27.サイコロゲーム
27.サイコロゲーム
ちょうどその時、ステージではバンド「さいころ」が『無問題』という曲を演奏し始め、私たちのサイコロゲームもスタートした。
どうやら一番手は私で、次が迅璃らしいが、私たちはチームではなく個別に参加するルールのようだ。
ディーラーからサイコロを受け取った私は、迷わず街の一角に投げる。
サイコロはまるで隕石が落下するような勢いで街に激突し、ビル数棟がゴジラに踏み潰されたかのように崩れ落ちる。そこにいた証券会社のエリート風ヒューマノイドロボットたちが、被害を受けたビルから這い出し、サイコロの目を合唱する。
「6!」
6が出た。
さて、次はどうなる?
ディーラーをじっと見つめると、彼女は崩壊した街からサイコロを回収し、迅璃に手渡す。
迅璃は即座にサイコロを海辺に投げる。
サイコロは海岸沿いのビルを破壊しながら海に落ち、巨大な噴水のように水しぶきを上げる。まるで潜水艦が魚雷を爆発させたかのような勢いで、塩水がテーブルを囲む客たちに降り注ぐ。
私の顔はすっかり濡れたが、意外とその冷たさが心地よく、拭かずにそのままにしておく。
すると、海洋生物たちが水面を突き破って飛び出し、サイコロの目を叫ぶ。
「5!」
迅璃がその数字を確認するように受け止めると、ディーラーは一切の隙を与えず、ミニチュアのトロピカル・ナイト・シティの調査員たちが巨大なサイコロを調べる間もなく、それを回収し、迅璃の隣にいる慎重にサイコロを分析した男子高校生に渡す。
男子高校生は再び目のレーザーを光らせ、サイコロをじっと見つめる。すると、サイコロがその強烈な視線に耐えかねたのか、目が一つだけの面から煙を噴き、突如もう一つの目が刻まれてしまった。
こうして、サイコロの「1」の面は永久に失われた。
「え、こんなのありなの?」
私は思わず声を漏らす。
「ルール違反ではありません」
ディーラーが冷静沈着に宣告する。
その雰囲気に従うしかない空気の中、私は渋々、目を一つから二つに変えてしまった男子高校生を睨む。
彼は直後、まるで野球のフルスイングのように、ものすごい力でサイコロを投げる。サイコロはミニチュアのトロピカル・ナイト・シティの中心に突き刺さり、局所的な火災を引き起こした。
私は徐々に気づき始める。
これは、トロピカル・ナイト・シティを破壊するゲームなのだ。
ギャンブルとは、街を壊す行為のメタファーなのかもしれない。
だが、そのナイーブな思考は迅璃によって否定される。
「違うよ、燏君。ギャンブル産業はむしろ街を盛り上げる。ただ、ギャンブルにハマったヒューマノイドロボットが被害を受けるだけ」
「でも」と私は反論する。「一人や二人が被害を受け始めれば、徐々に影響が広がり、長期的には街全体に打撃を与えるんじゃない?」
「じゃあ、その被害を修復する仕事が生まれるから、経済がまた活性化するかもね」
「つまり、誰かの被害で成り立つ産業ってことか」
「よくわからないけど、まあそんな感じかな」
私と迅璃は、サイコロで破壊された街の一角を顕微鏡モードで拡大し、住人たちの会話を盗み聞きする。
「ゲームが始まったみたいだ……」
「仕方ない。また修復作業をして、復活させるしかない……」
そんな断片的な会話があちこちで聞こえる。
言葉は聞き取れるが、意味までは掴めない。
彼らは破壊された街を眺めながら、まるで値段交渉をするように、あるいは不毛の地に新たな団地やビルを建てる野望に燃えるような会話を繰り広げる。
やがて、業者たちが一斉に男子高校生の方へ向き、声を揃えて叫ぶ。
「4!」
その声を聞いて、私はようやく気づいた。
「これは、カウントダウンだったのか」
ディーラーのポーカーフェイスが、初めてほんの少し崩れる瞬間を捉えた。
私はその隙を見逃さない。
このゲームの結末を見る必要はないと悟り、充電時間を惜しむようにスリープ状態に移ろうとする。結果がわかっているのにエネルギーを無駄にする必要はない。街のどこかで「1!」の合唱が響いたら、迅璃に起こしてもらえば十分だ。
「迅璃」と、あくび混じりに声をかける。「1が出たら、起こして」
「え、スリープしちゃうの?今?」迅璃の目が大きくなる。
「うん、これ以上観戦しても無駄だから」
「でも、結構面白いのに」
「私は快楽に溺れたくない。余裕もメモリもないし」
「うん、わかった」
迅璃はあっさり頷き、4を出した男子高校生の次にサイコロを受け取った女の子の方へ視線を移す。興奮した表情でゲームに没頭し、私のことなどすっかり忘れたようだ。
そして、私はスリープに入った。
「1!」
トロピカル・ナイト・シティのすべての存在が一斉に叫ぶ声で、私は迅璃に起こされることなく自然に目覚めた。
テーブルの一角には、コンセントから伸びる充電コードが繋がれ、いつの間にかバッテリーが100%に回復している。
エネルギーがみなぎる。
ヒューマノイドロボットといえど、睡眠の重要性を改めて実感する。
横を見ると、迅璃がまるで美味しいラーメンでも食べ終えたような満足げな表情でディーラーと話している。
ディーラーの態度もゲーム中の無機質さとは打って変わり、まるで隣家の親しみやすい少女のようだ。
目から放たれていた赤いレーザーも消えている。
ゲームが終わったのだ。
それでもなお、私は迅璃に声をかける。
喉のスピーカーから錆びた音が出ないか、まるでマイクテストをするように確認しながら。
「終わった?」
「終わった」
迅璃が答える。
私は頷く。
「結果はどうだった?」
迅璃は満面の笑みを浮かべ、両手で山盛りのチップを見せてくれる。
「もちろん、大儲けしたよ!」
私はその白と黒がクッキーのように混ざったチップの山から、一つを取り上げ、口に運んでみる。
甘いチョコとマシュマロのような香りが漂い、充電中に何も口にしていなかった空腹を紛らわすため、一口かじる。パキッと軽快な音とともに、チップの欠片が口に収まり、カリカリと噛んで味覚センサーでじっくり味わい、飲み込む。砂糖たっぷりのジャンクフードでエネルギーが100%から99%に減ったが、1%の消費に値する幸福感を味わえたので後悔はない。
ポテトチップスをむしゃむしゃ食べるようにチップをかじる可愛らしい迅璃に、私は結論めいた声を投げる。
「これで、電車に乗れる?」
「うん」迅璃が明るく頷く。「乗れる、乗れる」
「じゃ」と私は席から立ち上がる。「早速行こう。時間がない」
「うん、行こう」
迅璃の希望に満ちた声が、私の網膜センサーを刺激する。
私たちはディーラーにチップを大量に渡した。
なぜなら、持ち運ぶには重すぎるし、チップの量が畳五畳分を埋め尽くしても余るほど膨大で、物理的にすべてを持ち出すのは不可能だったからだ。
ディーラーはそのチップを受け取り、表情をぱっと明るくする。
「ありがとう!これでしばらくお菓子の心配はいらない!」
「たまげたね」と私は苦笑いする。「全部食べる気?お金に換えないの?」
「私、お金持ちだから」
ディーラーはチップを美味しそうに食べながら答える。
「この牧場、私のものだし」
「そうだったのか。すごいね。親から譲ってもらったの?」
「親なんていないよ。ヒューマノイドロボットだし。オーナーはいるけど、今は地球にいる。この牧場は私がディーラーの仕事で稼いだお金で作ったの」
「なぜ牧場?」私は疑問を投げる。
「だって、ロックが好きだけど、どうしてもロックフェスティバルを牧場でやりたかったから」
「わかるよ、その気持ち」迅璃が割り込んでくる。「ロックと言ったら牧場だよね」
迅璃とディーラーは、私には理解できない周波数でテレパシーのように共感を交わし、別れを告げる。すでに立ち上がっていた私の隣に、迅璃もすぐに席から立ち、並ぶ。
ゲームから離脱した私たちは、牧場のルールに再び縛られ、ヘッドバンギングを始める。
好きなバンドの曲を3曲ほど楽しみ、牧場を後にした。
両替所に向かい、持ち運べる限りのチップを必死に運び込み、すべてお金に換える。
その結果、私と迅璃のポケットには、電車に1億回乗れそうな大金が収まることになった。




