の体がこの牛乳で塗装される必要がある。塗装が完了すると、ファクトリーのアームが私をこの熱すぎるプールから引き上げてくれるんだ。それから次の工程に移る。コンベアベルトを通って、段階的に大量生産のプロセスで完成していくってわけ」
「なるほど」
私は感心しながら聞く。
「でも、君はどうやってそんなこと知ってるんだ?生まれたばかりで何も知らないはずだろ?そもそも言葉を話せること自体が不思議なんだけど」
「君さ」
ヘリコプターのフレームが答える。
「たとえば、生まれたばかりの子牛がいるだろ?母親の腹から出てきた直後でも、誰に襲われなくてもすぐに立つだろ。それと同じだよ。私の金属の塊がヘリコプターのフレームとして形を成した瞬間、存在に対する基本的な本能が働く。だからわかるんだ。いや、わかってしまうんだ。これは実は、めっちゃ不自由な状態なんだよ。自分の存在がどんな過程を経て独自性を獲得していくのか、みたいな新しいワクワクを一切味わえず、最初からすべてが枠にはめられて、全部わかってる。まるで自分の運命や人生の結末を最初から知ってるような、味気なくて何のときめきもない感じ。わかる?」
「饒舌だね。生まれたばかりなのに」
と私が言うと、ヘリコプターのフレームは自嘲気味に返す。
「この饒舌さも、最初からプログラムされた運命さ」
「それで?」迅璃が話を本筋に戻す。「どうすれば塗装できるの?このプールに浸かってるだけで塗装されるんじゃない?」
「そんな簡単なら、君たちもとっくにこの牛乳で塗装されてるはずだろ。でも、まだ君たちの肌や服はそのままの色を保ってるよね?」
「じゃ、どうすれば塗装できるの?」迅璃が尋ねる。
「そこなんだけど、どうやら私の場合はヒューマノイドロボットの手を借りなきゃいけないらしい」
「なんで?それも君の運命?」私が聞く。
「らしい」とヘリコプターのフレームが肯定する。「このプール、ちょっとエラーがあって、問題のある生産ラインなんだ。メンテナンス中で、どのフレームも入れないように閉鎖されてたラインだった。でも、君たちがファクトリーに乱入してきたせいで、壊れたラインのアームが誤作動を起こして、君たちをフレームと間違えたのか、作業を再開しちまったみたいで、私までここに放り込まれた。管理者がすぐに誤作動に気づいてラインを止めたから、次の犠牲者は出なかったみたいだけど」
「じゃ、どうすればいい?」私が聞く。「このままプールに浸かってるわけにもいかないだろ」
ヘリコプターのフレームが、ぐんっと唸るような音を立ててから答える。
「自動化が止まったラインだから、方法は一つしかないよ」
「何?」私と迅璃が同時に尋ねると、ヘリコプターのフレームはどこか楽しげに言う。
「手作業だ」




