22.オーダーメイド
22.オーダーメイド
こうして私たちは遺跡に到着した。
ピラミッドの形をしており、高さは5階建てのビルほど。
階段状の幾何学的な美しさが際立ち、ところどころ黄金色の苔や蔓に覆われ、鳥たちが巣を作り、観光客のヒューマノイドロボットが座って写真を撮っていた。
「え、ここって私たち以外にもヒューマノイドロボットがいるんだ」
迅璃が尋ねると、店員が答える。
「そうですよ。入口は私たちが入ったところだけじゃないので」
「全部このブランドの所有なの?」
「所有というより、借りてるんです。来月からは別のブランドが入ります」
そんな話をしながら、遺跡の中へ入った。
中はまるで強力なクーラーが効いているかのように、ジャングルの濃厚な湿気とは対照的に乾燥しすぎていて、歩くだけで静電気がパチパチと弾けるほどだった。
「ちょっと乾燥しすぎじゃない?」
私が不満を漏らす。
「加湿器つけた方がいいんじゃない?」
「ここは水に弱い精密機械が多い場所なので、控えめにしてるんです」
店員が説明する。
「すぐ慣れると思いますよ。服が完成するまでですから」
「完成までどれくらいかかる?」
「それは言えませんね。こんな素晴らしい素材で服を作った経験がないので、予想がつかないんです」
「でも、あんまり時間かからないでほしい。頼む立場で悪いけど、私、余命が長くないんだ」
「そうですか」
店員が少し苦悩するように顔をしかめる。
「完璧主義に陥らないよう、努めます」
遺跡の中を見渡すと、薄暗いダンジョンのような雰囲気が広がっていたが、壁には松明が規則正しく並び、まるで鉱物の原石をそのままくり抜いて嵌め込んだような無骨なシャンデリアが一定の間隔で吊り下げられている。
進むにつれて、空間は高級ホテルのロビーのような洗練された趣と、風変わりな博物館のような好奇心をそそる雰囲気を帯びてきた。
多くのヒューマノイドロボットが周囲を行き交い、写真を撮るのに夢中で立ち止まる彼らを巧みにかわしながら、私たちは店員の後ろをついていく。シャッター音に触れないよう注意深く進み、ついに「衣装室」と書かれた表札のドアの前にたどり着いた。
店員がノックするが、反応はない。
「ラッキーですね」と彼女が言う。「貸し切りです。これは火星の神様が最高の制服を作れと導いてるに違いありません」
店員がドアを開け、私たちは衣装室へ足を踏み入れる。
最初、部屋はがらんとした印象だったが、それはホログラムのようなヴェールに隠されていただけだった。まるで滝の水が薄い幕のように垂れ下がり、可視光線を完全に遮断している。視覚センサーを切り替え、赤外線や紫外線を捉えるモードにすると、部屋の全貌が徐々に浮かび上がってくる。
ヴェールを抜けると、通常の視覚センサーでも部屋の様子が捉えられるようになった。そこはまるで少女の夢、あるいは少し言い過ぎかもしれないが、妄想に満ちた秘密の部屋のような空間だった。手の込んだ棚やクローゼットが整然と並ぶ一方で、未就学児がクレパスで殴り書きしたような無秩序な形のデスクや椅子も散見される。
それでも、必要なものはすべて揃っている。
ベッドの上には、庭園の一角を思わせる緑豊かな植物が茂り、壁紙にはこの世のあらゆるキャンディーブランドを網羅したかのようなカラフルな模様が散りばめられていた。
目まぐるしくも、どこか心を満たすような雰囲気が漂っている。
店員が部屋を見回し、私たちを手招きする。
「こちらへどうぞ」
彼女は私たちを大きな全身鏡の前に案内した。鏡は私と迅璃の全身が余裕で映るほどの大きさで、その前には赤い円形のカーペットが、まるで小さな舞台のように敷かれている。
店員がそこを指さし、指示する。
「ここに立ってください」
