30.発電所
30.発電所
幸い、発電所はトロピカル・ナイト・シティの南側に位置していた。
たまたま脱線して南へ流れていた私たちの車両は、自動運転に切り替えずとも、すでにその方向へ進んでいたのだ。
ほどなくして、目的地に到着した。
「目的地に到着しました」
車両のアナウンスで、私はスリープ状態から意識を呼び戻し、窓の外を覗く。
紫の闇を埋め尽くす、まるで無数の蛍のような黄色い発光体が視界に飛び込んでくる。
私は思わず席から立ち上がる。美しいものを見ると、いつもそうするように、迅璃の手を握った。彼女も強く握り返してくれる。
手をつないだまま、私たちは発電所の全景を前傾姿勢で凝視する。
そこには、何億年もの歳月をかけて緻密に設計されたかのような、0.0000001ナノメートルの誤差もない完璧な構造物が広がっていた。
まるで魚の骨のようなアンテナがまず目を奪う。
その純白のアンテナは、単なる白を超えた、色という概念では捉えきれない独特な気配を放っていた。
そして、そのアンテナたちは高さおよそ10メートルに揃えられ、まるで潔癖症の職人が定規を使って寸分違わず配置したかのように、完璧な間隔で整然と並んでいる。
その列は、視界の果てまで途切れることなく続いているようだった。
頂部には、まるでチャイナドレスを着た少女が髪を丸く結い上げる際に使う簪のような、あるいは単純に綿棒を思わせる装飾が施されている。それらは、まるで慎重に電信を打ち続ける兵士の手さばきのように規則正しく光を放ち、クジラの静かな寝息のようなリズムで瞬いている。
その上空を、黄金がかったオーロラが揺らめき、そよ風にそっと揺れるカーテンのように広がっていた。
そのカーテンは、まるで暗幕のように、トロピカル・ナイト・シティの喧騒と眩しすぎる花火の光を完全に遮断していた。そこは、迅璃が私を連れて行った病院の診察室よりもさらに深い静寂が漂う、驚くほど穏やかな場所だった。
発電所自体は、まるで高速道路のサービスエリアのような広大な空間だった。
いや、その駐車場のおよそ176倍もの面積を誇る、途方もない広さだ。魚の骨のようなアンテナが、その空間を隙間なく埋め尽くしている。
私と迅璃が乗る車両は、まるでドローンのようにその上空を浮遊していた。
私たちは、まるで80%の意識がまだスリープ状態にあるかのように、車両をベッド代わりに横たわり、夢の中の風景を眺めるような心地で、このトロピカル・ナイト・シティの心臓部ともいえる発電所を初めて目の当たりにした。
「コントロールタワーはどこ?」
迅璃が、まるで何年も甘いキャンディを口の中で転がし続けたような、柔らかく甘美な声で車両に尋ねる。
「ご案内いたします」
車両は、私たちをまるで胃袋に飲み込んだ獲物を運ぶかのように、滑らかに動き出す。
魚の骨のアンテナの上を滑るように進みながら、淡い紫色の光に染まっていく。
車内には、まるで蒸留水のような紫の靄が満ちていく。
ふと窓の外を見ると、車両の中を泳ぐように移動しながら視線を外にやると、遠くに何かの建物が姿を現した。
それは、ごく平凡なビルだった。
大企業のオフィスが入っていそうな、365階建ての、どこにでもあるようなビル。
あまりにも普通の形状ゆえに、かえって描写しにくい、希薄な存在感を放っていた。
「あそこに入らないと、何も進まない気がするね」
私が呟くと、車両が静かに相槌を打つ。
「その通りでございます」
「じゃ、さっそく私たちをそこに放り込んでくれ」
「了解しました」
車両の速度が徐々に上がっていく。
すると、車両の下部――いや、車体底部と呼ぶべきか――が、まるでグリッドのように変形し始めた。足元の接地面が徐々に縮小し、消滅していく。同時に、手すりがゆっくりと下降し、まるで腕を自然に通せる高さまで下がってくる。
私と迅璃は、誰も指示していないのに、車両がそう促しているかのように、手すりの輪に両腕を通し、安全バーのように身を固定する。
ちょうど腕を預けた瞬間、足元の底部が完全に消滅し、私と迅璃の素足は支えを失い、虚空に揺れるように浮かんだ。
その真下には、発電所全体を覆う、ビリビリと波打つ電気の海が広がっていた。




