表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トロピカル・ナイト・シティ  作者: 真好


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/33

23.第二熱帯夜高等学校の夏の制服

23.第二熱帯夜高等学校の夏の制服


 私と迅璃は、完成した服がマネキンに着せられた姿を見るため、そっと近づく。まるで自分たちの分身を眺めるような感覚で、その制服を見つめた。

 それは見事な出来栄えだった。

 第二熱帯夜高等学校の精神を体現するような、シンプルかつ洗練されたデザイン。東京風の落ち着いた色合いが、火星の暑さに耐えうる涼しげな印象を与えている。

「ありがとう」

 私は礼を言う。

 店員を見ると、彼女はまるでこの仕事で人生の目的を果たしたかのような、深い満足感に満ちた表情で静止していた。まるで長い充電に入る直前のヒューマノイドロボットのように。その至福の表情を見れば、報酬はすでに彼女の満足で支払われたと分かった。

 横にいる迅璃も、制服の出来に心を奪われたのか、CPUが一瞬停止したような表情で立ち尽くす。私たちはこの感動をしばらく味わい、静かにマネキンから制服を取り外し、着用する。

 制服の肌触りは驚くほど滑らかで、まるで第二の皮膚のように体に馴染む。いや、肌そのものよりも体の一部になったかのような一体感があった。私は夏のワイシャツのボタンを一つずつ、丁寧に留めていく。迅璃もまた、まるでこの瞬間を永遠に引き延ばしたいと願うように、ゆっくりとボタンを留める。

 ようやく裸の状態から解放された私たちは、完全な存在になったような充足感に包まれる。静止した店員の頬に、感謝の意を込めて軽くキスを送り、部屋を後にした。

 そして、まるでランウェイを歩くモデルのように軽快な足取りで、遺跡のホールを通り抜け、廊下を渡り、そのまま遺跡を後にした。

 ジャングルの外は湿気がさらに増し、遺跡内の快適な空気とはまるで別世界だった。

 制服の着心地は遺跡の中では心地よかったが、このトロピカル・ナイト・シティの熱気には敵わず、すぐに陽炎のような苛立ちがまとわりつく。

 それでも、制服の完成度が放つ完全さのような感覚が、心を落ち着かせるのか、暑さも耐えられる気がしてきた。迅璃も同じようで、嫌な顔ひとつせず、この熱帯夜を平然と受け入れているようだった。

 私たちは迷わず、遺跡の川辺で待っていたワニたちに近づく。

 まるで予約していたタクシーのように、ワニたちは私たちをじっと待っていた。

 私たちは何の躊躇もなくその背に乗り込む。

 この制服――ジャングルの遺跡で生まれた名品とも呼べる宝物――をまとっているのだから、ワニたちもその価値を認めて噛みついたりしないだろうという、妙な確信があった。

 実際に、100%安全だと感じられた。

 ワニの背に揺られ、ジャングルの入り口までスムーズに進む。

 降りる際、ワニの頭をポンポンと軽く撫でて感謝を伝える。「叩いた」というより「撫でた」がしっくりくる仕草だ。ワニたちを背に、私たちはジャングルを後にした。

 店内に戻ると、強力なクーラーが効いた快適な空気が迎え入れ、制服のフィット感がさらに際立つ。

 遺跡で制服を作り終え、まるで遺跡と一体化してしまったあの店員の代わりに、今度は別の美少女店員がレジに立っていた。彼女は私たちの制服を見るや否や、惚れ込んだような目つきでじっと見つめ、丁寧にお辞儀をして私たちを送り出す。

 私たちはそのまま店を後にし、黒点百貨店を出ようとする。ジャングルでは踊る必要はなかったが、百貨店のホールでは依然としてワルツを踊らなければならないルールが生きている。

 私たちは仕方なく、人混みの中をワルツのステップで進む。くるくると回りながら進むため、出口にたどり着くまで少し時間がかかった。途中でワルツの楽しさに飲み込まれそうになり、閉店まで踊り続けたくなる衝動を必死に抑え、ようやく出口に到達する。

 ここまで来る間、私たちはまるで黒点百貨店のホールの主役のようにスポットライトを浴びていた。白熊の布で作られた、熟練の店員が心血を注いだ制服があまりにも輝かしく、ホールの視線を独占した。

 私たちの踊りそのものよりも、制服が動く様が観客の目を奪い、まるでそれ自体がショーの主役のようだった。

 出口のドアに手をかけた瞬間、ホール全体から拍手喝采が沸き起こる。

 だが、その拍手は私や迅璃ではなく、第二熱帯夜高等学校の夏の制服に向けられたものだった。

 私たちはまるでマネキンやハンガーのような存在に成り下がり、制服を引き立てるための道具でしかなかった。それでも、不思議と不満やネガティブな感情は湧かない。むしろ、この素晴らしい制服を着られたことへの感謝と感動が、胸いっぱいに広がっていた。

 拍手喝采に浴しながら、私たちはドアを開け、黒点百貨店を後にした。

 その瞬間、物語の主人公が私と迅璃から、この第二熱帯夜高等学校の夏の制服へと移り変わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