私と迅璃は、まるで演劇部の練習で舞台に上がる学生のような、少し緊張した面持ちでそのカーペットの上に立つ。どこか俳優になったかのような気分だった。
店員がメジャーを持って近づいてくる。
彼女はしばらく私たちをじっと見つめ、指先で軽く触れるように、くすぐるように、私たちの裸の体を足から頭まで丁寧になぞる。その感触は一瞬ぞっとするような感覚を呼び起こしたが、同時にどこか新鮮で、恍惚感すら覚える体験でもあった。
本格的に測定が始まる。
メジャーが私たちの体に当てられ、まるで最先端の医療機器で体の内部を隅々まで診断するかのような、開放感と無力感が混ざった感覚が広がる。そのメジャーが這う感触は、まるで清らかなミミズが体を浄化するように這うような、奇妙な心地よさを与えてくれる。
測定が終わると、店員がようやく声をかける。
「測定完了。お二人とも、素晴らしいボディですね」
その褒め言葉に、私と迅璃はただ互いを見つめ合う。
そこには、メジャーという「ミミズ」に浄化されたような清潔な喜びが静かに滲んでいるだけだった。
続けて店員が告げる。
「これから服を作ります」
彼女は部屋の一角にこぢんまりと置かれた木製のデスクと椅子に向かう。
まるで久しぶりに帰った自室の家具を懐かしむように、優しくテーブルと椅子を撫でる。その仕草は、どこか土手に佇む風景に溶け込むような自然さがあった。
椅子を静かに引き、腰を下ろす。
デスクと椅子は、まるで本当の主人を迎え入れたかのように、彼女にぴったりと寄り添っている。
店員はまるでこの場に完全に溶け込み、居場所を見つけたかのような雰囲気を漂わせていた。
店員は私たちの全身を測り終えた手を、まるで手術室に入る直前の医師が消毒を終えたかのように丁寧に掲げ、移動する。
「それでは、作業を始めます」
聖女のような神聖な声でそうつぶやくと、私はその声に引き寄せられるように、ほとんど無意識に体が動き、白熊からもらった布を手渡した。店員はそれを、まるで神聖な儀式に用いる貴重な品を扱うように慎重に受け取り、作業台の上にそっと置く。
皺一つ寄せないよう、ゆっくりと広げていく。
今まで雑に扱ってきた布だが、彼女の手つきのおかげか、急にその価値が際立つ。まるで茶室で抹茶を点てるような厳かな動作で、布の存在感が一気に高まった気がした。光沢のある白い毛並みが、部屋の薄暗い光の中でかすかに輝き、まるで生きているかのように見えた。
店員はそれきり一言も発さず、裁縫作業に取りかかる。
まず、鋭いハサミで布を正確に切り出し、断面がほつれないよう慎重に縁を処理する。次に、旧式のミシンを起動させ、針がリズミカルに上下する音が部屋に響く。時には手縫いで細かなステッチを施し、糸のテンションを指先で確かめながら、まるで彫刻家が石を削るような集中力で布を形作っていく。
ピンで仮止めしたり、チョークで印をつけたりしながら、彼女の手はまるで指揮者のように流れる。ミシンの機械音と手作業の静かな動きが交錯し、服が少しずつ命を吹き込まれていく。
彼女が完全に没頭する中、私と迅璃はただ立ち尽くす。
彼女の集中を乱さないよう、アリの足音さえ気にするほどの静寂を保つ。まるでスリープモードに入ったかのように体を固定し、息を潜めて待つ。時間は長く感じられたが、不思議と不満は湧かない。この瞬間が、かけがえのないもののように思えた。
部屋全体が、彼女の創作の熱に満たされている。
13秒という、まるで永遠のような時間が過ぎ、店員がようやく手を止める。
猫背気味だった背筋がゆっくりと伸び、彼女は顔を上げる。その視線が私たちに向けられる瞬間、彼女の目はどこか別世界を覗いたような、取り返しのつかない変化を宿していた。
「服が完成しました」
その声は、まるで自分の存在理由を全うしたかのような確信に満ちていた。




