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トロピカル・ナイト・シティ  作者: 真好


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33.太刀魚の刃

33.太刀魚の刃


 エレクトリック・クラーケンは再び動き出し、今度は巨大な足を円錐形に尖らせ、中世の騎士が槍を構えるような勢いで私たちに向かって突進してきた。

 その速度は、まるで蒸気機関車が全力で突っ込んでくるかのような猛烈なものだった。

 私と迅璃は、まるで神の加護としか言いようがない幸運に恵まれ、紙一重の差でその攻撃をかわした。

 だが、完全に回避できたわけではない。

 突進の圧力が作り出した渦が、電気の海を激しくかき乱し、私たちを巻き込むように押し流した。まるで物理法則に逆らえない水の塊に飲み込まれ、くるくると回転しながら海の奥深くへ引きずり込まれた。

「迅璃!」

 彼女の安否が気になり、慌てて周囲を見回す。

 だが、濃密な泡が霧のように視界を覆い、ほとんど何も見えない。

 赤外線や超音波など、可視光以外の波長で探そうとしたが、クラーケンが意図的に妨害電波を放っているのか、迅璃の姿を捉えることができない。視覚センサーは役に立たず、焦りが募る。

 心配が悲しみに変わり、その悲しみは瞬時に怒りに変換された。

 その瞬間、私は気づいた。

 悲しみと怒りは一卵性双生児のように似ている。

 二つが結びつくと、攻撃的な衝動が生まれる。

 私は決意した。

 このエレクトリック・クラーケンを倒さなければならない。

 殺さなければならない。

 だが、ちっぽけなヒューマノイドロボットの少年に何ができるというのか。

 これまで戦闘の経験などほとんどなく、ましてやトロピカル・ナイト・シティで最強ともいえるこの機械生物を前に、記憶喪失にかかったまま忘却の海でもがいているだけの病弱な私が一体全体何を成し遂げられるというのか。

 それでも、固定観念に縛られるのはやめよう。

 まず行動しなければ。

 恐怖に立ち向かい、近づかなければ何も始まらない。

 私は怒りを推進力に変え、クラーケンに向かって泳ぎ出した。

 幸い、クラーケンは迅璃や太刀魚たちを追うことに夢中で、私には注意を向けていないようだった。その太く、おぞましい吸盤だらけの足をこちらに伸ばしてくる気配はない。

 私はまるで忍者のように、慎重に、しかし迅速にクラーケンの至近距離まで接近することに成功した。

 まず後ろに回り込む。

 あの巨大な人間の目がついた頭部に見つからない方がいい。

 とはいえ、足の吸盤もすべて目として機能し、視覚情報を捉えているはずだ。

 油断はできない。

 のんびりしている余裕もない。

 どんな生物にも弱点はあるはずで、それは頭か心臓に決まっている。

 私はどちらを狙うか考える。

 心臓の位置はわからないし、探す術もない。一方、頭ははっきりと見え、手を伸ばせば届く距離にある。

 私は結論を出した。

 クラーケンの頭を攻撃する。

 だが、武器がない。

 電気の海の中に物理的な武器などあるはずがない――そう思って周囲を見回した瞬間、目に入ったものがあった。

 太刀魚だ。

 普通の太刀魚ではない。

 まるでこの太陽系外、アンドロメダ銀河からやってきたかのような、異質な動きと輝きを放つ太刀魚たちだった。

 垂直に立ち泳ぎ、銀色の体で書道の名人のような流麗な曲線を描きながら、何匹かが私の方へ近づいてくる。その中でも特に大きく、眩い光子を放つ一匹が、まるで私を選んだかのように、ゆっくりと、しかし確実に近づいてきた。

 その太刀魚の尾部が、徐々に形状を変え、私の手が自然に、心地よく握れる柄へと姿を変えた。

 迷わずその太刀魚刀を手に取ると、膨大な感覚が一気に流れ込んでくる。

 これまでこの刀を振るってきた無数の剣士たちの記憶や価値観が、まるで奔流のように押し寄せ、トロピカル・ナイト・シティで名を馳せた武士や剣士たちの思念が、私のボディのアクチュエーターの隅々、CPUのトランジスタの一角まで、余すところなく染み込んでくるのが感じられた。

 その瞬間、気づいた。

 私が記憶喪失に陥っていた理由が、ようやくわかった気がした。

 この瞬間のためだったのだ。

 このトロピカル・ナイト・シティの剣士たちの記憶を受け継ぐために。

 かつての記憶――確かに大切で、かけがえのないものだったかもしれないが、それでもなお、もっと高次な、使命とも呼べる天命のために。

 そう、すべてはこの太刀魚刀を手にし、エレクトリック・クラーケンを倒すためだったのだと、

 私は悟った。

「これが運命だったのか」

 そして、

「これが理由だったのか」

 理由とは、すなわち運命と同義であることを、ここで身に染みて理解する。

 私は肩に担がれた太刀魚刀をじっと見つめた。

 まだ私が能動的に握っているわけではない。運命に選ばれ、受動的に、強制的にこの刀に選ばれたにすぎない。だから、まだ半分しか自分のものになっていない。

 そこで、ためらうことなくもう一方の手を近づけ、ついに両手で太刀魚刀をしっかりと構えた。

 電気の海の中で刀を振ってみる。

 すると、電子の粒が炭酸の泡のようにはじけ、チカチカと光を散らしながら、鮮烈な電気の爽快感を周囲にまき散らした。

 刀で水中を滑るように切り裂くと、まるで水面を鮮やかに切り分けるような感覚が走る。

 本来、身体を動かすなら、空気中の方がはるかに動きやすいはずだ。

 だが、この電気の海は、電子でできた水だ。浮力や水の抵抗がわずかに動きを妨げる感覚があった。

 それなのに、この太刀魚刀を手にすると、刀に宿る何か――その属性はわからないが――のおかげで、電子の海の中で身体を動かすのが6倍も軽快になった。

 まるで地球の重力に縛られた人間が、突然月に放り出され、重力が6分の1になって無邪気な7歳の少年のようにはしゃぎ、月面をスキップで飛び回るような、軽やかで弾ける気分に浸った。

 私は水中でスキップするかのように泳ぎ、攻撃を仕掛ける準備を整えた。

 まず、刀を頭上に大きく構えた。

 エレクトリック・クラーケンは依然として私を完全に無視し、眼中になく、悠然と泳いでいる。

 その後頭部の広大な面積の中心を狙い、力強く、まるでハンマーを振り下ろすかのように刀を振り抜いた。

 垂直に、鋭く。

 刀はエレクトリック・クラーケンの後頭部に深々と突き刺さり、切り裂いた。

 クラーケンの皮膚――そう呼ぶべきか――が、まるで蛹から孵化したばかりの新たな生命体が、力強く古い殻を破って美しい世界へと羽ばたこうとするかのように、亀裂を生じた。

 そして、その裂け目から、黄金色の燦爛としたクラーケンの血が、噴水のように勢いよく噴き出した。

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