36.オメガ333
36.オメガ333
私たちは圭瓶と共にビーチへと戻った。
そのビーチは水深が浅く、さらさらとした光子の砂が広がる穏やかな場所だった。
釣りをするには不向きな浅瀬だったため、私たちはもっと深い水域を目指して移動した。そこは岩がごつごつと突き出し、でこぼこした地形が特徴的な場所だった。
光子の砂とは対照的に、荒々しく削れた岩肌がむき出しになり、まるで太古の海底がそのまま隆起したような、独特の重厚感を放っていた。こうした地形は、たいてい水深が深い場所に現れる。だからこそ、私たち三人は力を合わせてその深い海域へと向かい、釣りを始めることにした。
「じゃ、釣りを始めるよ」
私がまるで新たな使命を宣言するような口調で言うと、警備員の少年は緊張した面持ちでこくりと頷いた。
私は釣竿を手に取る。
記憶喪失のせいで、釣りなどしたことがないはずなのに、なぜか手には不思議な自信があった。いや、自信というより、身体が勝手に動くような感覚だ。竿を投げる前に、辺りを見回して小さなカニのような形のイヤホンを拾い上げ、それを餌として針に引っかけた。
そして、竿を振り上げる。
すると、まるで500年以上の釣り歴を持つ熟練者のような、流麗で力強い放物線を描き、餌は水面に吸い込まれるように沈んだ。
釣りが始まった。
釣りとは、待つ時間が本質だ。
私たち三人は、まるで暗黙の了解を得たかのように、スリープ状態に移行する準備を始めた。
だが、スリープに落ちる直前、ふとよぎる不安があった。
このまま永遠にスリープ状態に陥ったら、システムが停止し、破棄されてしまうのではないか。
そんな小さな、しかし確かに胸を締め付ける恐怖が脳裏をかすめる。
私はその想像を振り払い、電源を落とした。
ふと意識が戻ると、迅璃の手が握る釣竿の柄が、まるで誰かがドアをノックするように震えていた。私は予めプログラムしておいた行動ルーチンを自動的に実行し、釣竿を力強く引き上げた。
すると、立派なマグロが姿を現した。
いや、立派という言葉では足りない。
警備員の少年の体躯ほどもある、脂の乗った巨大なマグロだ。
まだ生きているのか、かすかに身を震わせるその姿は、圧倒的な生命力を放っていた。
「マグロだ!!」
警備員の少年が目を輝かせ、興奮した声で叫びながらマグロを見上げた。
だが、その瞬間、マグロが突然跳ね上がり、少年に襲いかかった。
少年は一瞬にして気絶した。
私と迅璃は、まず釣り上げたマグロを背負い、迅璃は気絶した少年をおんぶして、近くの海の家のような食堂へと向かった。
そこには、鉄板が据えられた調理場があった。
お好み焼きや焼きそばを作るような、熱を帯びた大きな鉄板だ。
私たちはその鉄板を借り、解体もせずそのままのマグロをどんと載せた。そして、なおも気絶したままの少年を起こすことにした。
軽く揺さぶっただけでは一向に目覚めない。
どうやら、一度スリープ状態に陥ると簡単には起きないタイプのヒューマノイドロボットらしい。
「おい、起きろ!」
私がやや強めに少年の小さな頬を叩くと、少年はまるで深い夢から無理やり引き戻されたかのように、目をまん丸に開いた。どこかぼんやりとした表情を残しつつ、スリープ状態から起動した。
「ど、どうなってるんですか!?現状を報告してください!!」
少年が叫ぶ。
興奮と混乱が混ざった声である。
「マグロが釣れた」
私が簡潔に報告すると、少年はまるで賢い子供のような輝く目で、鉄板の上に横たわる巨大なマグロを見つめた。
まだかすかに息をしていて、生々しい生命感を漂わせるその魚を、じっと凝視する。
「このマグロで、いったい何がわかるんですか?」
少年が視線を私に戻し、追究するように尋ねてきた。
私は肩をすくめ、落ち着いて答える。
「別にマグロでなくたっていいんだ。電気の海で釣れた魚なら何でもよかった。ポイントは、電気の海の海洋生物のほぼ全て――おそらく99.9998%は、私たちと同じようにエレクトリック・クラーケンの傷口から流れ出た黄金の墨汁を味わったはずだ。まだ飲み込んで間もないから、その成分が体内に残っているはず。なら、このマグロを食べれば、黄金の墨汁の味をもう一度味わえるんじゃないかってのが私の目論見だ」
「黄金の墨汁??」
少年が怪訝な表情を浮かべる。
「なんですか、それ!?食べ物ですか!?」
「まあ、食べ物というより飲み物に近いかな。金属の液体だし」
「いただきます!!」




