13.DIVE
13.DIVE
白熊のせいで、車の速度は3分の1に落ちてしまった。
だが、巨大で愛らしい存在が後ろに加わったことで、単調になりかけていたドライブに新しい風が吹き込んだような、弾むような活気が生まれた。
速度が落ちると、それまで強い向かい風に紛れて忘れていた暑さが再び蘇ってくる。汗がにじみ、疲労感が襲ってきた私は、迅璃に頼んでハンドルを渡した。
「ちょっと運転代わってくれる?」
「うん、わかった」
ハンドルを握りながら、迅璃が心配そうに私を見つめてくる。
「大丈夫?」
辛うじて苦笑いを浮かべたが、「大丈夫」と答えることはできなかった。
嘘になるからだ。
ヒューマノイドロボットは嘘をつけない。
嘘をつけば、大きな電波ノイズが発生して周囲にバレてしまう。真実と好奇心を何より重んじるヒューマノイドロボット社会では、真実に反することは排除されるリスクがある。まあ、そもそも嘘をつく気もないのだが。
素直に「頭痛がちょっとひどい」と伝えようとしたが、言葉を発する間もなく、激しい頭痛に襲われた。なぜこんなことに、と思ったら、気づけば首からマフラーが外れていた。
ぞっとする。
まさか、ぼんやりしている間に車外に飛ばされてしまったのかと焦ったが、幸いマフラーは車内にあった。正確には、白熊が自分の首に巻いていたのだ。
私が詰問するように白熊を睨むと――頭痛がひどすぎて声を出せなかったから、視線で訴えるしかなかった――白熊は慌てた表情になり、急いでスケッチブックに書き込んで見せてきた。
『あ、ごめん。暑そうにしてたから、苦しそうだったから外してあげただけ!』
「……」
頭痛があまりにもひどく、半分シャットダウン状態で白熊をただ見つめることしかできないでいると、白熊は私が怒っていると勘違いしたのか、急いでスケッチブックをめくり、次の言葉を書いて見せてきた。
『だって、俺、裸だから。恥ずかしいじゃん?』
今さらかよ、と心の中で突っ込むが、その思考だけで頭痛がさらに悪化し、私はそのまま倒れてしまった。
「燏君!」
迅璃が驚き、いや、完全に慌ててハンドルを白熊に放り投げ、私に駆け寄って支えてくれた。
「マフラー……」
私は辛うじてその言葉を絞り出す。迅璃は強く頷き、白熊からマフラーを奪うように取り戻し、素早く私の首に巻き直してくれた。
だが、頭痛は一向に収まらない。その間、なぜか車体が揺れているような感覚がした。見ると、車が車線を外れ、左右に激しく揺れ始めていた。白熊が明らかに冷や汗で白い毛並みを濡らしながら、必死にハンドルを握っているのが見えた。
「ちょっと、あんた、免許持ってないの?!」
迅璃が白熊に詰め寄ると、白熊が初めて直接声を上げた。
「ペーパードライバーだよ!」
「だからドクターペッパー飲んでたのか!」
「それは関係ない!」
白熊が叫んだ瞬間、車が道路を外れ、高架道路の端に脱線した。
そして、ガードレールに激しく衝突し、そのままスキージャンプ台のように高架道路から滑り出し、虚空へと飛び出した。
凄まじいスピードで車が空中に放り出され、まるで飛行するかのような感覚に包まれる。
パニックと急激な風圧のおかげで、頭痛は一時的に和らいだが、車は直後に墜落を始めた。
屋根のないオープンカーだったため、私たち3人は車から弾き出され、放り出されるように空中に投げ出された。
私は仰向けのまま、トロピカル・ナイト・シティのネオンライトが渦巻く一角に向かって落ちながら、ふと白熊が墜落中にスケッチブックに書いた文字を目にした。
『DRIVE(×)、DIVE(〇)』




